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NMRIトピックス
波の芸術 -波で文字や模様を描く
大松 重雄
OHMATSU SHIGEO
専門研究員
浮体の波浪中動揺問題、メガフロートに働く自然環境荷重、弾性応答に関する研究など
海技研にある深海水槽は、波で文字や模様を自在に描くことができます。円形の深海水槽は、128機の造波装置を全周に設置しており、造波機を使って、碁盤の目のような波、海技研のロゴマーク、噴水のように上がる波(集中波)、渦のように回る波などを作ることができます。
「波を自在にコントロールする」造波技術は、様々な実験に必要不可欠です。造波技術を応用して様々な波、文字、模様を作りました。動画で紹介します。
集中波やロゴマーク

「海技研のロゴマーク」「集中波」「メッシュ波(碁盤目の波)」「回転波」「規則波」が連続して現われます。
マエストロで放送されました

「けん」「よしこ」「ハートのマーク」「タカ」「&」「スシ」「ライオンのマーク」「星のマーク」が連続します。(TBSテレビの「となりのマエストロ」で同じ模様を撮影しました)
NMRIの文字

海上技術安全研究所の英文略称「NMRI」を1文字ずつ描きます。
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 波でどうして文字や模様が描かれるのでしょうか。それは、周期の短い波は遅く、周期の長い波は速く進む性質を利用しているのです。
 水槽実験では、一定周期の規則波や与えられたスペクトルをもつ不規則波がよく使われますが、例えば海難事故調査等には、これらに加え、任意の与えられた時系列を持つ波、あるいは三角波(一発大波)が必要になってきます。波で文字や模様を描くことは直接実験に役立つわけではありませんが、「波を自在にコントロールする」造波技術の開発・デモに使われるでしょう。

はじめに
図1 深海水槽(水を抜いた状況)
 海技研には、曳航水槽、平面水槽、氷海水槽など各種の試験水槽があり、それぞれの特色を生かした水槽実験が行われています。その中で、最もいろいろの波を造ることのできる水槽が深海水槽です。
 深海水槽は、図1に示すように直径13.6mの円形の水槽で、周囲に128台もの造波機を有しています。各造波機は幅約33cmのフラップ式造波機で、それぞれ単独に、与えた信号どおりに動かすことができます。
 今回、この水槽において128台の造波機を駆使し、水面に文字や模様を描くことを試みましたので紹介いたします。
波を集中させる
図2 造波板に衝撃的な変位を与えたときの波高の時系列(R=10mの例)
 水面に文字や模様を描くには、まず「思いどおりの点の水面を盛り上げる」ことができなければなりません。そのために波の持つ一つの特性を利用します。それは、周期のゆっくりした長い波長の波ほど速く進む、短い波ほど遅いという性質です。みなさんが、例えば公園の池に小石をポチャンと投げると、まず周りに長い波がさーっと広がっていき、そのあとを追いかけるようにさざ波が広がるのが見えると思います。
 図2は、それと同じようなことですが、1枚の造波板に衝撃的な動きをさせたとき、その造波板からある距離(Ro)の点で測った波高の時間変化を示しています。これを見ても、はじめに周期の長い波が到達し、後になるほどくしゃくしゃした短い波が来ることが分かります。

図3 時間逆転による造波信号
 さて、この性質をどのように利用するか。はじめに短い波(=スピードの遅い波)を起こしておいて、後から長い波(スピードの速い波)を起こすと、ある点で長い波が短い波に追い付いて合体し、大きな波高になるのではないだろうか。さらに、短い波を起こしてから、長い波を起こすまでの時間差を短くするとすぐに追いつくので造波機から近いところで合体し、時間差を長くすると遠方で合体する。このようにして、合体する場所もコントロールすることができるのではないだろうか。
図4 造波板から距離Roの円弧線上に集中波が発生
 これは基本的なアイデアです。短波長から長波長までの波を合体させてできた大きな波高のことを「集中波」といいます。
 具体的な集中波の発生法は以下のとおりです。
 図2は前に述べたように、造波板に衝撃的な動きをさせたとき、その造波板からある距離(Ro)の点で測った波高の時間変化ですが、これを図3のように時間逆転させ、それを造波板の動きとして与えます。

図5 集中時刻における波の空間分布(図4のA-A´線上の波高)
 図3を見ると、初めに周期の短い波を起こし、後になるほど長い波を起こすことがわかるかと思います。こうすると、ちょうど距離Roのところで集中が起こるのです。この方法は1981年に著者が2次元水路の場合について見出した1)のですが、今回はそれを3次元の場合について適用しました。その結果の例を図4、図5に示します。

 以上のように、1枚の造波機で円弧状に集中波を起こせることがわかりました。では線状ではなく、一点で盛り上がる集中波を起こすにはどうしたらよいのでしょうか。そのためには、図6に示すようにすべての造波板に図3のような時間逆転による造波信号を与えてやります。その際には各造波板と集中点との距離R1に応じた信号とします。そうすると集中点ですべての造波機からの波が集中し、他の点では打ち消し合ってしまい、結果として図7のような一点集中波ができるのです。

図6 一点集中波の発生法

図7 一点集中波の空間分布(集中時刻)
波で文字や模様を描く
 一点集中波を作ることができるならば、ドットで文字を表すように、集中点をたくさん並べて同時に多数の一点集中波を作ることにより、任意の文字や模様を造りだすことができるでしょう。その際には、各造波機は集中点の数ほど、図3に示したような造波信号を足し合わせた信号で動かすことになります。こうして造波した例を写真1、写真2に示します。

写真1 文字「R」の造波

写真2 海技研のロゴマークの造波

図8 「R」を描いたときの波高の時系列
 以上のようにして、意図したとおりの文様を造波できることが確かめられました。もちろん、あまり細かい描写はできません。分解能は造波板1枚の幅や造波できる波長の範囲で決まりますが、深海水槽の場合は約30cm程度です。
 造波信号の作成はすべて理論計算に基づいて行うわけですが、この理論に従えば、集中時刻だけでなく、各点の各時刻の波高を予測することができます。図8は「R」という文字を描いたときの水槽中央点における波高の時系列を予測し、実測値と比較したものですが、両方良く一致していることが分かります。

今後の応用
 以上、波で文様を描く方法の考え方を述べ、実際に造波した例を示しましたが、このようなことが可能になったのは時間領域における造波理論の展開と具体的な数値計算法が開発されたことによります。詳しくは文献2)をご覧ください。  さて、以上のように、任意の位置、任意の時刻に、任意の波高の波が発生可能ということで、この方法の様々な応用が考えられます。例えば一発大波などの造波もできるでしょう。
 写真3は、その一例として、2次元集中波を発生させたものです。ここでは水槽中央で一方向に進む波になっていますが、これを他の方向に進む集中波と重ね合わせることも容易にできるでしょう。
 さらに、任意の時系列を持つ波の発生もできます。ただし、その際にはある程度造波時間が長くなり、各造波板の作った波が他の造波板に影響を与えるようになりますから、余分な波を「呼吸する」ことが求められます。その方法も文献2)に示してあります。実は、波を「造る」より「消す」方がむつかしい問題なのですが、図9に示すように、本法でほぼ消波ができていることが分かります。


写真3 2次元集中波

図9 呼吸なしと吸収ありの場合の差(「R」を描いたときの波高の時系列)
おわりに
 当所では、実海域再現水槽が建設中です。この水槽は長方形で、周囲に382台の造波機が設置されます。ここで述べた造波法はこの水槽においても有効に利用されるでしょう。そしてまた、新たなニーズに応じた造波法を開発していく所存です。
参考文献
1)S.Ohmatsu:Une Methode Simple pour Generer une Houle Arbitraire dans un Basin d Essais,Papers of Ship Research Institute No.65(1981.)
2)大松重雄:時間領域における Transient Wave の造波・吸収法について、海技研研究報告第9巻第2号(2009)
このページに関するお問い合わせは、企画部広報係 info2@nmri.go.jp までお願いします