大水深・大深度掘削技術の現状と技術課題

 

 

田 村 兼 吉

 

 

Present Techniques and Problems of Deep-sea Drilling Technology

 

Kenkichi Tamura

 

In recent years, the depth of submarine oil wells and gas wells has increased quickly. The depth of an oil production well reached 1500-2000 meters in practical use, and will be 3000 meters in the next stage. Moreover, geophysical scientists plan to use the science drilling ship “Chikyu” to drill the earth from a seafloor of 4000-meter depth to the Mohorovicic discontinuity. This paper describes deep-sea drilling technology. Although a new method, dual gradient drilling, is proposed, I think that the riser drilling system will still be used in the future. Present techniques of riser drilling are therefore summarized briefly, and problems in deep-sea operation are pointed out. Lastly, I describe the new technology in which development is needed in order to adapt the present riser drilling system to deep-sea operation.

 


1. はじめに

 


近年、海底油田・ガス田の大水深化が急速に進み、メキシコ湾、西アフリカのアンゴラ沖、ブラジルのカンポスベイ等では水深1500〜2000mでの石油生産が実用化しつつあり、水深3000mを目指した研究開発も盛んに行われている。また、JAMSTECを中心とした統合国際深海掘削計画(IODP)では、2007年に運行開始する科学掘削船「ちきゅう」によって水深2500m、将来的には水深4000m、海底下7000m、モホ面までの掘削を目指す等、海洋掘削の大水深・大深度化が世界的な潮流となっている。従来の海洋掘削では、ドリルパイプだけで掘り進み、泥水を掘削抗に注入して掘り屑を海底面へ押し出すライザーレス掘削方式が用いられてきたが、壁の崩壊のため掘削深度が大きくとれない等の欠点があった。そこで開発されたのが、泥水循環により内の環境をコントロールしながら掘削を行うライザー掘削方式である。IODPの水深2500mでの掘削では、石油掘削に使われているこの技術を用いての大深度掘削を目指している。本稿ではまずこのライザー掘削方式を説明した後、他の新形式の大水深掘削方式を紹介する。その中で最も有力であるライザー掘削方式を大水深・大深度に適用した場合の問題点を整理し、その解決のために必要な技術開発について考察することとする。

 

2. ライザー掘削方式

 

2.1 ライザーパイプ  一般的にライザーとは、海底から海面上の設備まで流体を揚げるパイプを指す。ライザーには、海洋掘削用に海底坑口装置と海上の掘削装置を繋いで泥水を循環させるマリン・ライザーと、海洋生産用に海底から海面上の生産設備までの油・ガスの流路となるプロダクション・ライザーがあるが、技術的には異なる部分が多い。本稿では掘削用のマリン・ライザーに絞って話を進めることとする。

通常、マリン・ライザーのライザーパイプは鋼製で、両端に接続用のフランジ部を有する。直径は16"または21"で、長さは3mから21mまで種々のものがあり、水深に合わせて全長を調節することが可能である。船上からドリルパイプを通してビットから掘削に送りこまれた泥水は、削り屑とともにこのライザーパイプのアニュラスを通って船上に返される。パイプの外側には暴噴抑圧用泥水を循環するためのキルライン、チョークラインがついている。海底坑口装置の直上にはフレックスジョイントが取り付けられ、掘削船の水平移動によるライザーパイプの傾斜に対応している。ライザーパイプの上端には、掘削船の上下動を緩衝するために、内筒と外筒の二重構造をしたテレスコーピックジョイントが取り付けられている。その外筒はライザーテンショナーによってライザーパイプの自重、泥水重、潮流力に等しい上向きの張力で吊り上げられている。内筒はロータリーテーブルの床下に取り付けられ、掘削船と一緒に上下動する

 

図1 ライザーレス掘削方式とライザー掘削方式

 

2.2 泥水(でいすい)  泥水は、地層状況に応じて比重や粘性、化学組成を調整して用いる特殊な流体で、泥水柱圧力を地層流体圧力と平衡させる。成分により、水ベースと油ベースの2種類に大別される。泥水の機能には、(1)坑底やビットの周辺から削り屑を除去し、地上に上げる(2)ビット、ドリル・カラー及びドリル・ストリングを冷却し、潤滑性を与える(3)地下の圧力を抑えることにより噴出を防止する(4)薄くて強靱な不浸透性の泥壁を作る(5)循環を停止しても削り屑が泥水中を沈降しないように保持する等がある。

 

2.3 ドリルパイプとビット  ドリルパイプの機能は、ビットへ回転を伝達しつつ、泥水を坑底に送ることである。掘削船上の櫓には、トップドライブという巨大な回転装置が装備されており、最長10000mにも及ぶドリルパイプを回転させることができる。これにより、先端に取り付けたビットを、下向きの推力を与えながら高速で回転させ、岩石を砕き、削って地中を掘り進む。ビットには、主に回転運動により掘削するロータリービットと、上下運動により掘削するハンマービットの2種類があり、地層のタイプにより最適なものが選定される。

 

2.4 防噴装置(BOP)  なんらかの原因で泥水柱圧力が掘削地層の地層流体圧力よりも低くなり、水、ガス、油等の地層流体が坑井内に浸入してくることをキックといい、これを早期検知して適切な坑井抑圧作業を行わないと制御不可能な暴噴状態に至る。暴噴の兆候があった場合に坑井を密閉し、噴出防止作業を行うために坑口の上に取り付ける装置が防噴装置(BOP)である。BOPは抗底から上がってくる油やガスを含む泥水の流路を塞ぐ弁の機能(ドリルパイプを両側から挟み込んで泥水の戻り流路を遮断する)と、ドリルパイプや挿入途中のケーシングパイプを様々な理由で切断する機能、そして抗に完全に蓋をする機能を持つ。種々のパイプ径に対応し、安全性を高めるため、数種類のBOPを組合せてBOPスタックとして使用されることが多い。各BOPの開閉は常時蓄圧されている油圧によって行われ、油圧パイプを通して数秒から10数秒の間に坑口を密閉することができる。

 

3. ライザー掘削以外の大水深掘削方式

 

大水深のための通常のライザー掘削以外の掘削方式にデュアルグラディエント掘削、または、サブシーマッドリフト掘削と呼ばれる方式が提案されている。これは、泥水の回収ラインとしてドリリングパイプとは別の、独立した小口径のパイプとし、海底に設置したポンプにより泥水を海面まで揚げるものである。小口径のケーシングを利用できるため大水深では安価となる、2種類の密度の泥水を使用してウエルヘッドでの圧力を水圧と釣り合わすことができる等の利点を持つ。「ちきゅう」では、2本のライザーを取り扱えるデリックとする等、ある程度デュアルグラディエント掘削への移行も視野に入れた設計がなされている。この他、海底部分に掘削システムの大半を構築するといった全く新しい方式も議論されている。

 

図2 デュアルグラディエント掘削方式

 

しかしながら、海底掘削技術の多くは時として犠牲も伴いながらトライ&エラーにより獲得されてきたものであり、新技術の採用については非常に慎重な傾向がある。また、3000m以深では、石油の存在や掘削の経済性も疑問視されており、科学的掘削のためだけに従来と全く異なる掘削方法を構築するとは考えにくい。ここでは、将来の掘削システムも現状のライザー掘削システムの延長線上として捉え、これを大水深化する場合の問題点を議論するものとする。この議論の多くはデュアルグラディエント掘削にも適用できるものである。

 

4. 大水深ライザーの力学的挙動問題

 

4.1 縦振動による圧縮力1)  鋼製のパイプといっても大水深となると長さに比べて直径は非常に小さく、ライザーは糸のような挙動をとる。圧縮力が作用すると座屈破壊することから、ライザーの縦振動問題では圧縮力を生じさせないことが最重要課題となる。ライザーテンショナーにより、ライザーには常に正の張力がかかるようになっているが、その容量には限度がある。

掘削作業中のライザーには、様々な状態が考えられるが、下端をBOPと接続した稼働状態と、ハングオフ状態の2状態では特に縦振動が問題となり検討する必要がある。(図3参照)

 

 

図3 稼働状態とハングオフ状態

 

稼働状態ではBOP直上のライザー下端で張力が最も低くなる。ここで圧縮力を生じさせないためには、ライザーテンショナーの容量を増して張力を大きくするか、ライザー自体の水中重量を小さくする必要がある。

一方、ハングオフ状態では掘削船のヒービングによってライザー軸方向の加速度が生じ、これによる張力の変動分が問題となる。変動分が静的な張力を越えると圧縮力を生じるためで、これを避けるにはライザーの水中重量を大きくして初期張力を増すか、質量を小さくして変動成分を小さくする必要がある。

大水深となるにしたがってライザー重量及び泥水重量は大きくなって、ライザーテンショナー容量を超える恐れがあることから、浮力材を利用することが行われる。しかし、浮力材を利用すると質量が大きくなり、変動成分を増加させてしまう。また、浮力材を下部に配置すると、張力を減じてしまうので、その配置にも工夫が必要である。

圧縮力の回避は、泥水重量、浮力材、ライザーテンショナー容量等が複雑に絡み合う問題であるが、できるだけ容量の大きなテンショナーと小口径で比重の小さいライザーを選択して浮力材の利用を減らすことが有効である。

 

4.2 縦振動による共振2)  縦振動は、特にハングオフ状態で問題となる。ハングオフ状態でのライザーの縦振動固有周期は弾性波がライザーの全長を2往復する時間であり、ライザー長が増すにつれて長くなって波周期の範囲に入るため、船体ヒービングとの共振が問題となる可能性がある。

 

表−1 各種ライザーの固有周期(秒)

表−1は21"の鋼、アルミニウム、CFRPライザーと、16"の鋼ライザーで、水深2500mと4000mのハングオフ状態でその固有周期を計算したものである。管内水有りでは、管内水の重量として管内体積の1/2の海水重量を考慮している。5〜6秒の波周期は頻繁に起こりえると考えると、水深2500mではどの材質のライザーでも問題はないが、水深4000mとなると21"の鋼、アルミニウムライザー共振を起こす可能性があることがわかる。固有周期はヤング率と比重の比に比例することから、これに対する直径の変化は効果が薄く、16"と21"の鋼ライザーの固有周期はあまり変わらない。表中ではCFRPが4000mライザーの材質として有力な候補であり、ライザー材質選択が縦振動の共振回避の重要なファクターであることがわかる。

 

4.3 撓みのコントロール  大水深になると撓み応答の固有周期は長周期化して応答性は劣化するので、撓みのコントロールは非常に難しくなる。潮流速度が大きいとライザーには大きな横力がかかるため、適切な張力により、ライザーの撓みをコントロールして上下のフレックスジョイントの角度を一定値以下に保つ必要がある。ハングオフ状態では撓みはさらに大きくなり、ライザーが船体と接触する可能性もある。もちろんライザーに発生する応力や、曲げモーメントは許容範囲内にしなければならない。

現状でも曲げモーメントを減らすために、上部のフレックスジョイントまたはストレスジョイントを掘削船の船底下に設置することがしばしば要求されており、機構的には設計時に様々な工夫が必要となる。さらに大水深ではライザー下部へスラスター装着して、リモートコントロールする工夫を考慮する必要がある。

 

4.4 パラメトリック励振3) 4)  パラメトリック励振とは縦振動により撓み振動が励起される現象であり、波による浮体の運動によってライザー管に撓み振動が発生する可能性が指摘される。模型実験及び計算によると、稼働状態で適切な張力がかかっている場合は、ライザー破壊につながる程ではないが、とくに張力が小さくなる大水深ハングオフ状態では、設計上は無視できないとの指摘がある。パラメトリック励振を適切に把握するためのツールを整備する必要がある。

 

4.5 Vortex Induced Vibration(VIV)   ライザーに潮流の様な水平方向の流れが当たった場合、非対称の渦放出によってVIVが発生し、ライザーパイプの疲労破壊の原因となる場合がある。生産用のプロダクション・ライザーでは長期間連続して使用するので、疲労が問題となる場合もあるが、掘削用のマリン・ライザーは一般的に短期間の使用であるため、アマゾン河口等、潮流が極めて速い特殊な条件で使用する場合以外ではVIVは考慮していない。しかし、大水深の場合、VIVによって発生する繰り返し荷重による疲労損傷や、VIVとの共振については、もう少し注意深く検討する必要があろう。

 

5. 大水深・大深度化に向けた新たな技術

 

5.1 膨張式ケーシング  ライザー掘削では、抗がある深さまで掘られたらケーシングパイプと呼ばれる鉄管を挿入し、これと抗壁の間にセメントを充填して抗壁を固定する。その後、一回り小さい抗を次の深度まで掘削し、またケーシングパイプを挿入し、セメンチングを行う。この繰り返しで深く掘り進めていくが、掘削を終了する最下端のケーシング口径を最初に決定しておくから、上に行くに従って次第にケーシング口径は大きくなる。海底面からの掘削深度が大きいほど、上部のケーシング口径は大きくなる。ケーシングパイプはライザー管とBOP設置後は、通常ライザー管を通して設置されるため、ライザー径も非常に大きなものなってしまう。つまり、掘削深度増加とライザー小口径化とは相反する関係になっていた。

そこで開発されたのが冷間引き抜き圧延技術を応用した膨張式ケーシングである。膨張による板厚の減少から若干厚めの鋼管の端部からマンドレル(図4参照)を押し込み、後からケーシング鋼管を広げるもので、加工硬化は予め考慮されている。シームレス鋼管は板厚にムラがあるので、溶接鋼管を用いており、膨張率も20%以下に収まるように計画している。

この技術は実用化も近く、これを用いると、海底表面付近は別として、BOPとライザーの設置後は同一口径のケーシングを挿入していくMono-Bore Hole(図5参照)にすることができるようになる大深度掘削には必要不可欠な技術である。

図4 マンドレル

 

図5 従来式と膨張式ケーシング

 

5.2 軽量ライザー  前章でも述べた様に、大水深ライザー掘削ではライザーの小口径化・軽量化が必要不可欠である。IODPの場合、ドリルパイプ接続部分の直径は7-1/2"程度であり、最下端のビットの直径は、大きなもので10"程度となる。前節の膨張式ケーシングを採用すると、ケーシングは口径12"程度となり、これを通すライザーは口径14"〜16"程度と、現在の標準である21"よりかなり小さくなる可能性がある。

また、従来は、鉛直方向の力はライザーパイプのみで負担するものであったが、ライザーパイプに加えてキルライン、チョークラインも力を分担する方式が開発されており、ライザー口径を増加せずに縦強度の増加を図っている。ただしこの場合、キルライン、チョークラインの配置によっては軸周りの非等方性を考慮する必要が出てくる可能性がある。

ライザー材料としては、共振周期にも考慮しつつ、SUS、アルミ合金、Ti合金、CFRPといった鋼以外の材料の有効性を評価する必要がある。こうした新材料では、特に張力条件下における疲労、衝撃、短時間の腐食、座屈等のデータが不足しており、経済的な評価も含めて充実させる必要がある。

 

5.3 ワンタッチジョイント  ハングオフ状態は、急な天候悪化等でライザーを回収する時間的余裕が全くなかった場合に選択するもので、従来からライザーは最も過酷なこの状態に耐えられるように設計されてきた。現在のライザーは、ライザーコネクターというフランジ管継ぎ手をボルトで締結して接続しているため、1カ所の着脱に20分程度必要である。水深2500mの場合、全ライザーを回収するのに3〜4日、大水深となるとさらに大きな時間がかかることになる。したがって、全揚収に1日もかからないような接続方式が待望され、究極的にはワンタッチジョイントを志向しているが、現在のところこうしたものは存在しない。新形式のジョイントの開発は大水深ライザーで避けて通れない問題である。

 

5.4 電気油圧方式BOP  現在のBOPの駆動動力源はBOPに取り付けられたボンベ内の高圧空気のエネルギーであるが、概ね環境圧力(=水圧)より200気圧程度高くしており、その圧力は水深4000mであれば600気圧にもなる。ボンベの重量も相当大きいが、それ以上に、大水深では圧力の割にエネルギーが蓄えられないことが問題となる。

 

図6 従来式と電気油圧方式BOP

 

この解決には超大容量コンデンサー(スーパーキャパシター)を動力源とした電気油圧方式が有望である。この方式であれば必要なパワーの割り振りも容易であり、水圧の影響を受けない。また、大きな電力を海中に供給できるようになれば、ライザー下端に推進器を取り付けて船上からの制御で海底のBOPに容易に結合するといった、エネルギーの別の利用法も考えられる。

 

6. おわりに

 

現在、海上技術安全研究所では2年前に完成した深海域再現水槽等を利用して、大水深ライザーシステムの安全性に関する研究を進めている。この成果を大水深・大深度化が進むライザー掘削の発展に着実に生かしていきたいと考える。

 

参考文献

 

1)  鈴ほか2名,日造学論, 181号論集,(1997),271-279.

2)  渡辺,日造学講,3号講集,(2004),61-62.

3)  高ほか3名,17回海洋工学シンポ,(2003),247-254

4)  西ほか3名,17回海洋工学シンポ,(2003),255-262

5)  高ほか1,海技研講, 4回講集,(2004), 115-120.

 

 




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