有次元Nomotoモデルに基づく船舶の回頭角制御

九州大学大学院工学府海洋システム工学専攻 大坪和久, 梶原宏之


 船舶の操縦性は、船速や積載荷物などの条件によって変化する。船速が速ければ舵の効果は大きく、逆に船速が遅ければ小さくなる。ゆえに、操船の現場では、船速や積載荷重などの条件による操縦性の変化に応じて、PID補償器のゲイン再設定が一般的に行われている。そのような観点から、船舶の運動制御に関する研究分野では、適応制御についての研究が主に行われてきた。例えば、最近ではD.C.DonhaによるH 無限大適応制御による方法、S.Nejimによるゲインセルフチューニング法による方法などが挙げられる。
 ところで、産業分野では、動特性が大きく変化する制御対象に対する有効な手段として、ゲインスケジューリング制御が以前から用いられてきた。この方法については、数多くの応用例の報告がなされている。しかしながら、その方法の一つの問題点は、閉ループ系の時変系としての安定性を理論的に保証できない点にある。つまり、スケジューリング変数の変化の仕方によっては制御対象を適切に安定化できない。1990年代から急速に発展した線形行列不等式 (Linear Matrix Inequality, 以後、LMI) ベース制御系設計法の登場により、時変系の安定性を理論的に保証することが可能になった。具体的には、制御対象の運動方程式から線形パラメータ変動 (Linear Parameter Varying, 以後、LPV) モデルを導出し、LMIを使ってゲインスケジューリングコントローラを設計するLPV制御は、航空機や産業ロボット分野などにおいて、近年、数多くの報告が行われている。しかしながら、著者らが知る限りでは、船舶海洋分野に応用した例はあまり見られない。
 そこで、本研究では、船舶の運動を表す基本的なモデルとして、野本により提案された1次モデル (以後、Nomotoモデル) に着目し、船速により大きく変化する動特性をコントローラのスケジューリング、また、Nomotoモデルと非線形運動方程式の間のギャップをロバスト性によりカバーするという考えの下、船舶に対するLPV制御の可能性について検討した。
 本研究ではT.I.Fossenの文献に記述されているMariner Class Vesselを対象とした。Fig.1に船舶の座標系を示す。

Steering_Coordinate

Fig.1 対象とする船舶の座標系


 この船舶の運動は非線形操縦運動方程式として記述されるので、そのモデルからNomotoモデルを抽出することを試みた。さらにそのモデルは一般的に無次元化されたモデルとして記述されるので、そのモデルを適当な関係式を用いることにより、新たに有次元化されたNomotoモデル (本研究では有次元Nomotoモデルと呼ぶ) を導出した。その有次元Nomotoモデルと非線形操縦モデルや船舶の2次モデルとの動特性の違いなどを調べたものをFig.2〜Fig.4に示す。特に、Fig.3の結果を見ると、設計速度の変化に応じて船舶の動特性は大きく変化することを確認することができる。また、Fig.4の結果からは、十分に有次元Nomtoモデルは非線形操縦モデルの特性を捉えていることが確認される。

nomoto_bode

Fig.2 2次の船舶モデルとNomotoモデルの周波数領域での動特性の比較


nomoto_bode_variable_speed

Fig.3 設計速度の変化によるNomotoモデルの動特性の変化の様子


Step_5deg_psi  Step_5deg_psi

Fig.4 非線形操縦モデルとNomotoモデルのステップ応答の比較 (左図: 目標回頭角5度, 右図: 目標回頭角10度)

 有次元Nomotoモデルは船速の2乗に比例する動特性変化をするので、Fig.5に示すような端点モデルを採用することにより、ポリトピック型LPVモデルを構成する方法を本研究では提案した。

square_triangle

Fig.5 ポリトピック型LPVモデルを構成するための端点モデルの選択方法

 前述したきたLPVモデルに基づき設計したコントローラの性能評価のために数値シミュレーションを行った。なお、本数値シミュレーションの内容は、船舶が衝突回避をする際に、急激に速度変化するような状況を想定して回頭角制御を行っている。参考までに、その数値シミュレーションの計算結果をFig.6とFig.7示す。

NOMOTOs_Rump_Psi_case1  NOMOTOs_Rump_Rud_case1
Fig.6 有次元Nomotoモデルに対する制御コントローラの検証のために数値シミュレーション (左図:回頭角, 右図;舵角)


NONLINEARs_Rump_Psi_case1  NONLINEARs_Rump_Rud_case1
Fig.7 非線形操縦モデルに対する制御コントローラの検証のために数値シミュレーション (左図:回頭角, 右図;舵角)

 本研究の内容は数値シミュレーションによるものだけであり、まだ実験による検討を行っていませんので、まだまだ完成度は低いものになっておりますが、新しい船舶の回頭角制御の方向性を示しているのではないだろうかと期待しております。興味を持って頂けた方には詳細な論文やMATLABの設計ファイルなどをお送りします。


(文責 大坪)
(E-mail: ohtsubo★nmri.go.jp) (★に@を入れてください。)
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