放射性物質の海上輸送時の放射線安全確保

 

 

 

小田野直光   

 

 

1. はじめに

 

現在,日本で使用されている核燃料は,そのほとんどが海外から船舶で輸送されており,また,使用済燃料については,国外の再処理工場に専用運搬船により海上輸送されている.従来使用済燃料は,東海再処理工場及び英仏の再処理工場へ,各原子力発電所から,専用運搬船により輸送されていたが,平成10年より,六ヶ所村の再処理工場の使用済燃料受入れ・貯蔵施設で使用済燃料の受け入れを開始したことから,現在,各原子力発電所から国内の再処理施設への海上輸送が中心になっている.低レベル放射性廃棄物については,各原子力発電所から専用運搬船により六ヶ所村の低レベル廃棄物埋設施設への輸送が行われている.このように,日本における核燃料サイクルにおいて,放射性物質の海上輸送は非常に重要な役割を果たしている.図1に日本における核燃料サイクルの輸送の現状を模式的に示す.

また,図2に日本における核燃料物質等の国による運搬物確認実績を示す.新燃料(UF6,UO2,集合体),使用済燃料,高レベル放射性廃棄物について,経済産業省所管分の運搬物確認の実績の総重量1999年から2003年までを暦年毎に推移を見たものである.2003年においては,使用済燃料の受入れ施設の問題により輸送実績が減少しているが一過的なものであり,今後輸送が伸びることが予想される.また,全体の輸送実績としては,右肩上がりの傾向にある.近年では,原子力の研究,開発及び利用の拡大に伴い,放射性物質の輸送量の増加と輸送形態の多様化が進んでおり,放射性物質の海上輸送時の安全確保は重要な課題のひとつである.

本稿においては,放射性物質の海上輸送時の安全確保について,核燃料物質を中心に現状の規制,輸送物や運搬船の安全対策,安全確保の実績について紹介する.

図1 核燃料サイクル図1)

図2 核燃料物質等の運搬物確認実績2)
(高レベル廃棄物はトン,それ以外はウラン・トン)

 

 

2.        放射性物質海上輸送時の放射線防護に係る安全規制

 

日本における放射性物質の海上輸送に係る放射線防護規制は,船舶安全法に基づく国土交通省令である危険物船舶運送及び貯蔵規則(危規則)及び関連する告示(船舶による放射性物資等の輸送基準の細目を定める告示,船舶による危険物の運送基準等を定める告示)によって規定されている.一方,国際的には国際原子力機関IAEAにおいて放射性物質安全輸送規則(TS-R-1)(IAEA輸送規則)が作成されている.海上輸送に関しては,国際海事機関IMOにおいて,海上人命条約(SOLAS条約)の第7章に危険物輸送が規定されており,国際海上危険物規定(IMDGコード)及び照射済核燃料等の国際海上安全輸送規則(INFコード)が定められており,前述した危規則等の我が国の法令に取り入れられている.

日本においては,管理区域を設けて管理する原子力施設の中における規制と,事業所外における輸送規則は法体系が異なっている点に注意する必要がる.放射性物質が海上輸送される場合には,事業所外運搬として危規則に基づいて,規制が行われている.しかし,事業所外運搬についても原子力事業者が関与していないわけではなく,容器,包装,正標札及び副標札等の基準は,原子力事業者である荷送人に遵守義務がかけられている.一方、積載方法などの要件については,船長又は船舶所有者に義務がかかっている.しかし,放射線防護に関する規定は,原子力事業者である荷送人の場合,原子炉等規制法に基づき原子力施設の職員として全般的放射線管理が行われていることから,危規則では特別な規定はしておらず,危規則では船員など船内の在住者についてのみ規定をしている.従って,危規則上の被曝線量限度は,一般公衆に対する線量限度と同じ1 mSv/年と規定されており,十分低い安全なレベルの規制となっている.ただし,この基準を遵守できない特別な事情があり,かつ,被曝管理について必要な措置を取った上で,国土交通大臣が特別に承認した場合は,これより高い線量限度とすることができる.しかし,いかなる場合も,50 mSv/年を越えることは認められない.また,危規則においては,船内居住区,船体表面,輸送物及びその周囲の線量当量率について,表1に示すような基準が設けられている.

 


表1 危規則における放射線安全性に関する基準

条件

線量当量率の基準

輸送容器の表面

< 2 mSv/h

輸送容器の表面から1m

< 100μSv/h

船体表面

< 2 mSv/h

船体表面から2m

< 100μSv/h

立入制限区域

> 1.3 mSv/3月

船内居住区の最大線量

< 1.8μSv/h

船内の乗組員の年間線量

< 1 mSv/年

 

 

3.          放射線安全確保の方法

 

放射性物質の海上輸送時の放射線安全は,放射性物質を収納する輸送容器及び運搬船の構造によって確保されている.まず,輸送容器については,放射性物質の密封性能,容器外側での放射線量を低減させるための遮蔽性能,臨界未満を維持する未臨 性が要求される.

放射性物質輸送容器には様々な種類のものが存在し,収納する放射性物質によって使用する種類が異なる.使用済燃料輸送容器には,原子炉中での燃焼に伴って生成される核分裂生成物,燃料集合体の構造材の放射化生成物,超ウラン元素とともに,残存する235U等の核分裂性核種が収納される.これらの収納物のうち,核分裂生成物及び構造材の放射化生成物からはガンマ線が放出される.また,超ウラン元素及び235U等の核分裂性核種からは自発核分裂による中性子が放出され,その中性子と容器の構造物との相互作用により二次ガンマ線が放出される.使用済燃料輸送容器はこれらの放射線が効率的に遮蔽され,表1に示す線量基準を満足するように設計されている.

図3に,使用済燃料の輸送容器の一例を示す.輸送容器の寸法は,外径約2.3 m,長さ約5.9 mであり,輸送物の総重量は80〜100トンである.輸送容器の最も内側の構造として内筒があり,この中に収納される燃料バスケット内に使用済燃料が収納される.燃料バスケットには中性子を吸収する特性のあるボロン等の中性子吸収材が使用されており,未臨界性を保つことに寄与している.また,内筒はステンレス鋼または炭素鋼で製造されており,ガンマ線を遮蔽する能力を有する.さらに内筒と外筒の間には遮蔽体が設置されており,ガンマ線に対する遮蔽能力の高い鉛と中性子に対する遮蔽能力の高い水またはレジンが使用されている.輸送容器の最も外側の構造としてステンレス鋼製の外筒があり,核分裂生成物の崩壊熱を放熱するために伝熱面積を増加させる目的で放熱フィンが設けられえている.輸送容器の軸方向についても同様に,ステンレス鋼製の蓋により,放射線が遮蔽される構造となっている.

図3 使用済燃料輸送容器の構造3)

図4に使用済燃料運搬船の構造を示す.使用済燃料運搬船の構造は,輸送物の潜在的な危険性に鑑み,区画可浸性,高い動的損傷時復原性,二重船穀構造が要求されており,船員及び荷役作業者の被曝低減のために遮蔽構造が強化されている.図4に示すように,船倉側部にはポリエチレン遮蔽体が配置され,ハッチカバー内にもコンクリート遮蔽を配置することで,船体表面における線量を低減している.また,船橋の船倉側には居住区での線量を低減させるため,コンクリート遮蔽体が配置されている.

図4 使用済燃料運搬船の構造(原燃輸送株式会社提供)

 

 

4.放射線安全確保の実績

 

4.1  海上輸送従事者の被曝線量実績    海上技術安全研究所では,原燃輸送株式会社と共同で,海上輸送従事者の被曝線量実績調査を実施し,むつ小川原港における荷役作業に携わる作業者及び放射性物資を輸送する専用運搬船の乗組員等の被曝実績について,ここ数年間の被曝線量実績を整理した4)

調査では,輸送物として低レベル放射性廃棄物(LLW)と使用済燃料を対象として,運搬船として,LLW運搬船と使用済燃料運搬船を対象とした.LLW輸送については1997〜2001年までの実績を,使用済燃料輸送については,1998〜2001年までの実績を調査した.

荷役作業従事者(荷役作業員,放射線管理員,輸送会社社員)の被曝線量管理は,ガラスバッチとポケット線量計の両者で行われている.また,専用運搬船における乗組員の放射線管理は,フィルムバッジまたはガラスバッジによって管理されており,また,船内の立入制限区域に,電力会社及び荷役会社の社員,検査官等の一時立入者が入域する場合の放射線管理は,フォトダイオード型のポケット線量計によって行われている.

荷役作業従事者(輸送会社社員,荷役作業員,放射線管理作業員)については,調査期間中のガラスバッチの測定結果は,検出限界(100μSv)以下であった.荷役作業においては,作業員は検出限界が1μSvのポケット線量計も装着しているため,数値として被曝実績が表れるが,輸送毎の最大線量当量は10μSv程度である.各年度の平均被曝線量は1.2〜7.7μSvであり,輸送毎の最大線量当量は10μSv以下であった.年間30μSvを越える従事者はなく,輸送規則上の被曝線量限度と比較しても十分低い被曝実績となっている.

放射性物質専用運搬船の乗組員の被曝線量は検出限界(100μSv)以下であり,一時立入者についても,1997年の低レベル放射性廃棄物の輸送時を除いて,ポケット線量計の検出限界(10μSv)以下であった.従って,船上での放射線被曝実績は,ほとんど検出限界以下であると考えられる.

日本における海上輸送時の被曝実績を海外の実績データと比較するため,調査において得られた海上輸送作業従事者の年度毎の総線量と各年度に輸送された輸送物の全輸送指数から,輸送指数当たりの集団線量を算出した.なお,従事者には,船員,船内一時立入者,荷役作業従事者を含めた.また,輸送指数は,発送前の輸送容器の線量測定結果から算出したものを使用した.輸送指数(Transport Index:TI)は,輸送物の表面から1 mの位置における線量率の測定値(mSv/h)を100倍したものであり,放射線被曝管理のために用いられている.使用済燃料輸送時の輸送指数当たりの集団線量は2.0〜5.9μSv/TI と1μSv/TIのオーダーであるが,LLW輸送時の輸送指数当たりの集団線量は1.9×10-3〜4.2×10-2μSv/TIと前者に比べて2〜3桁低くなっている.使用済燃料輸送時に対して得られた値は,英国及び米国での陸上輸送時(一部航空輸送含む)の輸送指数当たりの集団線量の結果5)とほぼ同じである.今回の調査で得られた低レベル廃棄物輸送時の輸送指数当たりの集団線量が低くなっているのは,日本ではLLW輸送において,荷役作業用のクレーンを可能な限り遠隔自動化したことや,輸送容器を積載したトラックの放射線量をゲートモニター6)により完全に遠隔操作で測定できるようになっていることが一因と考えられる.

 

4.2    船内、船上での放射線量    海上技術安全研究所及び旧船舶技術研究所では,放射性物質の海上輸送の放射線安全性の検証のため,使用済み燃料運搬船,LLW運搬船において船上及び船内の線量分布測定を行ってきた.これまでに,表2に示すような輸送船及び輸送物に対して放射線線量の測定を行っている.本稿では,これらの実船実験のうち,ここ10年間で行われたLLW運搬船び使用済燃料運搬船についてのデータを示す.

 

表2 海上技術安全研究所及び旧船舶技術研究所で

実施した線量測定実験

運搬船

輸送物

文献

日の浦丸

HZ-75キャスク2基,NH-25キャスク1基

6)

パシフィックスワン

TN-12Aキャスク8基

7)

青栄丸

LLWコンテナ336個

8)

六栄丸

NFT-14Pキャスク6基

9)

 

青栄丸のLLW運搬時の線量当量率分布測定は1993年12月に行われた8).青栄丸には7つの船倉があるが,実験時には第2〜第7船倉にコンテナが搭載されており,線量分布測定時においては336個のコンテナが搭載されていた.1個のコンテナには8個のLLWドラム缶が収納されている.LLWの放射線源の主要なものは,137Cs及び60Coである.

線量当量率分布の測定にはNaIシンチレーションサーベイメータを使用した.居住区における最大線量率は0.05μSv/hであり,居住区の線量当量率の基準値1.8μSv/hより十分低い値になっている.また,ハッチカバー上での線量当量率の最大値は1.2μSv/hであり,ハッチカバー上の基準値2000μSv/hより十分低い値である.

六栄丸の使用済燃料運搬時の線量分布測定は,2001年11月に行われた9).六栄丸には5つの船倉があるが,実験時には第2及び第3船倉にそれぞれ3基ずつのNFT-14Pキャスクが搭載された.6基のNFT-14Pキャスクに搭載された使用済燃料の平均燃焼度は40,000MWD/MTUであり,冷却日数は694〜2188日であった.実験では,キャスク表面及び表面から1mの位置での線量測定も行った.

輸送容器表面の最大線量当量率(中性子及びガンマ線線量当量率の合計)は29μSv/hであり,表面から1mの位置においても6.8μSv/hであった.これらの測定値は,使用済燃料輸送容器の表面及び表面から1mの基準値である2000μSv/h及び100μSv/hと比較すると,表面で1/65以下,表面から1mの位置でも1/14以下であり,十分基準値を下回っている.

また,第3船倉ハッチカバー上の最大線量当量率は0.15μSv/hであり,船体表面での線量基準値2000μSv/h及び表面から2mの位置での基準値100μSv/hと比較して,十分に低い値となっている.居住区でも線量当量率測定を行っているが,線量当量率はバックグランドレベルであった.

このように,船内の放射線レベルは危規則の基準に比べて十分に低くなっており,船内乗組員の被曝実績が十分に低いものであることを裏付けている.

 

5.まとめ

 

我が国の核燃料サイクルにおいて今後ますます重要となる放射性物質の海上輸送について,特に放射線安全の確保の観点からその現状について解説した.これまでに述べたように,我が国の放射性物質の海上輸送の安全は十分に確保されており,これまで優れた安全の実績がある.また,我が国においては,核燃料加工施設の臨界事故を契機に,原子力災害対策特別措置法が施行され,輸送に関しても,事故時の対応が規定され,万が一の事故に備えた体制が整えられている.今後とも,国,事業者が一体となり,放射性物質の海上輸送の安全確保のための努力を積み重ね,これまでの優れた輸送安全の実績を今後も継続させ,国民の一層の信頼を得ていく必要がある.

 

参考文献

1) 電力中央研究所バックエンド研究会,核燃料輸送工学,(平10),18,日刊工業新聞社

2) 原子力安全基盤機構,原子力施設運転管理年報平成16年版,(平16),316,原子力安全基盤機構

3) 電気事業連合会,原子力・エネルギー図面集,(平16),電気事業連合会

4) N. Odano and H. Yanagi, Proc. Int. Symp. PATRAM2004, Berlin, Germany, Sept. 2004, to be published.

5) R. Pope and X.B. Bruls, Proc. Int. Symp. PATRAM2001, Chicago, USA, (2001).

6) 山路,植木,船研報告,19-5(昭57-9),309-333.

7) 植木,船研報告,20-2(昭58-3),49-72.

8) 植木ほか2名,船研報告,33-4(平8-12),191-231.

9) 植木ほか5名,第8回動力・エネルギー技術シンポジウム,(平14-6),457-460.

 

 




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