掘削船用DPSの高度化に関する開発研究
九州大学大学院工学研究院海洋システム工学部門, 九州大学応用力学研究所海洋大気力学部門
三井造船株式会社
( 研究代表者: 小寺山亘(九大応力研), 門元之郎(三井造船) )
現在、地球環境問題、地震発生メカニズムの解明を目指して、水深 3000 mより深い深海の海底掘削や資源採取を目指した統合国際深海掘削計画 (Integrated Ocean Drilling Program, 以後, IODPと略記) が進められている。この計画の前に行われていた国際深海掘削計画 (Ocean Drilling Program, 以後, ODPと略記) には、世界 22 ヶ国が参加し、恐竜絶滅の原因とされる小惑星の衝突を実証するなど輝かしい成果を挙げてきた。しかし、当時の技術では、海底下 2000 mの掘削が限度であり、マントルや巨大地震発生域などの深部ターゲットへ到達することが不可能だった。そこで、我が国では科学技術に貢献すべく、海洋研究開発機構 (Japan Agency for Marine-Earth Science and Technology, 以後, JAMSTECと略記) が中心となって、海底下 7000 mまでの海底掘削技術を要する地球深部探査船「ちきゅう」(CHIKYU)を建造し、2005 年 7 月に運航を開始させた。
地球深部探査船「ちきゅう」に搭載されているライザー管は、最長 7000 m以上にもなるため、相対的な剛性が低下し、まるで釣り糸のような振る舞いを示す。また当然のごとく、全体が海中に没しているために流体力の影響を強く受ける。ゆえに、そのライザー管の複雑な挙動を予測することはもちろんのこと、制御することは非常に困難な技術である。しかしながら、外乱要因を多く持つ海上での作業は緊急退避などの必要に迫られるため、そのような状況下では、一時的にライザー管を接続している防噴装置頂部から切り離し、回避後は早急に再接続する必要がある。それをリエントリー作業と呼ぶ。その際、Fig.1に示すように、掘削作業者はROV (Remotely Operated Vehicle) に備え付けられたカメラで状況を観察し、長年の経験で培った勘に頼りながら船舶を位置制御し、先端部を目標点まで制御する。しかしながら、現状では、このリエントリー作業に多大な労力を要しており、さらに、掘削者の技術継承問題などを考慮すると、高精度ライザー管先端位置制御によるリエントリー作業の自動化は早急に求められている必要不可欠な技術である。
ライザー管に関する研究は盛んに行われており、近年においては、数値流体力学などの発展もあり、渦励振などの流体力学的視点から管の動特性を考えようとする研究に重点が置かれるようになった。しかしながら、実際に運用上必要なライザー管の制御技術に関する研究は、鈴木らの研究が行われて以来、ほとんど発表されていない。最近では、制御理論に重点を置いた研究として、M.P.Fard の受動性に基づく非線形制御に関する研究などがあるが、非線形無限次元系の安定性を保証する Lyapunov 関数の構築法などについて大きな成果が得られているが、まだ、水中の非線形運動を取り扱える実用的なレベルにまでには到達していない。
そこで本研究では、大水深ライザー管の動特性が速度変動により大きく変化する点に着目し、線形パラメータ変動制御方式の有効性を数値シミュレーション、及び水槽実験により確認した。
Fig.1 ライザー管のリエントリー作業の様子
(北大地物のHPより URL: http://www.ep.sci.hokudai.ac.jp/)
本研究は幾つかのフェーズに分けられて研究を行うことになっており、私が研究に従事したフェーズ1においては浮体部の運動は考慮することなくライザー管のみの動特性の解明、及び運動制御についての検討を数値シミュレーションと水槽実験により検討することを目的としている。ライザー管の動力学については、小寺山、千賀らの研究成果を利用することにした。ライザー管の運動方程式を導出するために利用した座標系をFig.2に示す。
Fig.2 大水深ライザー管の座標系
小寺山らにより導かれた運動方程式を解析したところ、Fig.3に示すように浮体部の速度変化に応じてその動特性は大きく変化することが明らかになった。そこで本論文では、浮体部の速度変化によって制御コントローラを変化させる線形パラメータ変動制御方式を適用した。制御コントローラの検証のために数値シミュレーションを実施した。Fig.4にその結果を示す。比較のために、複数モデルに基づくロバスト制御方式の結果も同時に示す。
Fig.3 ライザー管の動特性の変化 (上図: 応力研モデル, 下図: 1500 m クラスの実物換算, 赤線: 浮体部速度 0.1 m/s, 青線: 浮体部速度 0.0m/s)
Fig.4 数値シミュレーションによる制御方式の比較 (左図:複数モデルに基づくロバスト制御方式, 右図;提案する線形パラメータ変動制御方式)
九州大学応用力学研究所深海機器力学実験水槽において、ライザー管模型のリエントリー実験を行った。実験を行う際には、九州大学応用力学研究所稲田勝技術員、及び九州大学大学院総合理工学府大気海洋環境システム学専攻海中機器制御研究室の支援の下で実施した。ここで改めて謝意を表したい。参考までに、Fig.4〜Fig.6に実験の装置について、さらにFig.7には実験結果を示す。
Fig.4 ライザー管リエントリー実験の流れ (九州大学応用力学研究所)
Fig.5 ライザー管模型の鳥瞰図 (九州大学応用力学研究所)
Fig.6 ライザー管模型を駆動するパラレルリンク (九州大学応用力学研究所)
Fig.4 九州大学応用力学研究所深海機器力学水槽における水槽実験による制御方式の比較 (左図:複数モデルに基づくロバスト制御方式, 右図;提案する線形パラメータ変動制御方式)
本研究の内容は船舶海洋工学会論文集にすでに発表済みです。詳細について興味を持たれた方は、次の論文を是非お読みください。
・ 大坪和久, 五百木陵行, 梶原宏之:
速度変動に伴う流体抗力の影響を考慮した大水深ライザー管のゲインスケジューリング制御
日本船舶海洋工学会論文集第2号, pp.1-8, 2006
・ 大坪和久, 千賀英敬, 眞鍋崇寛, 小寺山亘, 梶原宏之:
大水深ライザー管のゲインスケジューリング制御による水槽実験について
日本船舶海洋工学会論文集第2号, pp.49-55, 2006
本研究を実施するにあたり、九州大学応用力学研究所海洋大気力学部門教授 小寺山亘先生、同部門助教授 中村昌彦先生には適切なアドバイス、及び実験を行う許可を与えてくださいました。また、九州大学応用力学研究所技術員 稲田勝氏、及び、九州大学大学院総合理工学府海中機器制御研究室の千賀英敬氏をはじめとする学生の皆様には実験補助をしていただきました。改めて御礼申し上げます。最後に、大坪は本研究を行う際に、平成16年度笹川科学研究助成、及び平成16年度造船学術研究推進機構から支援して頂きました。関係者各位に改めて謝意を表します。
(文責 大坪)
(E-mail: ohtsubo★nmri.go.jp) (★に@を入れてください。)
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