バラストタンクのヘルスモニタリング技術に関する基礎的研究
独立行政法人 海上技術安全研究所 海洋部門
現在 執筆中
船舶のバラストタンクは全塗装面積の約3分の2を占めており、その維持管理は極めて重要である。新造後十数年を経たバラストタンクは、犠牲陽極の消耗、スロッシング、海洋生物の付着による塗装劣化を補修する必要があるが、そのために多大な工数と費用を要することが大きな問題となっている。塗装状態の良好な維持管理のためには定期的な補修が必要になるが、バラストタンク内での作業は非常に困難であるために、腐食及び塗装欠陥のモニタリングシステムの開発が求められている。バラストタンク内の数箇所の計測電位データからタンク内の電位場を計算することができるならば、タンク内の塗装状況や腐食進展の経時的変化をモニタリングすることができる。そうすれば、適宜、インヒビター(腐食進展防止剤)を注入したり、犠牲陽極の配配置を行うなどにより腐食の進展を抑えることが可能であり、経済性、安全性及び労働力の軽減の観点から大きなメリットがある。
以上のような背景を踏まえて、以下の3つのテーマを実施することにした。なお、本研究は2年計画の今年度は1年目であり、本サイトはその成果をまとめたものである。
1. 造船、防食、鉄鋼メーカを訪問し、ヒアリング及び実地見学により防食技術の現状把握
2. バラストタンクを簡易的に模擬した簡易水槽を準備し、そのアノード周辺における電位分布計測試験
3. アノード防食時のバラストタンク内の電位場解析プログラムの開発
1. ヒアリング・実地見学による防食技術把握
今回は造船、鉄鋼、防食会社を数社訪問して担当者の方々からのヒアリング調査、及び実際のタンク内の腐食状況及び定期検査の様子を見学させていただいた。具体的な会社名について明記することは差し控えさせていただくが、この場を借りてご協力頂いた方々には心から感謝申し上げる。ここでは調査後に残したノートから幾つかのポイントを抜粋したものを表記する。バラストタンクの腐食状況の深刻さや定期検査の現場の方々の労働負担の大きさについて感じてもらいたい。
1-1) 担当者の方へのヒアリング調査
・タールエポキシからノンタール系の塗料に変更
・バラストタンクへの犠牲陽極の取り付けは2人で。非常に重労働
・定期検査の際には、犠牲陽極をもとあった場所のすぐそばに取り付けるだけ
・陽極の数などはオーナと協議の上で決定
・エンジニアがオーナへ犠牲陽極の数などについては提案するが、コストの面から断られることが多い
・大体の場合、内航船は1年ごと、外航船は2年ごとにドックインする
・塗料は30ヶ月仕様がほとんど(36ヶ月仕様もあるがまれ)
・ドッグインしたら1週間ほど滞在する
・担当者の方の話によると会社は24時間動いており、ほとんど休みなし。(1月の間に3日程度)
・塗装を塗り直すことはほとんどないのは、ブラスト用の機材を持ち込むことが大変なため
1-2) バラストタンク内調査
・犠牲陽極はあまり確認されず(全部10個もなかった気がする?)
・常に水が入っていることろほど腐食しやすい
・色々な忘れ物による塗装の塗り忘れから腐食が発生していた
・バラストタンクへの水の出し入れをする管?のところは流れが激しいために塗装が剥げ易い
・生物付着が多く見られる。2〜3日経てば死臭で大変な匂いになるとのこと
2. 簡易タンクモデルによるアノード周辺部電位場計測
2-1) 試験装置
試験は、内寸長さ40.6×幅40.6×高さ40cmのアクリル製の水槽に、腐食試験用人工海水アクアマリン(導電率約41mS/cm at 13.5℃、pH7.5〜pH8 at 25℃)を用いて実施した。
試料極は、計測面を研磨して黒皮を除去し、裏面および側面を塗装した長さ40×幅40×厚さ0.3cmの炭素鋼板の供試試験片(以後、試験片と称す)を用いた。対極は、船舶外板防食用の2種類のAl流電陽極(ナカボーテック製ALAP-K、幅7×厚さ2cm×長さ15と7.5cm)および分極特性試験用として鋼角柱(縦横2×長さ5.3cm)を用いた。照合電極は、飽和カロメル電極(SCEで表記)を用いた。
試験装置と試験法の概要を図-2に示す。
2-2) 試験項目
実施した試験項目の一覧を表-1に示す。表中の塗膜欠損影響の試験は、研磨した鋼板表面全面に薄い両面テープを介して梱包用のポリエチレン膜を貼り付け塗膜を模擬した。また、塗膜欠損は図-2の網掛けで示す箇所の両面テープおよびポリエチレン膜を剥がし、研磨した鋼板表面を露出させることで模擬した。なお、両面テープとポリエチレン膜とを合わせた膜厚は0.21mmである。
2-3) 計測法の概要
電位分布は、水面下に設置した試験片面から上方に0.5cm程度離した位置にトラバース装置に取り付けた支柱を介して照合電極を置き、図-2に示す計測順路に従い5cm間隔で移動させて計測した。なお、データは各計測点毎に電位を2秒間隔で10点程度の割合でサンプリングし収録した。収録には1ケース30分程度の時間を要した。分極特性は、カソード電位が-650mV vs.SCEから-1000mV vs.SCEの範囲を卑側から貴側に向かって0.09mV/sec.の割合でスキャニングしながらカソード電位とカソード電流とを計測した。なお、データ収録時の照合電極は常に図-2中の大きな白丸で示す塗膜欠損箇所の中心位置に設置した。データはサンプリング間隔5秒で、約1000点収録した。収録には1ケース75分程度の時間を要した。
電位分布および分極特性の計測は、ポテンショスタッド/ガルバノスタッドと三角波発生器とが組み合わさった自動分極ユニット(東方技研製PS-07)の装置を用いた。また、データの収録は、分極ユニットからの出力電圧をデータロガー(キーエンス製N-1000)を介してPCに取り込んだ。
2-4) 計測結果の一例
2-5) 今後の課題
実際のバラストタンク内における塗膜欠損形態は分散型や塗膜と鋼板との間に海水が侵入することで隙間ができその箇所が腐食する場合が多い。そのため、塗膜欠損率が同率でも塗膜欠損面積の小さい集合体の場合は電位分布計測方法では電位差が出にくくモニタリングすることは難しい。それについては今後より詳細に検討をする必要があると思われれる。
3. タンク内電位場解析プログラムの開発
Fig.2 試験装置および計測法の概要
Table.1 試験実施項目一覧
Fig.3 試験装置
Fig.4.1 電位分布結果(外部電源法)
Fig.4.2 電位分布計測結果(Al陽極大)
Fig.4.3 電位分布計測結果(Al陽極小)
Fig.5.1 電位分布計測結果(水面下長 6.5cm)
Fig.5.2 電位分布計測結果(水面下長 14cm)
Fig.5.3 電位分布計測結果(水面下長 29cm)
Fig.6 分極特性計測結果
Fig.7.1 電位分布結果(塗膜欠損率 0%)
Fig.7.2 電位分布結果(塗膜欠損率 6.25%)
Fig.7.3 電位分布結果(塗膜欠損率 14%)
Fig.7.4 電位分布結果(塗膜欠損率 25%)
Fig.8 分極特性計測結果
Fig.9 E/i の関係
Fig.10 E/iと塗膜欠損率の関係
(文責 大坪)
(E-mail: ohtsubo★nmri.go.jp) (★に@を入れてください。)
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