高速艇用TCPの設計と評価
推進性能部 *工藤 達郎、 右近 良孝
1.はじめに
巡視船に代表される高速船艇では、最高船速及び巡航時の効率が共に重視される。瞬間的な最高船速を高くすることだけを目的とするなら機関出力を大きくするのが最も簡単であるが、限られた搭載燃料を如何に効率よく使い、速い最高船速と長い航続距離を両立させるかを目的とすると、やはり推進効率を高くすることが必要となる。
本論文では35ノット〜45ノットの2軸高速船艇に向いていると考えられるTCP(トランスキャビテーション・プロペラ)を試設計し、模型試験によってその性能を確認し、TCP設計法及び設計されたTCPの評価をすると共に、残された問題点を明らかにする。
2.プロペラの設計
2.1.設計条件
設計条件を表−1に示す。船速としてはTCP適用船速の下限に近いと考えられる34ノット程度を想定した。
表−1 プロペラ設計条件
| プロペラ前進率 J | 1.140 |
| キャビテーション数 σv | 0.675 |
| キャビテーション数 σn | 0.878 |
| プロペラ荷重度 Ct | 0.448 |
| スラスト係数 Kt | 0.229 |
| 目標効率 η | 0.7 |
2.2.設計法
船研に於いて開発したTCP理論設計法[1]を用いて設計を行った。本設計法は、まず揚力線理論により半径方向循環分布を決定し、それに基づき各半径位置に於いて翼断面に求められる揚力係数を実現するように、TC状態(トランスキャビテーション状態)に於けるキャビテーションの発生を考慮した揚力面理論により翼形状を求めるものである。
2.3.設計結果
表−1の設計条件に対して、翼数の異なる2つのプロペラ(3翼:MP463、4翼:MP464)を設計した。プロペラの主要目を表−2、翼形状を図−1に示す。
表−2 プロペラ主要目
| 名称 | MP463 | MP464 |
| M.P.No. | 463 | 464 |
| ボス比 | 0.200 | |
| ピッチ比(0.7R) | 1.628 | 1.602 |
| 展開面積比 | 0.6914 | 0.7629 |
| 翼数 | 3 | 4 |
| レーキ角 | 0 | |
| スキュー角 | 0 | |
| 回転方向 | 右 | |
| 翼断面 | SRJN/NACA16(a=0.8m) | |
翼断面は、SC状態が予想される0.6Rより外側ではSRJNシリーズ翼型[2]、内側ではNACA16翼型(a=0.8m)[3]を用い、間は形状内挿によりフェアリングした。
設計された2つのプロペラについてSC-VLM3(TCP性能計算プログラム)[1]で性能確認計算を行った。設計されたプロペラの設計点に於ける効率の予測値は、
揚力線理論(設計プログラム)
MP463・・・0.717
MP464・・・0.735
揚力面理論(性能計算プログラム)
MP463・・・0.665
MP464・・・0.697
であり、定量的な差はあるものの、両者共に4翼TCPの方が3〜5%効率が高いという予測であった。
(a)MP463
(b)MP464
図−1 プロペラ翼形状
3.模型試験
3.1.供試模型及び試験装置
表−2の2つのプロペラについてそれぞれ直径250mmの模型を製作し、船研大型キャビテーション試験水槽第1計測部(直径750mmの円形断面)に於いて性能計測を行った。動力計にはシャフトが下流から出ている斜流動力計(Kempf&Remmers社製H38、スラスト容量200kg、トルク容量10kg-m、最大回転数50rps)を用いた。
3.2.試験結果及び考察
3.2.1.前進率に対する変化
前進率Jに対するスラスト係数Kt、トルク係数Kq、単独効率ηのそれぞれの変化を、2つのプロペラを比較して図−2〜4に示す。設計点(J=1.140)において4翼のMP464はほぼ要求値に等しいスラスト(Kt=0.228)であるが、3翼のMP463は4.4%過大なスラスト(Kt=0.239)となった。効率はMP464が0.702であり目標効率を達成したが、MP463は0.680に留まり3%ほど低かった。この関係は設計予測に一致しており、揚力面理論による計算では効率の予測精度は約2%以内であった。また、揚力線理論による予測値も、絶対値としては効率を約5%過大に見積もったものの、2つのプロペラの相対関係については精度良く予測できている。揚力面理論計算はワークステーションを用いて数十分かかるが、揚力線理論計算は数秒で終わることを考えると、設計初期段階での翼数、輪郭などの検討においては揚力線設計プログラムによる予測値を用いることが適当であると言える。
2つのTCPの単独効率は設計点のキャビテーション数において共に非キャビテーション状態のそれを上まわり、その値もMP464では0.7を超えた。この値は、同じ荷重度で比べて非キャビテーション状態の通常型プロペラの単独効率とほぼ等しい値である。最高効率はMP463で0.707、MP464で0.731に達した。
図−2 前進率に対するスラストの変化
(Non-cav 及び σv=0.675)
図−3 前進率に対するトルクの変化
(Non-cav 及び σv=0.675)
図−4 前進率に対する単独効率の変化
(Non-cav 及び σv=0.675)
3.2.2.キャビテーション数に対する変化
図−5にはキャビテーション数σvに対する変化を示す。スラスト、トルク共にキャビテーション数の減少と共に下がるが、効率は設計点(σv=0.675)において最大値を取っており、[1]の設計法がキャビテーションの影響を的確に取り入れた上で設計が為されていることを裏付けている。
図−5 キャビテーション数に対するスラスト、トルク、単独効率の変化
(J=1.140)
3.2.3.荷重度に対する変化
MP463は、結果的にスラストが設計要求値よりも大きくなったので、このプロペラを実機に取り付けて同じ船速を出す場合、回転数を落としてJの高いところで使用することとなる。その分設計点のJにおける効率よりも高い効率が期待できる。その場合の比較を行うためにプロペラ荷重度Ctを横軸に取った効率の比較を図−6に示す。MP463の効率は若干高くなり0.683となるもののMP464には及ばない。
図−6 プロペラ荷重度に対する効率の変化
(Non-cav 及び σv=0.675)
3.2.4.フェイス・キャビテーション
MP463ではJ>1.04、MP464ではJ>1.09において翼根部のフェイス面側にキャビテーションが発生し、MP463のJ>1.19、及びMP464のJ>1.12においては0.3Rより翼端側の翼面上においてもフェイス・キャビテーションが認められた。この範囲は設計点を含んでおり、循環分布やピッチ分布の決定に配慮が必要であると共に、フェイス・キャビテーション発生をモデルに含んだ予測法を開発する必要がある。
5.結 論
1.従来同じプロペラ荷重度においても非キャビテーション状態に比べて効率が落ちるとされてきたTC状態でも、その状態を前提としたTCP設計法を有効に用いることにより高効率なプロペラを設計可能である。
2.一般的に高速艇用のプロペラとして3翼プロペラが用いられることが多いが、TCPを用いる場合、4翼プロペラの方が単独効率が高いケースもある。
3.本論文で用いたTCP設計法はプロペラ翼数による差を定性的に予測することが出来、設計段階での比較検討に適している。揚力面理論に基づくTCP性能計算を併用することにより定量的にも単独効率を実用的精度をもって推定可能である。
4.本設計法で設計されたTCPは、模型試験において翼根部にフェイスキャビテーションを発生した。翼根部の循環分布決定法、翼根におけるキャビテーション発生の推定法などに改良の必要がある。
謝 辞
本研究は海上保安庁との共同研究「巡視船艇への新型推進装置の適用に関する調査研究」の一部として行われた。海上保安庁の関係者各位に謝意を表する。
記 号
Ct = (スラスト)/(作動面積)(流入流速動圧) = 8Kt/πJ2
J = (プロペラ流入流速)/(回転数)(直径)
Kq = (トルク)/(密度)(回転数)2(直径)5
Kt = (スラスト)/(密度)(回転数)2(直径)4
η = J Kt/2πKq
σn = ((軸芯静圧)-(蒸気圧))/0.5(密度)(回転数)2(直径)2
σv = ((軸芯静圧)-(蒸気圧))/(流入流速動圧)
参考文献
[1]工藤達郎、右近良孝、加藤洋治:トランスキャビテーティング・プロペラの理論的設計に関する研究、日本造船学会論文集、第186号、1999年12月、pp.41-50
[2]右近良孝、工藤達郎、黒部雄三、星野徹二:スーパー・キャビテーティング・プロペラの設計、日本造船学会論文集、第173号、1993年12月、pp.101-111
[3]Abbott and Doenhoff: Theory of Wing Sections, Dover Publications Inc., 1959