6.おわりに


本報告で求めた確率は、当時の一般の船舶の事故発生確率ではなく、あくまでタイタニック号という特定の船がその特有な環境下でどの程度の確率で事故に遭うかを求めたものである。その結果、同事故と同等以上の海難事故の発生確率は2.05×10-2回/航海であった。これは、およそ49航海に1回という非常に大きな割合で同事故と同等以上の事故が起こることを示している。90%信頼度幅での値でみると、およそ29航海〜102航海に1回という値である。

一方、1978年〜1995年の間における大型客船・フェリーに発生した事故統計データから遭難者数と累積発生確率を求めた結果は図8中の左下隅、灰色の線となっている。タイタニック号事故の解析結果と比較すると大きな隔たりが見られる。

20世紀初頭の船旅は想像以上にリスクを伴った旅であったと言えるのではないか。つまり、天気予報もなく、レーダーの無い状態で夜間に高速航行しており、しかも、万一の事故時の救難体制は貧弱であった。乗客数よりはるかに少ない救命ボートの数、イパーブのような救難信号発生装置はなく、無線を受信する体制も整備されていなかった。

タイタニック号事件は、当時の事情では発生してもやむを得なかった事故といえるのであろう。この事故を教訓に航行方法も含め種々の安全対策がとられる様になり、その後の安全な航海が確保されタイタニック号に匹敵する事故の発生を防いできた。例えば、この事故により氷山の脅威が改めて認識されたとも思われる。実際USCGでは貴重な氷山のデータや情報を航行の安全等のために提供しており、今回の解析でも十分活用できた。図8中に示した1978〜1995年の事故発生確率からもわかるように、現代では当時と比較して安全な航海が行われるようになった。

本解析結果の発生確率2.05×10-2/航海 を別な角度から考察してみると、約49航海に一度この様な大事故が発生する事を意味している。それにもかかわらず第一回目の航海で事故に遭遇してしまったタイタニック号は不運であったとも言えるであろう。

通常、大事故の発生の陰には無数の小事故が存在すると言われている。しかし図8の遭難者数と累積発生確率の関係をみると、遭難者が出る事故は大事故になってしまっている。これはこの大型客船の置かれた状況を反映している。つまり小事故では、遭難者が発生することは稀であり、遭難者が出るような事故はほとんど大事故である事を示している。

本解析では、イベント・ツリーを用いた定量的評価法により、事故解析/事故究明にとって有力な情報が得られる例が示された。今後、この様な定量的評価を基に安全確保に関する議論が海洋分野においても一層深まる事を期待する。



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