不均一流中キャビテーション試験における

プロペラ前進率の推定法について

 

推進性能部  *工藤達郎、藤沢純一、右近良孝

 

1.はじめに

 キャビテーション水槽の中で均一流中の条件でプロペラのキャビテーション試験を行う場合、通常ベンチュリやピトー管によって計測した管内流速に側壁影響の補正を施してプロペラ前進速度とする。しかし、模型船後方や伴流メッシュ後方の不均一流中における試験の場合は、そのプロペラの前進速度を決定するための手段は特に採られることはなく、推力を合わせることによりプロペラ作動条件を設定する方法が一般的である。しかし、この方法ではスラスト・ブレークダウンなどにより異なる前進率で同じ推力を発生する場合、均一流中と不均一流中でキャビテーションの発生の様子が大きく変化する場合など、作動条件の設定法としては不適当な場合がある。

 本報告では、不均一流中でもプロペラ前進速度を決定する手法を提案し、その有効性を確認する。

 

2.記号

 ai,A,B,C:近似式係数

 D:プロペラ直径[m]

 J:プロペラ前進率=V/nD

 K:推力係数=T/ρn24

 n:プロペラ回転数[rps]

 Ni:インペラ回転数[rps]

 T:推力[N]

 V:プロペラ前進速度[m/s]

 ρ:流体密度[kg/m

 

3.原理

 一般に曳航水槽における自航試験では、予めプロペラ単独性能試験(POT)により求められたプロペラ推力曲線(J−Kカーブ)に基づき、計測された推力からプロペラ前進速度を求める。本手法は、この自航試験の手法をキャビテーション試験にも応用するものである。

 1つの難点は、通常の曳航水槽ではキャビテーション状態の試験を行うことが出来ず、また、キャビテーション水槽では制限水路内での試験となるため、減圧可能曳航水槽を用いない限り厳密な意味でのキャビテーション状態のPOT試験結果というのが得られないことである。そのため、不均一流中でのキャビテーション試験では、直接比較すべきプロペラ推力曲線が存在しない。

 そこで、非キャビテーション状態における計測結果を仲介としてキャビテーション状態でのプロペラ前進速度をプロペラ推力曲線に結びつけることとする。そのために、次の関係を仮定する。

    「同じ不均一流中の直径の等しいプロペラについて、プロペラ前進速度V

       インペラ回転数Niとプロペラの発生する推力Tの関数である。

 この仮定により、予め推力曲線の分かっているプロペラを用いて非キャビテーション状態の試験を行ってインペラ回転数と推力を計測し、推力曲線より求めたプロペラ前進速度をそれらの関数として求める。キャビテーション状態の試験においては、この関数によりプロペラ前進速度を計算する。

4.計算手順

 船研で実際に行った具体的な計算手順を紹介する。

 まず、基準として用いるプロペラのプロペラ推力曲線を関数近似する。非キャビテーション状態におけるプロペラ推力曲線が通常弓形を描くこと、本方法においてはKからJを求めることの2点を考慮して、次の4次関数を用いる。

 

    J=J(K)=a+a+a+a+a ・・・・・(1)

 

係数a〜aはPOT結果より最小二乗法により決定する。

 次に、同じプロペラを計測したい場所(キャビテーション水槽の模型船後等)において非キャビテーション状態で回す。キャビテーション試験で使うと予想されるインペラ回転数及び推力の範囲をカバーするようにインペラ回転数とプロペラ回転数を変更しながらデータの組(Ni,n,T)を充分な点数(最低4点、推奨15点以上)採る。このデータを元に(1)式を用いて推定プロペラ前進速度Vを次の式で求める。

 

    K=T/ρn24 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(2)

    V=JnD=nD(a+a+a+a+a) ・・(3)

 

このVを次の式に当てはめて、最小二乗法により係数A〜Cを求める。

 

    V=A・Ni+B・T1/2+C ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(4)

 

 キャビテーション試験においては、(4)式を用いてVを計算する。この時、直径が同じであれば試験プロペラは上記の(4)式の係数を求めるのに用いたプロペラでなくても実用上支障はなく、一度(4)式の係数を定めれば、複数のプロペラについて同式を適用することが出来る。

 

5.検証

 船研の大型キャビテーション水槽第2計測部において模型船後キャビテーション試験において実際に本方法を使った例(模型船:M.S.No.618、模型プロペラ:M.P.No.412)では、(1)式の当てはめ精度は0.6<J<1.2の範囲においてJの値として±0.002、相対誤差で±0.2%であった。また、(4)式の当てはめ精度は9<Ni<13.5[rps]、1<T<3[N]の範囲において±0.6%であった。合わせて1%以内の当てはめ精度を持っており、充分に実用上有効な当てはめ式であると考えられる。

 また、プロペラ用の第1計測部(断面直径0.75m)において均一流中プロペラについて本方法を適用してその精度を検証した。動力計にはプロペラ軸がプロペラ後方にあるタイプの動力計(K&R H38)を用いた。直径0.1944mのNACA断面プロペラ(M.P.No.411)を用いて(1)式および(4)式の係数を求め、その係数を用いて異なるタイプのスーパーキャビテーション翼断面を持つ2つのプロペラ(M.P.No.432および433)のキャビテーション状態の性能計測を行った。いずれのプロペラでも、運動量理論に基づくITTCの方法[1]により側壁影響修正を施したプロペラ前進率と比較すると、Kが0.35以上の時は一致し、それ以下の時は若干大きめの流速となったが、その差は1%以内であった。

 

6.結論

 本方法は不均一流中キャビテーション試験においてプロペラ前進率を推定する方法として有効であり、その精度は1%以内である。

 

参考文献: [1] Proc. of the 10th ITTC, Vol. I, pp.114-123, 1963