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水槽試験技術グループ研究紹介(その1)
見えない流れを”見せる”技術 ~マイクロバブルPIVとは~

 

レオナルド・ダビンチ

 

見えない世界を見てみたいとの欲求は皆さんもお持ちでしょう。例えば、屋外で水や空気の流れを感じることはあっても、どこから来てどこへ行くのか、私たちの眼には見えません。この疑問に挑んだ人の記録として、古くはレオナルド・ダ・ビンチが描いた、流れに置かれた平板の渦流れのスケッチ(1513年:上図)が知られています。他に水の流れを詳細に描いた有名な絵画として「聖ドミニコ、聖ペテロおよび聖クリストファを抱くマドンナ」が知られています。イタリア・ボローニャ市にある聖ドミニコ教会の博物館に展示してあるフレスコ画ですが、足下に渦流れが詳細に描かれていることについて日野幹雄先生がその著書「流体力学」の中で指摘しています。

 

古来より、私たちの先祖は小川に浮かぶ落ち葉が流れに沿って流れることに気づき、その動きから流れの向きや速さが分かることを知っていました。このように小川を流れる落ち葉のような目印となる物体をトレーサと言います。また、見えない流れの動きを見るために敢えて落ち葉のような物質を流れのなかに人為的に入れる方法を注入トレーサ法といいます。

 

川の流れ

 

このように流れを人間の目で見えるようにする技術は「流れの可視化技術」と呼ばれています。

「流れの可視化技術」は、船の研究も含めて様々な流れを取り扱う研究に、昔から応用されてきました。くしの歯のように整った流れ(層流)から、絡み合った糸のような乱れた流れ(乱流)への遷移(移り変わりのこと)など様々な新しい流体現象が「流れの可視化技術」により次々と発見されてゆきました。流れの研究者は、流れを見るだけの可視化技術だけでは飽き足らず、流れを可視化した映像から速度や方向などの数値を計算する方法を開発しました。

この方法の代表格がPIVと呼ばれる方法です。PIVとはParticle Image Velocimetryの略で、日本語では「粒子画像速度計測法」と言います。これは小川を流れる落ち葉や、煙突からの煙が風のなかでたなびいている様子から流れの大きさや方向を判断する原理の応用です。人間の目で判断している流れのおおよその向きや大きさを、コンピュータを使って、誤差が少なく合理的かつ効率的に数字で表す方法(定量可視化工学)として開発されました。

実際にどういう手順をとって判断しているかを図1のように連続して撮影した2枚の画像を使って説明しましょう。1枚目と2枚目の画像を比べると緑色の物体が2枚目では右に動いていることがわかります。2枚の画像だけでは移動した向きや量しかわかりませんが、2枚を撮影した時間間隔がわかれば速度を求めることができます。

1 PIV計測法の原理

ところで、近年は地球環境保護の観点から、船舶に対する国際的な環境規制を求めるうごきが高まっています。船からの二酸化炭素の排出を少なくするには、船の燃料が出来るだけむだにならないようにしなければなりません。そこで船が水を押しのけて進む性能を改善することで、燃費を良くしようと世界中で努力がなされています。このためには船の前進を妨げる、船まわりの水の流れについて調べ、できるだけ効率の良い船をデザインすることが重要なのです。


 海上技術安全研究所でも、船からの二酸化炭素の排出を少なくするための研究に取り組んできています。当グループでは、上記で説明した定量可視化工学の手法の一つである
PIVを使って、船のまわりの流れを詳細に計測することで船の推進性能を評価する技術を開発しています。 

実験水槽のPIV計測でよく用いられる目印になる細かい粉末(トレーサ)としては、銀コート中空ガラスビーズ(2)やナイロン粒子等の水の比重に近く、サイズの小さい粉のトレーサが使用されています。しかしながら、可視化のために、一旦、水槽にまいてしまった粉を回収することは実際には難しく、結果的に実験水槽の水を汚してしまうことになるので、気軽にまくことは出来ません。

 

 

2 トレーサ(流れを観察するための目印)として                         使われる銀コート中空ガラスビーズ

マイクロバブルで流れを"見る”。

 そこで、当研究所では粉のトレーサとは異なり、水槽中に残留することのない非常に細かい空気の泡(マイクロバブル)をトレーサとして使用することで、この問題を解決する手法の開発に取り組んでいます。

 

3  マイクロバブル(左:マイクロバブルで濁って見える  右:拡大写真 白い粒がマイクロバブル)

 

 ここで使用しているマイクロバブルは、直径が50μm(0.05mm)以下の気泡で髪の毛の直径よりも小さい泡のことを言います。普段、サイダーや風呂などで見る泡はすぐに浮いてしまいますが、マイクロバブルは、とても小さいためすぐには浮きません。また、発生した泡をビーカーに入れた写真を見ると図3()のように白く濁って見えます。これを拡大してみると図3()のように小さな泡を見ることが出来ます。

 今回は、マイクロバブルをトレーサとして利用し、動揺試験水槽(4)できれいな波(Sine)を発生させ水中の流れを計測した一例を紹介します。

 

動揺試験水槽

 4 動揺試験水槽

 

こちらが実際に水槽できれいな波(Sine)を発生させ、マイクロバブルをカメラで撮影したものです(5)

5 水中でのマイクロバブルの動きを撮影した動画

(視聴にはwindows media playerが必要です。)

 

これを見ると水中ではマイクロバブルは円運動を描いていることがわかります。この画像から速度を計算して理論値と比較すると図6のように良く一致していることがわかりました。今後は模型船周りの流れの計測を行うためさらに計測装置の改良を行っていく予定です。

 

 

6 計測結果と理論値との比較

赤い線が理論値、青い点が計測結果です。良好に一致していることが分かります。