高速艇用TCPの設計について


推進性能部     *工藤 達郎、松田 登、右近良孝  
科学技術特別研究員  川並 康剛            


1.はじめに

 40ノットを超える高速艇用のプロペラを考えると、キャビテーションの発生を避けることは難しいが、SCP(スーパーキャビテーションプロペラ)を使うほど高速(概ね45〜50ノット以上が適していると考えられている。)ではない。そこで翼端側はSC翼型、翼根側は通常のエアロフォイルを用いるTCP(トランスキャビテーションプロペラ)を用いることとなる。しかし、TCPは船速の変化に基づくキャビテーション数変化によるキャビテーション発生状態の変化が大きく、そのスラスト及びトルクへの影響も大きい。巡行船速を設計点とした場合、それより出力を上げても、キャビテーション数σが下がるためにスラスト係数Kやトルク係数Kも下がってしまい、そのために最高速度が伸び悩むという現象が起き、いわゆる「軽いプロペラ」となってしまう恐れがある[1]。

 本論文では、商船のような巡航速度を設計条件とする設計法に代えて、最高速度を設計条件とする設計法によりTCPを設計し、模型試験および実機試験によりその効果を確認したので報告する。


2.設計概念

 SC翼型をプロペラ断面に使う場合、その特性としてSC状態に於いては断面揚力係数がほぼσによってのみ決まり、迎角によらないということに留意する必要がある。これは、プロペラ回転数nを上げた場合に通常のプロペラのように前進率Jの低下に伴うK、Kの増加が無くほぼ一定であり、その値はσによって支配されるということである。有次元量で考えると、プロペラ背面側圧力はnに関係なく全面蒸気圧で一定であり、正面側は翼後縁近傍の正圧を除いて無限遠静圧に近いので、(蒸気圧)×(プロペラ投影面積)が支配的であり、この値はnに無関係である。

 巡航速度を設計点とし、そこでプロペラ単独効率が最大となるように設計すると、SCPやTCPの場合には、理想的に設計された場合においても設計速度では燃費が良いが、そこから先はエンジンパワーを上げても回転数が上がるばかりで速度が上がらないという状態になる。高速艇では巡航速度における燃費の良さと共に、最高速度の高さを要求されることが多いので、この従来の設計法では役に立たない。

 そこで、本論文では最高速度域において十分なトルクを吸収し、スラストを発生するように以下の設計概念による設計を行った。

 A.最高出力を設計条件とする。
   (従来は巡航速度。)
 B.設計点においてKを合わせる。
   (従来はK合わせ。)


3.設計及び試験結果

 表−1に示すM.P.No.466(SRI)、M.P.No.468(SRI)2つのプロペラの設計を行い、それぞれ水槽試験及び実機試験により性能を確認した。


表−1 プロペラ主要目、設計条件及び性能

M.P.No.(SRI)  466  468
主要目
直径 220mm
ボス比 0.183
ピッチ比(0.7R) 1.5538 1.5948
展開面積比 0.5299 0.5659
翼数 3
翼断面 SRJN/NACA
設計条件(MP466設計条件が共通の設計目標値)
プロペラ前進率J 1.266 1.296
キャビテーション数σ 0.399 0.381
スラスト係数K 0.153 -
トルク係数K (0.0441) 0.0441
設計時計算予測(各設計条件において)
スラスト係数K 0.153 0.162
トルク係数K 0.0390 0.0441
単独効率ηo 0.792 0.759
模型試験結果(MP466設計条件において)
スラスト係数K
(目標値に対する差)
0.133
(-13.1%)
0.153
(- 0.0%)
トルク係数K
(目標値に対する差)
0.0358
(-19.2%)
0.0428
(- 2.9%)
単独効率ηo 0.749 0.718

 M.P.No.466は上記設計概念のうちAのみを適用し、従来通りにK合わせで設計した。M.P.No.468はAB両方の概念を適用したプロセスで設計した。M.P.No.466の設計に於いてはプロペラ単独効率を0.70と仮定してスラスト及び船速を設定した。M.P.No.468についてはM.P.No.466と同じ設計条件を設定しているが、K合わせの設計プログラムを用いてK合わせで設計するために性能推定計算と設計条件設定の間でイタレーションを行い、結果的に設計プログラム上の設計条件は表に示すとおりM.P.No.466より速い船速に対応するものとなっている。性能評価は本来の設計目標であるM.P.No.466の設計条件において行った。

 両プロペラのキャビテーション状態での性能試験結果を図−1に示すと同時に、設計目標値に対する比較を表−1の括弧内に示す。


図−1 プロペラ性能試験結果


 設計時の計算予測値ではM.P.No.466ではスラストが、M.P.No.468ではトルクが設計条件に一致しているが、実験結果を見るとM.P.No.466ではスラスト、トルク共に目標値より大幅に小さくなっている。M.P.No.468ではトルクが若干小さいもののほぼ目標性能を充たしている。


4.設計評価

 設計点における単独効率だけを比較するとM.P.No.466の方が効率が高いが、スラスト、トルク共に設計条件を満たしていない。K合わせで設計したM.P.No.468は設計条件が設計目標とずれたが、その分余裕ができ、効率は多少下がるものの設計目標値を達成することが出来た。

 設計条件等は異なるが、M.P.No.468と同様の設計概念に従って設計した実機プロペラにおいても、巡航速度域における燃費が多少悪くなるが、十分な最高速度を達成し、今回の模型試験から得られた知見を裏付けるものとなった。


5.まとめ

 模型試験及び実機試験を通して、高速艇用TCPの設計に関して本設計法の有効性を示すことが出来た。

 最後に、実機試験を快く承諾し、実施して下さった墨田川造船株式会社の石渡社長と上田部長に感謝の意を表す。


参考文献

[1] 右近、藤沢、工藤、他:SCP理論設計法の実機プロペラへの応用、西部造船会々報、第100号、2000年8月