固定ピッチ型水平軸風車の可変速制御による高効率化

九州大学風レンズ研究グループ
( 研究代表者: 大屋裕二 (九大応力研) )


 近年、クリーンなエネルギーの一つとして風力発電が世界的に注目されている。中でも、デンマーク、ドイツなどでは、すでに、電力需要の 10 %以上を風力発電により賄っており、EU諸国全体では 2010 年に向けて電力需要の 22 %を供給するように目標を掲げている。欧米では 2010 〜 2020 年にかけて、電力の 5 〜 10 %を風力発電により賄う時代が到来するとも言われている。このような大きな電力需要を目標に掲げることができるようになった主要因は、風車の大型化、空力性能の向上と、1990 年代初期から研究開発が盛んに行われた制御技術の向上にある。また最近では、風力発電設備の設置場所が陸上から洋上へとシフトする傾向にある。洋上は陸上よりも一定風速以上の強い風が期待できるため、安定した電力供給の実現が可能であり、そのため、わずかな発電効率向上も、長期的には大きな効果が期待できる。したがって、風力発電の制御技術の研究がますます重要になってきている。
 制御技術の観点から風力発電の効率改善のためには、2 つの問題を解決する必要がある。第 1 に、定格風速以下の風速領域において、風エネルギーから最大のパワーを獲得すること。第 2 に、定格風速以上の風速領域においては、風のエネルギーの流入を調節しながら定格出力に維持することである。これらの問題を解決する方法として、ロータの回転数を風速に応じた最適値に制御する方法がある。風力発電機の最適回転数制御の問題に関して、R.Datta と V.T.Ranganathan は、従来から採用されてきた方法について明らかにしている。その方法は、発電機の回転数の情報のみで必要な発電機トルクが決定され、非常に簡便な方法である。しかし、この方法は、風力発電機の静的な釣合いの関係式から導かれたものであるために、風力発電機のダイナミクスが考慮されていない。さらに、空気密度は設置場所の気候等に大きく左右される事を考慮すると、この方法は高い発電効率を期待することができない。
 この問題を解決するため、涌井らは PID 制御を用いて、その制御方式の有用性について明らかにしている。しかし、空力トルクが強い非線形性を有するため、彼らの方法は広い風速領域に適応することは困難である。そこで、W.E.Leithead らは、その非線形性に着目し、スケジューリング制御を適用している。同様にして、H.D.Battista らは、ロータ-シャフト-発電機システムに対して、Hamiltonian から Controlled Lyapunov 関数を構成して非線形制御則を導出している。しかし、以上の文献においては、定格風速以上の風速領域における制御問題については言及されていない。
 そこで本研究では、風力発電機の数学モデルが風速変動に依存する非線形性を有することに着目し、線形パラメータ変動制御方式を、最大発電効率を獲得するための回転数制御、及び定格出力を維持するための回転数制御の 2 つの制御問題に適用し、数値シミュレーションと風車シミュレータと呼ばれる風力発電機開発支援装置を利用した検証実験により、その有効性と問題点を明らかにすることを目的とする。

 本研究では九州大学風レンズ研究グループで開発された鍔付きデフューザー型風車 (風レンズ風車) を対象として検討を行った。Fig.1 にその風レンズ風車を示す。この風レンズ風車の特徴などについては、大屋らの論文を参考にしていただきたい。

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Fig.1 風レンズ風車 (九州大学風レンズ研究グループ)


 一般的に風力発電機の運転モードはFig.2 に示されるように分類される。本研究においては、モード 2 とモード 3 の 2 つの運転モードに着目し、それぞれの運転モードにおける回転数制御問題を定式化した。また、モデルベースの制御系設計を行うために、風レンズ風車の物理モデルはFig. 3 に示すように表されるので、それから数学モデルを導出した。

mode_strat_r

Fig.2 風力発電機の運転モード


Wt_mecha

Fig.3 風レンズ風車の物理モデル


 各運転モードの動作点はFig.4 のように変化するので、その動作点においてテイラー展開を施すことにより、線形パラメータ変動モデルを導出した。さらにモード3 においては 2 つのスケジューリング変数を持つ線形変動モデルが導出されるので、Fig.5 に示すような端点モデルを設定することによりポリトピック型のLPVモデルを導出した。

Operational_Point

Fig.4 風力発電機の各運転モード毎の稼動点の変化


Relationship_Wind_and_Omega

Fig.5 ポリトピック型LPVモデルを導出するための端点モデルの設定

 導出したポリトピック型LPVモデルに対してLPVコントローラを設計し、その制御性能の検証のために数値シミュレーションを行った。その結果をFig.6 に示す。参考までに従来制御方式の結果を左図に、線形パラメータ変動制御方式の結果を右図に示している。また、上図はモード 2 の結果、下図はモード 3 の結果を示している。

Convent_Mode2   LPV_Mode2
(a) モード 2 の計算結果

Convent_Power_Mode3   LPV_Mode3
(b) モード 3 の計算結果

Fig.6 数値シミュレーションによる制御性能の比較 ( 左図:従来制御方式, 右図;線形パラメータ変動制御方式 )


 本研究では、風車シミュレータと呼ばれる風力発電機開発支援装置を新たに提案して、その装置を使った検証実験を行った。その装置の鳥瞰図をFig.7 とFig.8 に示す。また、全体図をFig.9 に示す。この装置の大きな利点は、ロータ翼を必要とせずに風車の実験を行うことが可能であるために、実験室内で制御システムの検証を行うことが可能な点である。

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Fig.7 風車シミュレータの鳥瞰図 (写真 1)


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Fig.8 風車シミュレータの鳥瞰図 (写真 2)


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Fig.6 風車シミュレータの全体図

 風車シミュレータの生命線と呼んでも過言ではないのが、空力トルクの実現までの計算の流れをFig.10 に示す。実験結果については、私の学位論文などを参考にして頂きたい。

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Fig.6 空力トルク特性を実現するための計算の流れ

 本研究の内容は船舶海洋工学会論文集にすでに発表済みです。詳細について興味を持たれた方は、次の論文を是非お読みください。

  ・ 大坪和久, 本田大作, 梶原宏之:
    固定ピッチプロペラ型風力発電機の可変速LPV制御
    日本船舶海洋工学会論文集第1号, pp.1-8, 2005

 本研究を行う際には、風レンズ研究会の皆様、特に、九州大学大学院工学研究院航空宇宙工学部門教授 桜井晃先生、九州大学応用力学研究所海洋大気力学部門教授 大屋裕二先生、同部門助教授 鳥谷隆先生、佐世保工業高等専門学校長 井上雅宏先生に適切なアドバイス、及び実験装置を使用させて頂く許可を頂いた。ここで改めて謝意を表します。


(文責 大坪)
(E-mail: ohtsubo★nmri.go.jp) (★に@を入れてください。)
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