拡張型CA行列の零化空間基底操作による推力分配問題の解法

九州大学大学院工学研究院海洋システム工学部門, 九州大学応用力学研究所海洋大気力学部門
三井造船株式会社
( 研究代表者: 小寺山亘(九大応力研), 門元之郎(三井造船) )


 航空機、宇宙往還機、船舶、ROVなどのビークルにおいて、Fig.1に示すように、上位の制御コントローラから指令された制御入力をスラスタなどのアクチュエータに適切に分配させる必要がある。DPSを有するような船舶に限定して考えると、スラスタの対故障性などを想定して、自由度以上のアクチュエータが搭載されていることが多い。実際、最近運航を開始した地球深部探査船「ちきゅう」には、6基のアジマススラスタと1基のトンネルスラスタ、計7基ものスラスタが搭載されている。アクチュエータ数が制御入力以上にある場合には、スラスタの推力分配において自由度が生じる。そのような場合には、技術者はできるだけ燃料消費のことを考慮したいがために、可能な限り各スラスタの推力を押さえ込むような推力分配が要求される。このような問題をスラスタの推力分配問題 (Control Allocation Problem, CA問題) と呼ぶ。そこで一般的には、制御入力から各アクチュエータへの推力分配は、船舶の運航時に最適化計算をオンラインに行うことにより決定される。


ControlAllocation_Flow

Fig.1 ビークルの制御システムの構成を表すブロック線図


 CA問題は近年、数多くの研究成果が発表されている。中でも特に、船舶海洋工学分野においては、T.I.Fossenらの研究グループが精力的に研究を行っており、ここ数年だけでも数多くの研究を発表している。著者らが調べる限りでは、最近の彼らのCA問題に対する研究の方向性は、スラスタの首振り角や角速度などの性能条件、姿勢の回転表現に起因する特異性問題などを考慮した評価関数を改めて定義し、その大域的最適解をいかにして高速に、いかにして正確に解くかという方向に向っているように思われる。しかしながら、操船の現場でアルゴリズムを実装する技術者の立場から考えると、実用的な時間内で解くことができるか分からないような最適化アルゴリズムを船舶に実装することはできるだけ回避したい。ゆえに、依然として、スラスタの性能条件を考慮することのできないLagrange未定乗数法による解析的な手法が多くの場面で活用されている。

Azimuth_Thrusteres

Fig.2 対象とする3基のアジマススラスタを有する船舶モデル


Command_case1

Fig.3 想定する制御コントローラからの指令コマンド入力

 そこで、本研究では推力分配問題を記述する拡張型CA行列の零化空間基底に着目し、アジマススラスタの首振り稼動許容領域条件を考慮した推力分配アルゴリズムを新たに提案する。この提案アルゴリズムは、すべての最適化計算の作業は船舶の運航前、つまり、オフラインにおいてのみ必要であり、運航後においては簡単な代数計算のみをオンラインで行えば良いという点が大きな特徴である。参考までに、数値シミュレーションの結果を示す。Fig.2に対象とするアジマススラスタを有す船舶モデル、Fig.3に制御コントローラからの制御入力コマンド、Fig.4〜Fig.6に計算の結果を示す。


Thrust_Lag  Bow_Angle_Lag

Aft_Star_Angle_Lag  Aft_Port_Angle_Lag

Fig.4 Lagrangeの未定乗数法による推力分配決定方式 (左上:推力, 右上;船首首振り角, 左下:船尾右舷首振り角, 右下;船尾左舷首振り角)


Thrust_case6  Bow_Angle_case6

Aft_Star_case6_Lag  Aft_Port_Angle_case6

Fig.5 提案アルゴリズムによる推力分配決定方式 (左上:推力, 右上;船首首振り角, 左下:船尾右舷首振り角, 右下;船尾左舷首振り角)


Bow_thruster_90to5  Aft_thruster_90to5

Fig.6 幾つかのスラスタ稼動許容領域条件下での最適Cベクトルの変化の様子

 なお、本研究の内容は日本船舶海洋工学会論文集に掲載予定です。詳細について興味を持たれた方は、是非論文をお読みください。


(文責 大坪)
(E-mail: ohtsubo★nmri.go.jp) (★に@を入れてください。)
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