独立行政法人海上技術安全研究所

物流研究センターの設立目的と研究概要

 

勝原 光治郎

 

 

物流研究センター設立の目的

海上技術安全研究所は平成13年4月に独立行政法人として発足し、社会ニーズに沿った研究を重点的に進めてきた。経済のグローバル化に伴う国内外の物流システム改革の社会的要請が高まっていることから、海上技術安全研究所の開発している物流解析技術を活用してこのような社会ニーズに応えるため本年2月「物流研究センター」を設立した。

物流研究センターの名称は、センターは海上輸送分野を得意とはするが、物流の顧客である荷主にとっては、海上・陸上・航空などは選択の対象でしかないから、研究する立場も海上にこだわらずに物流全体を対象にすべきとの意味である。

同センターは、高度な物流知識の創造をし、創造した知識を社会還元する。ここで高度な物流知識とは、多くの情報を集約して新たな物流システムを提案するような高次元の知識である。高度の知識を創造する方法はいくつもあるが、同センターは、

①物流データベース
②物流解析技術
③物流の高度な知識

と階層化し、①を②で処理して③に至るとした構図の中で、②をより高度化することを目指す。言うまでもなく、②を用いれば自動的に③が出てくるわけではない。①から③をトータルに構想し、その構想を②で確かめ、数量的に明確な知識を生成することになる。

ここで、物流はその背後に商取引があるのでそれを掌握し記述しなければ普遍的な表現にすることは出来ない。したがって、物流はすぐれて経済の問題である。そこで、②物流解析技術とは従来の計量経済学の枠を越えた工学的技術として有効なものを想定する。このように経済学と工学を融合することを目指すため、技術者が経済学を学習すると共に、経済学者や実務家などの人々が同センターに出入するような状況スケッチを描いているところである。

創造した知識を社会還元するとは、役立つものであるということである。役立つとは、複雑な現実のシステムに対応し、奥の深い問題把握をするということであり、皮相的な意味ではない。

物流研究センターの特徴

物流研究センターが得意とする技術は、物流研究シミュレーションである。この物流シミュレーションは図1のように輸送プロセスを記述する「輸送プロセスシミュレーション」を中心に、問題設定条件と物流データが入力となり、さらに適宜インテリジェントなパーツと受け渡ししてシミュレーションを行う。応用事例は物流システムのボトルネック等の分析や最適化、将来予測などである。

「インテリジェントなパーツ」とは各種の最適化やスケジューリング、競争、協調、配分などを行う部分である。人工知能などの最適化技術などが使用される。物流シミュレーションでは後述する配船アルゴリズム、経路選択モデル、航路自動編成、運賃予測、平等配船、航路ダイヤ作成、集荷競争力などがこの部分である。

「輸送プロセスシミュレーション」は複雑系の観点から組立てられたマルチエージェント型シミュレーションである。意思決定を行うエージェントと呼ばれる多くの独立主体が、周辺環境の条件の下で判断し行動する。その結果周辺環境が変われば自己の判断も変化してくるシステムである。実社会の人間活動に近い構造となっているので、現実社会を徹底研究することが開発の方法である。

同センターは、海上輸送を中心に研究するので当面5つの分野を設定している。内航定期船、内航不定期船、外航定期船、外航不定期船の4つと臨時にできたプロジェクトである災害時河川輸送のテーマの1つである。その他、データベースの可視化のソフトを作成し顧客に喜ばれている。以下にそれぞれ紹介する。

 

研究紹介

(1)内航定期船

全国の長距離ユニットロード貨物の経路である高速道路・有料道路・主要国道などの道路と長距離フェリー/RORO船航路、およびJR貨物鉄道路線(図2)を一つの国内物流経路のネットワークとして描き、貨物発着量は与えられたとの条件の下でどの経路に貨物が分配されるかという問題を解いた。経路のコストと所要時間が分布変数となっている。貨物の経路選択モデルとしては犠牲量モデルを用いた。データは純流動貨物調査データを用いた。

長距離フェリー/RORO船航路の運賃と所要時間を変えるとこの航路に入る貨物量が変わる(図3)。まず、現実のタリフベースの運賃と所要時間による輸送貨物量の計算値と、純流動貨物調査データの貨物量を比較し検証した後、新航路の需要予測を行った(図4)。

次に、この航路の需要予測結果に見合った速度、ペイロードの船舶を設計し、更にこの船舶を用いて運航した場合のコストと運賃収入から採算を求めて、その最も良いケースを最適な航路条件と船舶を決めることができる(図5)。この条件の下でモーダルシフトを検討できる。

(2)内航不定期船

内航不定期船は産業基礎資材を運び、多くは工場から各地の消費者の元に行くまでに中間デポ(SS、油槽所などとも呼ばれる)が各地にあり、工場から中間デポまでを船舶が輸送している。
物流シミュレーションは輸送、荷役、沖待ちなど船舶の活動の全プロセスを模擬している。複雑な現実のデータを用いればより現実に近い輸送活動が再現される。配船の仕方によって輸送効率は大きく異なる。このシミュレーションによって、荷役制限の影響や岸壁仕様の影響など多くの変数の影響を調べることができる。

その1例として、図6に荷主と船社の取引関係の例を示している。[協力関係なし]は一般的な荷主と船社の固定的関係の下で輸送される場合である。その他共同配船、融通、荷主合併を試算する。

結果は図7のように、輸送効率は良い順に並べると、荷主合併>融通>共同配船>協力関係なしとなり、この順に船舶隻数は少なくて済んでいる。内航のe-ビジネス運送契約制は共同配船の一般化した形式であり、物流シミュレーションで詳細に検討できる。

特定荷主の輸送システムに内航シミュレーションを適用して効率化することができる。その際、品種は数種類(セメントでは20種類以上)あるので複雑である。

次に、黒物ケミカルと呼ばれるケミカル船は、数種類の化学物資を数段の工場1→工場2→工場3・・・と運ぶ。工場1の生産物は工場2の原材料である。全国に散在する工場の荷揚タンク、荷降ろしタンクの油面はオーバーフローしても0になっても生産ラインに影響する。絶えず配船してタンク油面を調整するためには人手によるか、配船アルゴリズムのある物流シミュレーションが必要である。

また、ある輸送システムの船隊のリプレース船の設計は物流シミュレーションによってこの輸送システムの効率を最も良くするよう行う。図8に示すように、船速が速いと仕事を早くし、隻数が少なくて済むので全隻経費は少ない。同じ隻数であれば、船速が速いと時間的余裕はできるが燃料費が大きくなる。隻数が変化するところで全隻経費カーブの谷ができる。

物流シミュレーションによって、この他最適船隊構成を求めることができる。おそらく大型化の解が出ると思われる。また、各種地球温暖化対策の評価ができる。

(3)外航定期船

コンテナ化された貨物の国際物流は主に定期船によっている。太平洋航路では2大単独船社と4アライアンスが各々7前後の航路を持っている。

物流シミュレーションは、図9のようにまず現状のシミュレーションを行い、検証した後、将来の仮定を置き、将来の予測を行う。このとき、どのような航路を与えるかという自由度が残っている。

いま、1アライアンスが他の1アライアンスに吸収されるケースを考える。航路を7航路と9航路仮定して、最大船型が各々1万TEUと7千TEUとなる例題を解いた。

このように、船型は物流の観点からは航路サービスにも依存している。航路数を増やすとか、主要港間に直行デイリー便を作るとかの荷主へのサービスもありうる。そうすると船型はそれほど大きくならないということもある。このような検討を物流シミュレーションはできる。

図11はあるアライアンスの8航路の航路編成である。往復もいれて1セットとしてサービスを提供している。この航路編成が適切かどうかは集荷力に直接跳ね返ってくる。この航路編成は変数がたくさんあるので難作業であり、人手で行われている。

寄港地の抜港か寄港かを0か1で表すと長い01の数値列ができる。これを遺伝子座とみて、遺伝的アルゴリズムを適用して準最適解を見つけるソフトを開発中である。

航路編成を自動化すれば、省力化だけでなく、アライアンス内の利害調整もスピードアップでき意思決定がスムースに行われる。また、他アライアンスとの集荷競争に対抗策を探すツールとなる。

(4)外航不定期船(バルカー、タンカー)

外航不定期船シミュレーションではまず適当な物流データベースを作るか探さなければならない。世界のタンカー物流のデータを可視化した。

経済の爆発的発展・崩壊やテロ、SARS、干ばつ、封鎖、大事故、国際プロジェクト、海事国際条約などによる外航海運の大変化などによって起る海運情勢の予測をシミュレーションで行う。その際船舶は運賃の良い航路に向かうので、運賃市況や航路毎の運賃を予測することが必要である。

また、日本の海運会社が伝統的に使っているチャーターベースのように、配船の意思決定者が自分の持っている仮定が実現したときの結果を試算するもっと高度の運賃予測シミュレータを目指して、運賃予測アルゴリズムの開発に取組んでいる。図12に運賃交渉プロセスを示す。

(5)災害時河川輸送

大規模災害時に河川を利用して緊急物資や被災者の輸送を行う構想を東京都、埼玉県および政府が実現しようとしている。そのために必要なことはまず、災害前に河川の輸送能力の評価や、輸送システムとしてのボトルネックを解明して改善対策をとることである。次に、広域の被災対策として政府の緊急時輸送マニュアルの作成である。更に、災害時には災害対策本部で輸送船に最適司令を計算するシステムである。

これらの解析や計算を行うことができる河川輸送シミュレーションを開発した。関東圏の荒川・隅田川・小名木川水系(図13)と、中部地方の沿海域について行った。プログラムは汎用化しているので、全国どこでも一定の形式でデータを用意すれば実行可能である。

(6)物流データの可視化

海上技術安全研究所のホームページにアクセスすれば物流経路情報が見える。(http://www.nmri.go.jp/iPhysidas/ )


まとめ

物流研究センターの設立の目的と研究の概要を示した。お問合せ歓迎します。




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