スーパーエコシップの研究開発

加納 敏幸

1. はじめに

人と地球に優しい次世代内航船、スーパーエコシップ(Super Eco-Ship)の研究開発が進められている。海運分野で地球環境の保全を実現するには、環境負荷を低減するだけでなく在来船より経済性・運航性能が高く職場環境も良い船の供給が必要である。従って、エコはecologyおよびeconomyecoを意味する。その開発のために海上技術安全研究所は、国土交通省から「次世代内航船(スーパーエコシップ)の研究開発」プロジェクト(20012005年度)を受託し検討を進めている。本プロジェクトにおいて最終年度には実証船を建造し実証試験を行う予定である。また、国内物流や内航船の市場性の検討や試設計を行い各種のスーパーエコシップの普及を目指す。

スーパーエコシップではディーゼルエンジンに替わる舶用ガスタービンで発電機を駆動する電気推進システムを採用する。開発中の高効率ガスタービンによりNOx, SOx排出量を大幅に削減し、さらに陸上でのメインテナンスを前提とし、また、冷却水の配管が不要となることなどから船上での保守作業の負担が軽減するとともに振動や騒音の低減が可能となる。二重反転プロペラ型ポッド推進器を採用し、操船性能を向上し、離着桟時の利便性と安全性の向上を図る。

スーパーエコシップのイメー

このような革新的技術を用いて職場環境の改善を図ることは、内航海運の将来を担う若年船員の確保の観点からも重要である。また、ガスタービンの採用による省スペース効果を活用した斬新な船舶設計を行える。

2 環境問題とスーパーエコシッププロジェクト

地球環境保護の重要性については広く理解され、様々な取り組みがなされている。20026月日本政府は京都議定書を批准した。これによりわが国は将来に向けて地球環境保護の取り組みを再認識するとともに指導的な立場にたつことを示したことになる。

この議定書によると、温室ガスの排出に関し1990年当時の排出量を2008年から2012年までに6%削減する義務を負うことになる。日本政府は、具体的な行動計画を立て、あらゆる分野について目標値を詳細に定めている。また、輸送分野では、交通機関ごとの目標値とともに、トラック輸送から鉄道・船舶への輸送モードのシフトであるモーダルシフトの政策を推進して鉄道・船舶輸送の比率を現在の40%から50%へと10%引き上げることを目標としている。

図1に輸送機関ごとのCO排出量を示す。CO排出量の原単位は1トンの貨物を1km運ぶときに排出されるCOの重さをグラムで表示したものである。トラック、鉄道、フェリー、内航貨物船、および、航空機の比較から内航貨物船から排出されるCOの量は商業用トラックの1/5であり、鉄道と船舶による輸送は明らかに環境に優れた効率的な輸送モードといえる。このことがモーダルシフト推進の最大の根拠となっている。また、モーダルシフトによりトラック輸送が減少すれば、交通渋滞、大気汚染、高速道路の膨大な建設コスト、ドライバーの不足や労働環境等の問題も大幅な改善が期待される。このように内航船による海上輸送の拡大が運輸分野の環境問題への対応の鍵となる。スーパーエコシッププロジェクトの所以である。

図1 貨物輸送機関のCO2排出原単位

一方、内航海運は歴史的な課題にも影響と制約を大きく受けており、経済的にも多くの困難を抱えている。運賃収益の低迷、船員の老齢化や若年労働力確保の困難さ、慣習と複雑な制度・規制とが相俟って、わが国内航海運の新しい世紀に向けての活力を消滅しつつあり、このような社会基盤を担う産業の弱体化は大きな社会的問題となっている。

従って、スーパーエコシップに期待される環境負荷の低減効果は、直接地球温暖化対策となる。また、高い経済性と快適な船内環境をもたらす性能・機能の向上により内航海運の活性化を促すとともに、モーダルシフトの促進により地球温暖化防止という目的達成に貢献する。このように、環境問題への対応と内航海運業の活性化の社会的な要請に対し、内航輸送システムのイノベーションを通じて応えることがスーパーエコシッププロジェクトの役割である。1)

3 基本コンセプトと目標

スーパーエコシップは、ガスタービン、二重反転プロペラ型ポッド推進器(CRP POD)を用いた電気推進船で、船型開発には最先端のCFD技術を用いた手法が適用されている。これらの技術を最大限に生かすことにより、図2に示すように20%の貨物積載量の増加に相当するスペースが確保され、1トンの貨物を1km運ぶ際の排出量であるトン・キロベースでのCOでは在来船に比較して25%減、従来のディーゼル機関に比較しNOxでは90%減、SOxでは60%減を目指したコンセプトとなっている。そしてこの船の普及により輸送コストの低減を図り、内航海運の活性化とトラック輸送から船舶へのモーダルシフトの実現を目指す。

3.1 船型開発および二重反転プロペラの効果

COについては、京都議定書では1990年を基点としてこの年の排出量との比較で考えている。スーパーエコシッププロジェクトではこれまでの検討結果から、船型開発および二重反転プロペラの効果で10%以上のBHP減が実現可能な範囲にあるが、これにより燃費が低減され経済性の向上が図れる。

図2 スーパーエコシップの基本コンセプトと目標

3.2 ポッド船の効果

(1) 離着桟性能の向上

現在開発中のポッド推進器は、図3に示されるようなものであるが、ポッドの旋回機構により推力の方向も360度自由に制御できるポッド船では、操船が難しい離着桟に必要となる操縦性能が著しく向上する。

図3 開発中のCRP POD

この効果の一つに離着桟時間の短縮がある。欧州での事例としてTT lineポッド船フェリーのPeter Panの場合には在来フェリーに比較して12分の所要時間の短縮が報告されている。当然ながら航路距離が短いほどこの効果は大きなものとなる。図4は、その離着桟時間短縮の効果の説明図である。Peter Panの場合には、7時間の航路であるので在来船に比較し8%程度のBHPの節約に相当し、CO排出量も6%程度軽減される。これが所要時2時間の航路であれば、25%BHP軽減に相当して、17%のCOが低減される。この例から離着桟性能の向上は極めて大きな効果を生み出すことが理解される。

離着桟の短縮時間/航海時間

また、ポッド船の優れた操縦性能は強風下における操船でも効果を発揮し、荒天時の運航限界を拡げ運航採算性向上への寄与も大きい。Peter Panの船長によると在来型フェリーが風速18m/sまで離着桟可能であったのに対し23m/sまで運航限界が拡がったとのこと。

(2) その他二重反転プロペラ型ポッド推進器の効果

二重反転プロペラ型ポッド推進器を船舶に搭載するとこの他、次のようなメリットが生じる。

船型改良の効果と相俟って電気推進システムのエネルギーの伝達損失を含めても総合効率が10%程度向上する。
ポッドを90°回転し強力なスターンスラスタとして用いることができ離着桟性能が向上、さらに旋回半径が30%減少するなど操縦性能が格段に向上する。
振動及び騒音が低減し、船尾船型が改善できプロペラに流入する流れが比較的均一になるのでプロペラによる船体振動が低減する。
主機関、プロペラ軸、舵、スターンスラスタ等が不要のため、船内空間の有効利用(貨物搭載スペースや旅客スペースへの振替)が図れる。

3.3 スーパーマリンガスタービンの効果

ガスタービンシステムは、多くの特徴と長所をもつが、特に環境保全の観点からのキーテクノロジーの一つである。高効率の舶用ガスタービンを開発する国家プロジェクトとして、スーパーマリンガスタービン(SMGT)の研究開発が、1997年から日本財団の補助を受けSMGT技術研究組合により実施されている。温度が800度程度ある排ガスの熱回収サイクルを設け、燃料を予熱して全体の効率向上を図ることが最大の特徴である。実証船用に開発中のSMGTの仕様を表1に示す。

図4 開発中のSMGT

表1 SMGT の仕様と概念

G/T名 SMGT
開発主体 SMGT技術研究組合
G/T形式 再熱開放2軸式(1/LP/R)
圧縮機 軸流4段
G/T構成 遠心1段
燃焼器 4缶偏流式
GG 軸流2段
PT 軸流2段
熱交換器 プレートフィン型
寸法L×W×H  m 2.2×1.0×1.0(熱交換器を除く)
重量        kg 41500(SMGT本体 3500)
出力取出方向 排気側
燃料 軽油、A重油
出力
定格連続出力  kW 2300 (吸気温度15℃)
最高連続出力  kW 2600 (吸気温度0℃)
熱効率       % 36.5

(1) 排出ガスについて

ガスタービンの採用理由の一つが環境親和性である。特に、NOxについては排出量が1.2g/kwh以下であり舶用高速ディーゼルエンジンの1/10、工業用のガスタービンとの比較でも1/3となる(図5参照)。また、SOx排出量についても2/5になるが、これは良質の燃料油の使用による。

図5NOx排出量の比較

(2) 貨物搭載量の増大効果

小型軽量の特徴を活かして設計を工夫すれば、機関室の容積や機関重量の軽減分だけ多くの貨物を搭載できる。機関配置の例を図6に示す。電気推進の採用により主機関はプロペラ軸系の制約から解放され、コンパクトなガスタービンの配置の自由度も大きい。この例のようにガスタービンを甲板上に配置すれば、エンジンの換装や保守作業は極めて容易となる。貨物量の増大効果としては、タンカーとフェリーについての試設計結果では、6,500積の白油タンカーの基本仕様を変えずに7,000積まで搭載可能で7%の増加となる。また、フェリーの場合には、乗用車換算で22%の搭載台数増加が達成された。

図6 機関室配置の比較

4 研究開発の概要

4.1 スケジュール

スーパーエコシッププロジェクトは、20014月(平成13年度)から開始され、船主等ニーズ調査に基づき、幾つかの船種について概念設計、試設計を行ってきた。開発スケジュールは、次世代内航船の早期実現を目指し普及促進を図るために当初計画より加速されている。
2003年度は、実証船の船主(英雄海運(株))が選定されたことに伴い、5000DWT型油タンカー建造に向けた基本設計を造船所の協力を得て実施している。現在、引き続き実証船の建造に向け基本設計の検討を行っている。二重反転プロペラ型ポッド推進器は、実寸モデルの製造を行い2004年度の実海域での試験を本年8月実施したところである。ガスタービン機関は、SMGT技術研究組合の行う耐久試験と呼応して実証機の設計に着手する。また、各種設計手法の開発も実証船の開発と併行して実施する。実証試験後の2006年度以降は、スーパーエコシップの普及を目指す。

この他、実証船の検討に必要となる電気推進システムの開発、二重反転プロペラ型ポッド推進器の開発・設計及びガスタービン機関等の技術開発は、船主、造船所、日本造船技術センター、メーカー等民間企業と協力して行っている。海上技術安全研究所は、この他、実証船の開発に必要なツールとしてCFD/CADを統合した設計システム、二重反転プロペラ及びポッド型推進器の設計手法等の研究開発を行う。

4.2 市場性検討

平成13年度は、次世代内航船の実証船候補船種を複数選定し、そのうちタンカー3種、フェリー2種について仕様を設定し概念設計を行った。平成14年度は、引き続き、船主等のヒアリング調査を基に、セメント船、自動車専用船、7000型白油タンカーについて仕様を設定し、概念設計を行った。これらの結果については、東京、四国、中国、神戸等で説明会を開催し、800名を超える関係者に周知した。

これらの試設計等の結果に関し、経済性・環境影響評価を行う必要がある。そのため、引き続き評価手法を船主等の協力を得て開発している。

4.3 性能評価・船型開発

平成13年度は、次世代内航船として想定するポッド船型の基本的な流体力学的特性である抵抗・推進性能を把握するため、一例として4999DWT1軸タンカーの在来船型をポッド船型に改良し、両船型に対する水槽試験やCFD計算を実施し、抵抗・推進性能を推定した。平成14年度は、抵抗・推進性能に加え、耐航性能の向上を目標に掲げ、4999DWT1軸タンカーと2500GWT2軸フェリーの2船種に対して、CFD/CADベースの新しい船型設計手法によりポッド船型を開発し、それらポッド船の抵抗・推進・耐航・操縦性能を検証するため、各種の水槽試験を実施した。図7に2軸フェリーのCFD計算例を示す。

さらに、実船の船尾振動推定のため、タンカー在来船とポッド単体のキャビテーション試験も実施した。

図7 フェリー船型のCFD計算例

4.4 二重反転プロペラ型ポッド推進器の開発

二重反転プロペラ型ポッド推進器(CRP POD)の研究開発は、設計手法、理論解析及び各種要素技術開発の段階を経て実施された。この詳細については、「2重反転ポッド式電機推進システム」で述べるが、表2にその仕様を示す。

表2 CRP PODの仕様

電動機形式 永久磁石電動機
電動機台数 2
連続最大出力
(1台当たり)
2500kW (200 rpm 時)
(1250 kW)
定格電圧 約 1100 V
出力回転速度 -200 ~ 200 rpm(等速反転、定トルク出力)
旋回時間 最速 20 秒/180°(1.5rpm)

このCRP PODの試作機が完成し、7月22日一般公開されたが、国土交通省冨士原技術審議官他174名の方々が参加し、その模様は、NHK大阪の17時のニュース、日刊工業新聞、日本海事新聞、日刊海事通信、海事プレスにより報道された。

その後、ドックに注水し実際に船舶に搭載した状態を模擬して、機能と耐久性を確認する実験をIHIアムテック(相生工場)にて8月24日まで行った。現在、その結果について解析を行っている。

写真1 CRP POD実機の公開

写真2 CRP POD実機の試験風景

4.5 操船制御に関する研究

ポッド船は優れた操縦性能をもつことが知られている。これは大きく切れ上がった船尾形状、および、ポッド推進器の回転により推力が直接に運動の制御に利用できるためである。タンカーのポッド船型について自航模型船による操縦性試験を行い、その操縦性能を調査した。今回の実験では当該船型での操縦性試験に加え、その針路安定性能改善を目的にスケグを付けた状態での試験を行った。IMOの操縦性能暫定基準との比較結果からは、旋回性能、初期旋回性能、停止性能については在来船と比べて極めて良い結果を得た(図8)。

これらは安全運航のみならず、離着桟が容易になり荒天下の運航限界が広がるので経済的にも環境負荷の面でも意味がある。内航船では出入港操船の頻度が高いため、スーパーエコシップでは優れた操縦性能を活かして安全で容易に対応できる操船計画と制御方式をセールスポイントとして考えている。

一方、針路安定性は在来船と比べて劣る結果となった。現在、針路安定性の改善を行っている。

図8 旋回性能、停止性能

自航模型船を用いて「横移動」、「その場回頭」操船を行った結果を図9に示す。

図9 「横移動」、「その場回頭」操船(ファジー制御による)

このように在来船型では困難な操船も優れた操縦性能と操船アルゴリズムにより比較的容易に行うことができ、安全性の向上と所要時間の短縮が期待される。

港内操縦運動用の計算モデルを構築するとともに、ポッド船の利点を生かした操船方法を確立する。ポッド船の利点、制御アルゴリズム、ポッド推進器等の動特性や制御限界性能を明示し、港内操船制御システムを開発する。第1ステップとして、簡易操縦運動モデルを導入し、シミュレータ実験により概括的に特性を把握する。

操船方法としては、ポッド推進器の特徴を生かす後進操船も検討対象としている。図10にはそのイメージが示されているが、後進操船では、ポッドの向いた方向に船尾が進み、船首がこれに追随するので、自動車の運転とよく似ている。また、針路安定性はきわめて良好となる。

図10 ポッド船操船のイメージ

5 むすび

スーパーエコシップは環境に優しい次世代の内航船として、また、モーダルシフトや内航海運の近代化と構造・制度改革の推進施策の担い手として位置づけられる。ここで紹介したように、各種の調査・検討に基づきスーパーエコシップの技術開発と試設計が行なわれ実証船が設計・建造される。実証試験により所期の経済性と環境負荷等の性能や安全性を確認し実際の運航時の操作性、あるいは、問題点や信頼性を把握するとともに総合的な運航採算を含めた評価が行われる。

今後、さらなる推進策とともに試設計等の成果を基に個々技術の実用的な改良と対応を織り込んだ多様なスーパーエコシップが開発、建造され21世紀にふさわしい若者に夢を与える内航船として普及、定着することが期待される。

本プロジェクトは国土交通省からの委託で多くのパートナーの協力のもとに海上技術安全研究所が担当している。国土交通省および海上技術研究所の関係者、開発のパートナー、ならびに、ヒアリング調査、各種の説明会等でご協力頂いた皆様に厚く感謝致します。

参考文献

1) 次世代内航海運懇談会:次世代内航海運ビジョン~21世紀型内航海運を目指して~,2002.4




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