屋内水槽における波浪中自由航走実験技術の研究

独立行政法人 海上技術安全研究所 流体部門 運動性能研究グループ

 自由航走模型試験における模型船位置計測については、水中超音波や実時間キネマティックGPS、あるいは写真・ビデオ撮影などを利用した方法のほか、台車を装備した屋内水槽では台車自動追尾機能を利用して計測された例がある\cite{Ueno.01}。速度を有する模型船を台車が自動追尾するためには、台車固有の走行特性を十分把握した上で制御系を設計する必要がある。特に波浪中自由航走模型試験のように船体運動が高周波数成分と低周波数成分を併せ持つ場合は注意が必要と考えられるが、そのような場合に適した制御設計手法について報告された例はあまり見られない。
 そこで本研究では、(独)海上技術安全研究所の海洋構造物試験水槽の台車自動追尾システムを使った波浪中自由航走試験に適した制御系について検討した一連の研究成果の中から、制御系設計の際に用いる数学モデル構築を目的としたステップ応答試験について報告する。

Auto-tracking system for model ship

Fig.1 Auto-tracking system for model ship

 海洋構造物試験水槽にはFig.1のように台車が備えられており、水面広さ40×27.1mの水槽の長辺(南北方向)のレール上を主台車が動く(X方向)。主台車上には固定副台車と走行副台車が備えられている。固定副台車はおもに海洋構造物に関する実験用で固定して使用される。走行副台車は主台車上を走行する(東西Y方向)。走行副台車は回転盤を備えており水平面内で回転運動する(Ψ方向)。これらXYΨの運動を制御することによって水平面内の任意の運動に対応することが可能である。
 走行副台車の運動は主台車上の計測室に備えられた計算機のプログラムモードで管理され、直進運動や斜航運動、旋回運動、周期的強制動揺、任意運動など様々な運動モードが用意されている。以上は拘束された模型船に任意の平面運動を与える際の運動モードであるが、さらに走行副台車には水槽内を自由航走する模型船を自動追尾する機能が備えられている。これは走行副台車回転盤上に設置されたカメラ画像の中に模型船上の指定された追尾用マーカーが常に入るようにXYΨ方向の運動を自動制御することによって走行副台車が模型船を自動追尾する機能である。自動追尾中の走行副台車の位置であるXYΨの値とカメラ画像中の追尾用マーカーの位置情報から模型船の時々刻々の位置と方位を得ることができる。

Photo of step response experiment

Fig.2 Photo of step response experiment

 高度な自動追尾システムを実現するためには、システムの走行特性を十分に把握した上で制御系設計をする必要がある。そこで本論文では自動追尾システムのステップ応答試験によるモデル構築を行った。試験の際には、Fig.2のように台車上の計測室内に追尾用ビデオカメラを配置して、模型船に本来取り付けられている追尾用マーカーを木板に貼り付け、カメラの中心からこれを任意の位置に動かしておいた状態から制御開始した。実験結果の解析の際には入力を位置偏差、出力を台車の速度値として1次系の数学モデルとして解析した。

Step response in experiment and numerical simulation

Fig.3 Step response in experiment and numerical simulation

 得られた結果の妥当性を確認するために、ステップ応答の数値シミュレーションによる比較を行った。結果をFig.3に示す。1次系の定常ゲインKは1.0として、時定数Tは実験結果の中から0.32, 0.84, 1.76を選択したものを表している。また、確認のために時定数T=0.00についても調べた。Fig.1の結果から、時定数が大きくなるにつれて応答の立ち上がりが緩やかになる様子が明らかに分かる。また、実験結果の立ち上がりは緩やかな一方で、計算結果の方は急激に立ち上がっていることが確認できる。これは、対象とするシステムの非線形特性、または複雑な加速度・速度制約が働いているとも考えられるが、この結果からは判断することはできない。しかし、本論文の目的は自動追尾システムの大まかな特性を把握することが目的であることからして、時定数T=0.32の数値計算結果は自動追尾システムの運動を模擬できていると見なして、以後議論を進めることとした。


Numerical simulation of auto-tracking experiment   Numerical simulation of auto-tracking experiment

Fig.4 Numerical simulation of auto-tracking experiment

 ここでは、自由航走模型船を用いた実験時の追尾不安定現象を、得られた数学モデルと実験時に用いた制御変数に基づいて計算で再現できるかどうかの試検討を行った。模型船の運動には実験で得られた航跡データを使用して計算した。その結果をFig.4に示す。Exp.Aは追尾が可能であった実験である。これは数値シミュレーションにおいても同様に追尾を再現している。一方で、Exp.Bは実験においては追尾中に急激に不安定化して追尾ができなくなり、途中で実験を中止したものである。これは数値シミュレーションにおいても同様の不安定化現象を再現している様子が分かる。 次に、不安定化した原因について検討するため数学モデルに基づいた解析を行った。閉ループ系の周波数特性をFig,5に示す。位相特性について見ると、Exp.Aは低周波数領域においては、同相、つまり位相遅れが0度である一方で、Exp.Bは位相が360度近く遅れていることが確認できる。これは、模型船のゆっくりとした動きに対しても常に位相が遅れた状態で台車が追尾することを意味する。これが追尾不安定の原因になったのではないかと考えられる。

Bode diagram of closed loop system

Fig.5 Bode diagram of closed loop system

 本研究では、自動追尾システムのモデルベース制御系設計をおこなうための前準備として、ステップ応答試験による自動追尾システムのモデル構築を行った。その結果、自由航走模型船を用いた実験時に発生した不安定化現象を再現することができた。今後は、より高度な水槽試験に必要な自動追尾システムの制御系設計について検討する必要がある。本研究の内容は船舶海洋工学会講演会論文集において発表済みです。

  ・ 大坪和久*, 二村正, 塚田吉昭, 上野道雄:
    試験水槽台車自動追尾システムのステップ応答試験
    日本船舶海洋工学会講演会論文集第4号, pp.533-534, 2007


(文責 大坪)
(E-mail: ohtsubo★nmri.go.jp) (★に@を入れてください。)
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