SCPにおけるキャビテータの効果の研究
Study on Effect of a Cavitator on a Supercavitating Propeller
工藤 達郎 (船舶技術研究所) 住野 吉胤 (三信工業株式会社) 右近 良孝 (船舶技術研究所)
Tatsuro KUDO, Ship Research Institute Yoshitsugu SUMINO, Sanshin Industries Co.,LTD. Yoshitaka UKON, Ship Research Institute
Summary
A supercavitating propeller (SCP) that has high efficiency under supercavitating condition is suitable for a high-speed vessel. To design a SCP with higher efficiency a thinner cavity is recommended. Often in that case, however, supercavitation does not occur as expected, so that the thrust becomes less than the design value and the efficiency becomes lower. In order to obtain the predicted thrust and high efficiency, it is neccessary to let stable cavitation occur from the leading edge as predicted by theory. The authors propose a new cavitator that stimulates cavitation by a small backward gap near the leading edge on the backside surface. By comparative tests between propellers with and without the cavitator, it was clarified that the cavitator is effective in stimulating a stable supercavity and increases the efficiency.
1. 緒 言
従来の舶用スクリュー・プロペラでは、船が高速になりキャビテーションの発生量が増大すると推力が低下し、効率も悪化する。そのような高速域で使用することを前提に設計されるプロペラとして、SCP(スーパーキャビテーティング・プロペラ)があり、これはキャビテーションがプロペラ翼のほぼ全面を覆い尽くすような状態において、高い効率を発揮するという特質を有する。
SCPはシート状のキャビテーションが翼の前縁から後援後方までを覆う状態を前提として設計されるが、高い効率を追求するためにはそのキャビテーションが極力薄くなるように設計する必要がある。しかし、そのように設計されたSCPでは、しばしばキャビテーションが前縁から意図通りに発生せず、そのためにトルクおよび推力が設計値よりも大きくなったり、不安定な変動力の原因となったりすることがある。この現象を防止するには、安定したシート状のキャビテーションを発生させる必要がある。
一般に、シート状キャビテーションは翼前縁の層流剥離点をきっかけとして発生することが知られている。キャビテーションを安定させるには、安定した剥離を起こせば良いとの考えから、本論文では翼の前縁にキャビテータと呼ばれる細い溝を設け、強制的に剥離を引き起こすことによりキャビテーションの発生を安定化させる方法を提案し、その効果を模型実験によって検証する。
2. キャビテータの構造及び原理
従来から、キャビテーション試験法の分野においては、模型試験におけるキャビテーション発生の現象や不安定性を解消するために、トリップワイヤ法、前縁粗さ法など、前縁からの剥離を促進する手法が用いられることがある。しかし、これらの方法はいずれも翼前縁に付加物を取り付けるため、キャビテーションは発生するもののその厚さが厚くなり過ぎる傾向にあり、これは翼断面抗力の増加、ひいてはプロペラトルクの増加を招く原因となる。模型試験では試験目的によって(変動圧力試験のように)トルクが多少増加しても、キャビテーションの発生が安定した方が好ましい場合もあり、そのような場合にこれらの手法が使われる。しかし、実機においてはトルクの増加は即ち効率の低下につながるので避けなければならない。
そこで、筆者らはキャビティの厚みを必要以上に増大させることなく、かつキャビテーションの発生を安定化する溝型キャビテータの構造を考案した。その構造をFig.1及びFig.2に示す。
Fig. 1 Over view of a cavitator
Fig. 2 Section of a cavitator
構造は単純で、プロペラ翼の前縁直後の位置に前縁に平行に沿うように(Fig.1)、本来の翼面からV字型に溝( Fig.2)を刻んだものである。溝の前縁側(Fig.2のA点)は翼面に垂直に近い角度を持って切り込まれており、最低部(B点)から後縁側は緩やかな角度で徐々に戻り、C点にて本来の翼面に一致する。
キャビテータの原理は次の通りである。この溝の前縁側(A点)では強制的に流れが剥離し、後方に剥離泡を形成する。静圧が充分に低ければこの剥離泡にキャビテーションが発生するが、その発生は強制剥離に基づくものなので消滅することなく安定している。ポテンシャル理論に基づく流れ解析に依れば、キャビティの上面は、キャビテータが無い状態でA点から発生したキャビティ上面の形状と同一であり、キャビテータがキャビティを過大に厚くすることはない。キャビテータのある場合と無い場合の最も大きな違いはその安定性である。
キャビテータを、より有効に機能させるためには、溝前縁(A点)の位置をポテンシャル理論に基づくキャビティ前縁に一致させることが適当であると考えられる。
3. 実 験
3翼のプロペラを用いて実験を行った。プロペラ模型の主要目をTable 1に示す。このプロペラ模型を2個作り、1個はそのまま、もう1個は前縁にキャビテータ加工を施した。キャビテータの位置は前縁から約2mm、深さはプロペラ軸に平行な方向に0.2mmとした。ただし、このキャビテータの位置は理論的なキャビティ前縁位置に合わせてはおらず、それより後縁寄りになっていると推察される。
Table 1 Principal dimensions and design conditions of tested propeller models
| Diameter | Dp | 250.00 mm |
| Number of blades | Z | 3 |
| Pitch at 0.7R | H/D | 1.8816 |
| Expanded area ratio | EAR | 0.5047 |
| Boss ratio | XB | 0.3046 |
| Rake angle | 30.00 deg | |
| Skew angle | 32.28 deg | |
| Direction of rotation | right | |
| Material | Alminum alloy | |
| Advance coefficient | J | 1.546 |
| Cavitation number | σv | 0.250 |
| Thrust coefficient | Kt | 0.138 |
実験は船舶技術研究所大型キャビテーション試験水槽において主動力計(K&R社製;スラスト容量600kg、トルク容量30kg-m)を用いて行われた。空気含有率は32%〜35%の間にコントロールされていた。
実験で観察されたキャビテーションの例をFig.3に写真で示す。(a)及び(b)はこのプロペラの設計点(プロペラ前進率J=1.546、キャビテーション数σv=0.25)におけるキャビテーションの様子である。両プロペラ共に翼根部を除きほぼ翼面上全域がスーパーキャビテーション(SC)状態となっているが、(a)では0.8Rと0.9Rのマーキング線が前縁から翼弦中央まで見えており、この部分にはキャビテーションが発生していないことが分かる。(翼根側で0.4Rから0.6Rくらいまでマーキング線が見えているのは、キャビテーションを透過して見えている線である。)しかし、(b)ではこの部分にもキャビテーションが前縁から発生しているため、これらのマーキング線がほとんど見えなくなっている。
(a) Propeller without a cavitator (J=1.546, σv=0.25)
(b) Propeller with a cavitator (J=1.546, σv=0.25)
(c) Propeller without a cavitator (J=1.546, σv=0.50)
(d) Propeller with a cavitator (J=1.546, σv=0.50)
Fig. 3 Cavitating propellers
(c)および(d)はキャビテーション数σvを0.5に上げた例である。前縁のキャビテーションの長さがはっきりと違うことが見て取れる。
これら2つのプロペラの性能値(スラスト係数Kt、トルク係数Kq、単独効率ηo)の変化を比較してFig.4およびFig.5に示す。Fig.4はσv一定(0.25)の時のJに対する変化、Fig.5はJ一定(1.546)の時のσvに対する変化である。
(a) Thrust coefficients
(b) Torque coefficients
(c) Efficiency
Fig. 4 Comparison of propeller characteristics against cavitation number between with and without a cavitator
Fig.4では、設計点であるJ=1.546よりJが小さい時にはキャビテータ無しと付きではスラストとトルクは大きな差は無い。Jが設計点より大きくなると、キャビテータ無しの方はスラストもトルクも大きくなるが、キャビテータ付きではどちらも小さくなる。設計点におけるスラスト係数は、設計値(Kt=0.138)に比べるとどちらのプロペラでも小さめであったが、その誤差はキャビテータ無しの-6%に対してキャビテータ付きでは-4%であった。効率はキャビテータ無しでは設計点よりも高いJで効率のピークを迎えるが、キャビテータ付きではちょうど設計点において効率が最大になり、その値はキャビテータ無しの設計点における効率より1.7%高い。
(a) Thrust coefficients
(b) Torque coefficients
(c) Efficiency
Fig. 5 Comparison of propeller characteristics against propeller advance ratio between with and without a cavitator
Fig.5では、いずれのσvにおいてもKqはキャビテータの有る無しでほとんど変わらないのに対して、Ktはキャビテータ付きの方が若干大きい。その分、いずれのσvにおいてもキャビテータ付きの方が効率が高い。その差は、σvが0.5より大きくなってキャビテーションの発生が少なくなるに従って小さくなる。
4. 結 論
SCPにおけるキャビテーションの発生を促し、安定させることによって、その作動状態を設計意図に近づけ、スラストの確保と効率の向上を狙いとして、溝型キャビテータを考案し、模型試験によりその効果を確認した。その結果、以下のことが分かった。
1)溝型キャビテータは前縁からのキャビテーション増大に効果がある。
2)キャビテータを付けることにより、スラストが増大して設計値との誤差が小さくなる。
3)ワイヤや荒さ等によるキャビテーションの発生と異なり、溝型キャビテータではトルクの増加が見られない。
4)SCPに溝型キャビテータ加工を施すと、設計意図通りに最大効率点が得られ、その効率の値は元より大きくなる。
溝型キャビテータの加工法、より効果的な形状と配置、有効範囲などについては、今後更なる研究が必要である。
なお、本論文で述べたキャビテータについては、現在特許申請中である。