推進性能部 *藤沢純一、松田登、工藤達郎、右近良孝
浅没水高馬力船用のプロペラはキャビテーションがプロペラ翼面上の大半を覆うトランス・キャビテーション(以下TC)状態で作動するため、推力低下(Thrust Break-down)や効率低下を起す。この状態で作動するプロペラ性能計測法の確立が、トランス・キャビテーティング・プロペラの設計法や性能解析法の開発に不可欠となる。ここではTC状態で作動するプロペラ性能計測において顕著に見られたプロペラ性能ヒステリシスと、このような現象が生じた場合における性能計測法について述べる。
今回の計測は浅没水高馬力船用の在来型模型プロペラ(MPNo.431)を用いた。主要目を表−1に示す。TC状態にあるプロペラの例を図−1に示す。

計測には主動力計(K&R社製J26タイプ、容量;スラスト±600kgf、トルク±30kg-m、精度;0.2%F.S.、最大回転数;±60rps)を用いた。主動力計にはスラストとトルクに関する歪ゲージが取り付けられており、歪ゲージの出力電圧をストレインアンプで増幅し、その出力に対してA/D変換を行い、コンピュータに取り込んだ。あらかじめ求めておいたキャリブレーション係数、ダミーボスによるアイドル量を用いてプロペラのスラストとトルクを算出した。
算出したスラスト、トルクにはボス抵抗の他、水槽内の圧力影響を含むのでこれらを補正してスラストT、トルクQとした。前進率J(=VA/nD;但しVAは一様流速、nはプロペラ回転数、Dはプロペラ直径)は側壁影響の補正を行い求めた。補正されたスラストはスラスト係数KT(=T/ρn^2D^4;但しρは水の密度)に、トルクはトルク係数KQ(=Q/ρn^2D^5)に無次元化し、プロペラ単独効率η0(=(JKT)/(2πKQ))を求めた。
計測は大型キャビテーション水槽第一計測部において均一流中で行い、水温、空気含有率、大気圧を計測し、計測値の補正や計測状態の把握に用いた。
計測条件としてキャビテーション係数σV(=(P0-PV)/(0.5ρVA^2);但しP0はプロペラ軸心圧力、PVは水槽内の水温から求められる蒸気圧)及びプロペラ回転数を一定とし、前進率を変化させて計測を行った。今回用いた計測条件はキャビテーション係数σVを1.371、プロペラ回転数を35rpsとし、前進率を単調増加及び単調減少させ、プロペラ性能の比較を行った。
本プロペラについてプロペラ性能計測を行ったところ、大きな推力低下を起している前進率において計測値が大きくばらつき、プロペラ性能の特定に支障を生じた。このため性能計測法に戻って検討した結果、計測結果にヒステリシスが存在する事が判明した。そこで、キャビテーションが発生しないノンキャビテーション、キャビテーションが発生したキャビテーションの両状態において前進率を単調増加させて性能計測した場合、逆に単調減少させた二通りの計測手順を用い性能計測した場合について比較を行った。計測結果を図−2から4に示す。



ノンキャビテーション状態では前進率を単調増加させた場合でも単調減少させた場合でもプロペラ性能の計測結果に差は生じなかったが、キャビテーション状態では0.85より小さな前進率で単調増加ではスラスト、トルク、効率とも小さくなる。本計測システムの計測誤差は1%程度であるが、計測手順の違いで最大5%程度の差が出ている。また、同じ計測手順で計測を行うとそれぞれの計測結果には再現性があった。
キャビテーションの発生パターンは図−5と6に示すように異なり、前進率を単調減少させた場合キャビテーションの発生量は少ない。このヒステリシスはキャビテーションの発生量の違いから生じている事が判る。
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TC状態でのプロペラ性能計測において、前進率を単調増加させた場合と単調減少させた場合でキャビテーションの発生範囲が変り、性能計測結果に差異が生じるのは前進率を単調増加させた計測では一旦形成された剥離泡が消滅しにくく、発生したキャビテーションは消えにくいことによる。一方単調減少させた計測では剥離泡が形成されるまでの潜伏状態があるのでキャビテーションが発生しにくい。また翼による剥離の発生の違いや気泡核が現象を複雑化させて計測値にばらつきを生じさせている。レイノルズ数が高く、流場などの変動の多い実機プロペラの性能予測のための計測は前進率を単調増加させた計測が妥当となる。
結論として次のことが言える。
(1)物理パラメータを同一条件とした計測において計測値のばらつきが大きい場合、ヒステリシスの存在が予測されるので計測法に注意を払う必要がある。
(2)キャビテーションの発生範囲でプロペラ性能が変る場合、計測値にヒステリシス現象を生じる事が有る。これはプロペラ翼面流れの違いによる事が第一に考えられる。