波浪観測データ

 

小川 剛孝

 

1. はじめに

ここでは,船舶等の性能評価を行うための入力である波浪データのうち,観測により得られるデータについて紹介いたします。実海域における長期の性能を評価する上で重要となるのは,船舶が航行する平均的な海象と大波高の長期発現頻度である。これらを把握するためには,波浪データを蓄積して波浪統計を作成する必要がある。一概に波浪データと言っても,計測方法は多岐にわたる。これらを限られた紙面ですべて紹介するのは困難であること,また,同様の内容での詳細なレビューは定期的に行われている例えば1)ことから,ここでは計測原理と現状を総括的に紹介して,各計測方法の長所および短所を整理することとする。これにより波浪データが持つ技術的問題点を明確にし,合理的な性能評価の入力とすることを目的とする。

 

2. 船舶からの観測

船舶通報による波の目視データは,広い海域における観測値としてデータ数および即時性の観点からの利用価値は高い。1985年に公表されたGlobal Wave Statistics(GWS)2)以前の波浪の長期統計は,主として目視計測によるデータをもとに構成されている。近年人工衛星を用いたリモートセンシングデータの活用が増えつつあるが,即時性や船舶が遭遇する波浪の特定という観点では必ずしも代替法にはなっていない。図1に,ある一日に気象情報が通報された地点を示す。この図は気象庁のホームページで毎日公開されており,図中の印は一般商船,洋上ブイ,日本の篤志計測船(Voluntary Observing Ship : VOS)による通報地点を表す。篤志計測船とは,計測測器と通報形式において世界気象機構(WMO)の技術基準に適合した船舶で,各国の気象機関を通じWMOに登録した船舶のことである。

熟練した計測者により行われる洋上船舶からの目視計測は,海面の特徴をよくとらえており,その計測精度は信頼できるものであることがよく知られている3)。しかしながら,波周期は,航行する船舶から計測するため,出会い周期の影響を受けやすいこともよく知られている4)

風については,風向風速計が用いられる。また,ビューフォート風力階級表に基づき目視によっても計測される。風向風速計は,船体の影響を受けないように通常高いところに設置される。風速は通常高さと共に増加するが,その度合いは大気の状態で異なる。そのために海面との高度差による影響が大きくなるので,高度の補正を行って活用する必要がある。

目視以外の方法としては,船舶に取り付けた相対波高計(マイクロ波,超音波)5) 6)による計測,レーダや船体に搭載したビデオカメラを用いた計測7)などがある。研究の結果,これらの計測方法によって,ある程度の精度で計測できることが示されている。船舶通報による波浪データは目視だけではなく将来的には機器による自動計測に変わるべきであることは言うまでもないことであり,これらの計測器を搭載して広範かつ恒常的に波浪を計測するための枠組みが必要である。

図1. 船舶気象情報の通報状況

3.ブイによる計測

ブイにより計測された波浪情報もまた,波浪統計を構成する上で重要なデータソースとなっている。ブイでは,上下加速度を計測して変位を算出することで有義波高と波周期を求めている。一例として図2に,米国NOAA(米国商業省海洋大気庁)が展開している係留ブイの写真を示す。得られるデータは,設置あるいは漂流した位置における定点のデータであるので,面としての情報を得ることはできない。しかしながら,船舶や人工衛星では計測が難しい個別波の異常値などの外洋における波浪を長期的に計測することができる方法の一つであるといえる。また,目視計測や人工衛星の計測と異なり接触型の計測であることから精度に対する信頼性は高い。波浪追算(推算)や人工衛星に搭載されているマイクロ波高度計から得られる波のデータは,ブイの波浪データをもとに検証およびチューニングされた上で実用に供されている。

気象庁は,気象情報の取得を主目的として,漂流ブイを展開している。これにより,ブイが漂流している地点での波高,波周期,気圧,海面水温を3時間毎に計測している。図2に,気象庁が展開しているブイの漂流位置を示す。図中の5桁の番号はブイ番号を表す。計測値や漂流位置の情報は,気象庁のホームページ(http://www.data.kishou.go.jp/marine/buoy/index.html)で見ることができる。計測したデータは,一般商船の通報データ,沿岸波浪計,人工衛星のデータと共に,気象庁が毎日発表している外洋波浪実況図の作成に用いられている。

NOAAは,北太平洋と北大西洋の広域にわたってブイを展開している。これにより1時間毎の波高と波周期(それぞれ風浪とうねり),風速,風向,気圧,気温,水温,波スペクトルを計測している。NOAAでは,波スペクトルを求めてから有義波高と波周期を算出している点が気象庁のブイとは異なる。図4に,NOAAのブイによる波高の計測例を示す。各計測地点での5日前までの波浪情報をNOAAのホームページ(http://www.ndbc.noaa.gov/index.shtml)で図のように見ることができるほか,過去のデータについてもダウンロードにより入手することができる。ここでは,波スペクトルだけでなく方向スペクトルデータについても入手することができる。

図2 NOAAの係留型ブ

図3 気象庁漂流型海洋気象ブイロボットの計測位

図4 NOAAの係留型ブイ(51002)による波高の計測例

4.人工衛星による計測

先に述べたようなブイや波高計による計測は,海面上のある地点における波の時間的変化を計測している。一方,人工衛星や航空機を用いたリモートセンシングはある時刻における計測面内の空間平均の波浪を計測している。

マイクロ波を用いたリモートセンシングの長所は,荒天中の海面の計測を十分離れた安全な場所から行えるという点にある。人工衛星のリモートセンシングでは,これを全地球規模で行うことができるため,荒天時の大波高に直接関係する台風やハリケーンを把握するための重要なールとなる。

波高はマイクロ波高度計(Microwave Altimeter)により計測することができる。これは,米国の観測衛星GEOSAT(1989年9月に運用終了)や米仏共同で打ち上げたTOPEX/POSEIDONおよびこの後継機であるJason-1に搭載されている。本来このセンサは,ジオイドの計測という地球物理学上の目的から開発されたもので,近似的にジオイドと一致する海面の高度を測定するように設計されている。反射されたマイクロ波の受信波形が海面の凹凸によって歪むこと,すなわち立ち上がり時間が遅れることを利用して,マイクロ波の海面上の広がり(フットプリント)内における平均的な波高の情報を得ることができる。

フットプリントの大きさは一般に100km2程度と言われており,個別波の情報は得ることができない。また,固定された軌道を繰り返し飛行するように設定されており,たとえばGEOSATを例にとると,そのサイクルは17日,軌道の間隔は経度方向で約1.5°(約170km)である。従って,必ずしも計測したい地点や時刻のデータが得られるわけではないことに注意する必要がある。

精度の面では,一般に0.5mもしくは波高の10%のうち大きい方と言われており8),おおまかに言えばブイよりやや悪く,専門家による目視よりもやや良い程度である。位置と時刻が近いデータを選んで有義波高の日毎の変化をブイと比較した例9)や超音波式波高計との相関を調べた例8)では,衛星高度計による計測値は他と定量的によく一致することが示されている。

波向および波長については,合成開口レーダ(Synthetic Aperture Radar,略称SAR)により計測することができる10)。図5にSARの概念図を示す。SARは軌道上から横方向斜め下に向かって扇型に電波を照射し,移動しながら反射波を次々と受信する。その結果,非常に長いアンテナで計測することと実質的に等価になるために著しく分解能が向上する。たとえば米国の観測衛星SEASATに搭載しているSARの分解能は25m×25mである。受信波の強度から海面の起伏パターンが認識できるので,起伏パターンをフーリエ変換することにより波の方向と波長を推定することができる。ただし,波方向スペクトルを求めるには,高度計を同じ衛星に搭載して同時に波高情報を得ることが必要である。欧州の観測衛星ERS-1ではAMIセンサ(映像モード(SAR),波モード,風モードを一本化した複合的マイクロ波センサ)の搭載によりそれが可能となった。しかし,消費電力の関係から連続運用は不可能となっており,現状では他の衛星の高度計を利用するなど,複数のデータを組み合わせて推定を行っているのが現状11)で,計測法の点からもまだ一般的とは言い難い。実用的な波浪データを供するにはさらに研究が必要である。

図5 SARの概念図

海上風については,マイクロ波散乱計(Microwave Scatterometer)およびマイクロ波放射計(Microwave Scanning Radiometer)を用いて計測することができる。風速だけであればマイクロ波高度計でも計測が可能である。

マイクロ波散乱計とは,放射したマイクロ波の散乱する度合いがマイクロ波と同程度のさざ波のエネルギーに比例し,またこのエネルギーが海上風に依存する関係を利用して海上風を計測する装置である。信頼性については,米国の海洋計測衛星SEASATによる実験で確認されている。しかし,マイクロ波の散乱する度合いから海上風を求めるためのモデルにより精度が影響を受けることが分かった12)。とりわけ,風速10m/sを超える場合は改良が必要であった。そのため,ブイや波浪追算との比較により改良が行われている。宇宙開発事業団(現,宇宙航空研究開発機構)が環境省,米仏と共同で打ち上げたADEOS-Ⅱ(2003年10月運用停止)に搭載したマイクロ波散乱計SeaWindsでは,25kmの空間分解能で風速が3~20m/sで2m/s,20~30m/sでは10%,風向は20度の精度で計測が可能となっている。SeaWindsで計測された風速,風向分布の一例を図6に示す。図中の矢印は風向を表す。白く抜けた部分は,SeaWindsの計測幅の隙間にあたり,計測データが得られていない。

一方マイクロ波放射計は,海面の砕波が放射するマイクロ波を受動的に検出することにより海上風の風速を計測する装置で,アメリカ空軍の気象衛星DMSPに搭載されていた。この装置は温度影響を押さえるためにある程度高い周波数を用いるので,空気中の水蒸気の影響を受けやすいという問題点があり,雨量が1mm/hour以上になると推定精度が非常に悪くなると言われていた。しかしながら,現在日本が米国およびブラジルと共同で運用を行っている衛星Aquaに搭載のマイクロ放射計AMSR-Eは過去最大級のアンテナを持ち,かなりの精度向上が図られたようである。

このようにマイクロ波散乱計,マイクロ波放射計共に精度についてはさらに検討の余地があるが,人工衛星によって計測したグローバルな海上風の分布を入力とすることで波浪推算・追算の推定精度向上が期待されている。取り組みは既に始まっており,2004年の11月からは気象庁の数値天気予報の入力の一部にマイクロ放射計AMSR-Eのデータが定常的に活用されている。この結果,予測精度が大きく改善されたことが報告されている。

図6 SeaWinds(マイクロ波散乱計)による計測例

5.各波浪データの比較

このように波浪の計測方法にはそれぞれ長所,短所があるため,単独の計測方法だけで実用に供するものはない。それぞれの精度向上を図りつつ,補完しながら活用していくべきであると考えられる。その際,データ同士の比較により十分に性質を把握しておく必要がある。渡辺ら13)は船舶通報データ,ブイデータおよび波浪追算データ(第2世代モデル。現在は第3世代モデルが主流。)を用いた「北太平洋の波と風」の波浪データベース構築の際に,これらのデータを比較している。また,Ogawaetal.9)はGEOSATの約3年分のデータから波高分布を求め,GWS1)および「北太平洋の波と風」13)と比較している。図7に夏季および冬期の波高の超過確率について比較した結果の一例9)を示す。これらは,GWS中で定義されるAREA13(北太平洋東側,北緯40度~50度,西経130度~170度)のデータについて整理したものである。図中のShip Report,Hindcast,Buoyは「北太平洋の波と風」13)から抜き出したもので各々船舶通報データ,波浪追算データ,ブイデータを表す。大波高での差異をわかりやすくする為に縦軸の超過確率を対数軸で示す。これによると,3者の間に決して無視できない差があることがわかる。とりわけ,10mを超すような大波高の発現頻度はそれぞれ異なる。波周期についても,目視だけでなくブイ,波浪追算それぞれの分布に特徴があり,波高分布と同様に無視できない差があることが調べられている13)

一方,大波高が発生するような小さい確率を適切に評価するためには,統計を構成するデータの統計期間を延長する必要がある。しかしながら,同一の計測手法で50年や100年といった十分長い期間,荒天時の波浪も含めて計測を行うのは容易ではない。そのため,過去の高波を引き起こしたとされる台風や低気圧の計測データをもとに波浪追算を行い,計測データと置き換えることで統計期間の延長を図ることも行われている14)。米国や欧州では,このようにして作成された波浪頻度表が安全基準の検討や設計に活用されている。図8にこの波浪頻度表14)から求めた北大西洋の波高の超過確率とGWSデータをもとに作成されたIACSのRecommendationNo.3415)の波浪頻度表から求めた波高の超過確率と比較した結果を示す。この比較からも,10mを超すような大波高の発現頻度はそれぞれの波浪データにより大きく異なることがわかる。

計測期間,位置,手段,データの処理方法など多くの要因が考えられるため,現状では,優劣などの結論を出すことはできない。最も精度が高いとされるブイでも波高10mを越える波の信頼性は十分に確認されているわけではない。今後より長期間のデータの蓄積を待って再評価されるべきである。将来的にはSAR等,計測技術が進歩して波向,波周期の計測が常に可能となれば飛躍的に波浪データが充実する可能性があることや,台風等の荒天時も含めて全世界の海洋を均一に機械計測した結果は他にないことから衛星データの利用価値は高いと考えられる。一方,個別波については,船上において機器計測の一層の精度向上と自動化が図られることを期待してやまない。これらの相互比較と検証により波浪観測データの信頼性は一層向上するものと期待される。

最後に本原稿を執筆するにあたり,図面等の使用を快く承諾くださった,気象庁気候・海洋気象部,米国国立データブイセンタ,宇宙航空研究開発機構地球観測利用推進センターの関係各位に紙面をお借りして改めてお礼を申し上げます。

 

 

図7 各波浪データの波高の超過確率(北太平洋)

図8 北大西洋の波高の超過確率

参考文献

1) 日本造船学会運動性能研究委員会:波浪評価検討専門委員会報告「船舶海洋工学における波浪情報の諸問題」,日本造船学会,1998

2) Hogben, N., et. al. : Global Wave Statistics, British Maritime Technology Ltd., 1985

3) 磯崎一郎: 波浪概論-解析と推算,日本気象協会,1988

4)桑島進他:北太平洋のうねり計測特性,日本航海学会論文集,第98 号,pp.167-175,1998

5) 高石敬史他:船載式出会波浪計の性能について,船舶技術研究所報告第13 巻,第4号,pp.151-166,1976

6) 安田明生他:マイクロ波を用いた舶用簡易波高計の開発,日本航海学会論文集,第66 号,pp.31-38,1982

7)平山次清他:実海域における船舶性能に関するシンポジウム 第6章遭遇波浪のリアルタイム把握法と最新の成果,日本造船学会,pp74-96,2003

8) Dobsin, E. et. al.: Validation of GEOSAT Altimeter-Derived Wind Speed and Significant Wave Heights Using Buoy Data, Journal of Geophysical Research, vol.92, 1987

9) Ogawa, Y. et. al.: Study for the Statistical Characteristics of Wave Height Measurement by an altimeter Loaded on Satellite, 4th International Conference on Remote Sensing for Marine and Coastal Environments, 1996

10) 資源計測解析センター:合成開口レーダー(SAR),1992

11) 小林智尚,若宮 酉:リモートセンシングデータを用いた方向スペクトルの推定,海岸工学論文集,40巻,1993

12) Guillaume,A., Mognard,M. : A New Method for the Validation of Altimeter-Derived Sea State Parameters with Results from Wind and Wave Models, Journal of Geophysical Research vol.97, 1992

13) 渡辺巌, 冨田宏, 谷沢克治:北太平洋の波と風(1974-1988) ,運輸省船舶技術研究所報

告,別冊No.14, 1992

14) Bales, S.: Development and application of a deep water hindcast wave and wind climatology, International Symposium on Wave and Wind Climate Worldwide, 1984

15) IACS: Standard Wave Data, IACS Recommendation No.34, 2001




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