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水槽試験技術グループ

 


このグループは推進性能の良い船の形(船型という)やプロパルサ(推進器)を開発する上で重要な役割をなす性能評価を実験的に行う研究をしています。船型には船体のみならず、舵やキール、フィンなどが含まれます。


 

メンバー 

(◎はグループ長)

下田 春人
牧野 雅彦
藤沢 純一
濱田 達也

後藤 英信
若生 大輔
澤田 祐希


  

主な研究テーマ

 

 
1.推進性能
船が進もうとすると主に水(海水)から抵抗を受けますが、推進性能とはこれにうち勝って船を推進させるための力の大小をいいます。同じ大きさの船や速力または仕事(積荷)などに対して、水の抵抗が小さい船は推進性能が良いといえます。
従来は波・潮流・風などのない状態(平水中)で推進性能の良い船を開発していましたが、近年は波浪中で抵抗の少ない船や馬力または燃料消費量の少ない船の船型について研究を行っています。更には、推進性能ばかりでなく、運航コストや船価などまで含めた総合性能で評価する様になっており、船型開発時にこうした推進性能を考慮することが必要となってきています。


 
2.プロパルサ
船体を航走させるためには、自動車のタイヤにあたる推進装置(プロパルサ)が必要であり、よく知られているものとしてスクリュー・プロペラ(通常、プロペラと呼ばれることが多い)があります。(この他にも外輪プロペラ、帆などがあります。)
プロペラも様々な種類があり、よく目にする通常型プロペラの他、可変ピッチプロペラ、ダクトプロペラ、二重反転プロペラの他、現在話題となっているポッテッド・プロペラがあり、それぞれの長所や特徴を生かして用いられます。


 
3.キャビテーション
船を動かすプロペラは効率良く推力(スラスト)を出すため、プロペラ翼の背面(前進面)側の圧力は真空近くまで低くなります。この様な低い圧力の所では常温(15℃)でも水が沸騰し、泡の固まりが発生します。この現象をキャビテーションと呼びます。キャビテーションが発生すると、泡がつぶれる際に高い圧力が発生するので、プロペラや舵が損傷してしまいます。また、このときノイズが発生するので潜水艦や音響ソナーをもつ船では騒音が問題となります。なかでも一番問題となるのは船尾振動で居住性、安全性の観点から商船では重視されており、この発生予測技術の向上が最も期待されています。
 


 
4.船の推進性能の評価と水槽試験
船型の推進性能は今でも平水中で行うのが基本となっており、このため曳航水槽という非常に大きなプールで模型船を引っぱって性能を計測することで実船の性能を評価します。この模型試験による手法は100年以上前に開発され、今日までデータの蓄積と試験法の改良がなされてきています。当研究所には2本の曳航水槽があり、一つは三鷹第2船舶試験水槽(通称、大水槽、400m水槽、長さ400m、幅18m、深さ8m)で世界有数の大きさを誇っています。もう一つは、三鷹第3船舶試験水槽(通称、中水槽、長さ150m、幅7.5m、深さ3.5m)で、水深を変化させることもできます。また、両者はそれぞれ種々の波を発生させることが出来ます。実海域を想定した波浪中性能の研究も行っています。
 
この他に、プロパルサを中心に推進性能を評価するため、大型キャビテーション(空洞)水槽があります。曳航水槽と異なり、水が水槽内を循環する回流水槽であり、キャビテーションを発生させることができる様に真空近くまで水槽内を減圧できます。この施設は長手方向16m、高さ10mで日本最大のキャビテーション(回流)水槽となっております。詳細は 研究施設ページ を御覧ください。


 

5.試験水槽の近代化
400m水槽は平成13年~14年度にかけて、改修工事を行い、建設後38年も経て老朽化した水槽は時代の変化と要請に対応した新しい水槽に生まれ変わりました。改修に当たり本研究グループが中心となって改修工事に対応した業務を行いました。
工事の内容は以下の通りです。
*曳引車の速度制御装置の近代化(制御性能、安全性及び実用試験速度の向上)
*造波装置の近代化(フラップ型からプランジャ型へ)
また、水槽性能維持のために定期的に保守作業を実施しています。


 
6.水槽試験法の開発
このグループは船型開発の基本となる船の抵抗と推進性能を精度良く計測する水槽試験法の開発や精度向上、並びに効率化に取り組んでいます。この試験法に関しては、国際試験水槽会議(International Towing Tank Conference)というNGOの団体が世界で最も進んだ合理的試験手法について技術委員会を設置して調査・検討・議論・推奨をする活動を行っています。当研究所もこのメンバーの一員として参加するとともに、会議の運営をする評議会(Advisory Council)に参画し、技術委員を各期(現在第2期、1期3年)数名参加させ、国際協力と貢献をしております。
抵抗・推進性能の優れた船型開発にも取り組んでおり、現在話題となっているポッド型プロパルサを装備した船型開発とポッド型プロパルサを装着した船の推進性能の計測法の開発に取り組んでおり、国土交通省からの受託研究「次世代内航船の研究開発」プロジェクトにおいて新しい試験法を開発指導する縁の下の力持ちとしての貢献をしています。

左:模型船製作&寸法検査 右:KCS模型船の水槽試験

 

7.船型開発
従来の船型開発は過去の試験結果を集積したデータベースや造波抵抗理論やプロペラ理論などに基づき、経験工学的に何隻も模型船を製作し、シリーズ試験等のなかで良い船型を見つける手法がとられてきましたが、現在はハイパフォーマンスなコンピュータの発達に対応した数値計算法(CFD;Computational Fluid Dynamicsを含むNFD)が数多く開発されてきています。最近は水槽試験の前にNFDで最適船型を見い出して、最終的に水槽試験で確認する手法がとられるようになってきています。本グループではCFD計算プログラムの信頼性確認の検証データを提供するため、不確かさ解析のための繰り返し試験を行うとともに、得られた検証データを世界に発信しています。
これらの取り組みを通して、新しい概念の推進性能の優れた船型の提案をしていく予定です。


  

研究内容

 

1.マイクロバブルPIV (見えない流れを”見せる”技術 ) 
 
 「マイクロバブルとは」
地球環境への影響から船舶に対する国際的な規制が高まっています。当研究所では、環境にやさしい船舶の研究を行っていますが、そのために船舶の推進性能を評価する研究は重要です。推進性能をより正確に評価する「マイクロバブルPIV」と呼ばれる研究についてご紹介します。
 
 
見えない世界を見てみたいとの欲求は皆さんもお持ちでしょう。例えば、屋外で水や空気の流れを感じることはあっても、どこから来てどこへ行くのか、私たちの眼には見えません。この疑問に挑んだ人の記録として、古くはレオナルド・ダ・ビンチが描いた、流れに置かれた平板の渦流れのスケッチ(1513年:上図)が知られています。他に水の流れを詳細に描いた有名な絵画として「聖ドミニコ、聖ペテロおよび聖クリストファを抱くマドンナ」が知られています。イタリア・ボローニャ市にある聖ドミニコ教会の博物館に展示してあるフレスコ画ですが、足下に渦流れが詳細に描かれていることについて日野幹雄先生がその著書「流体力学」の中で指摘しています。
 
古来より、私たちの先祖は小川に浮かぶ落ち葉が流れに沿って流れることに気づき、その動きから流れの向きや速さが分かることを知っていました。このように小川を流れる落ち葉のような目印となる物体をトレーサと言います。また、見えない流れの動きを見るために敢えて落ち葉のような物質を流れのなかに人為的に入れる方法を注入トレーサ法といいます。
 
 

このように流れを人間の目で見えるようにする技術は「流れの可視化技術」と呼ばれています。

 

「流れの可視化技術」は、船の研究も含めて様々な流れを取り扱う研究に、昔から応用されてきました。くしの歯のように整った流れ(層流)から、絡み合った糸のような乱れた流れ(乱流)への遷移(移り変わりのこと)など様々な新しい流体現象が「流れの可視化技術」により次々と発見されてゆきました。流れの研究者は、流れを見るだけの可視化技術だけでは飽き足らず、流れを可視化した映像から速度や方向などの数値を計算する方法を開発しました。

 

この方法の代表格がPIVと呼ばれる方法です。PIVとはParticle Image Velocimetryの略で、日本語では「粒子画像速度計測法」と言います。これは小川を流れる落ち葉や、煙突からの煙が風のなかでたなびいている様子から流れの大きさや方向を判断する原理の応用です。人間の目で判断している流れのおおよその向きや大きさを、コンピュータを使って、誤差が少なく合理的かつ効率的に数字で表す方法(定量可視化工学)として開発されました。

 

実際にどういう手順をとって判断しているかを図1のように連続して撮影した2枚の画像を使って説明しましょう。1枚目と2枚目の画像を比べると緑色の物体が2枚目では右に動いていることがわかります。2枚の画像だけでは移動した向きや量しかわかりませんが、2枚を撮影した時間間隔がわかれば速度を求めることができます。
 
 
 
 
 
 
 
 

ところで、近年は地球環境保護の観点から、船舶に対する国際的な環境規制を求めるうごきが高まっています。船からの二酸化炭素の排出を少なくするには、船の燃料が出来るだけむだにならないようにしなければなりません。そこで船が水を押しのけて進む性能を改善することで、燃費を良くしようと世界中で努力がなされています。このためには船の前進を妨げる、船まわりの水の流れについて調べ、できるだけ効率の良い船をデザインすることが重要なのです。


海上技術安全研究所でも、船からの二酸化炭素の排出を少なくするための研究に取り組んできています。当グループでは、上記で説明した定量可視化工学の手法の一つであるPIVを使って、船のまわりの流れを詳細に計測することで船の推進性能を評価する技術を開発しています。 

図2トレーサ(流れを観察す
るための目印)として使わ
れる銀コート中空ガラス
ビーズ

実験水槽のPIV計測でよく用いられる目印になる細かい粉末(トレーサ)としては、銀コート中空ガラスビーズ(図2)やナイロン粒子等の水の比重に近く、サイズの小さい粉のトレーサが使用されています。しかしながら、可視化のために、一旦、水槽にまいてしまった粉を回収することは実際には難しく、結果的に実験水槽の水を汚してしまうことになるので、気軽にまくことは出来ません。

図1 PIV計測法の原理

 

 
 

 
 「マイクロバブルで流れを”見る”」
 
そこで、当研究所では粉のトレーサとは異なり、水槽中に残留することのない非常に細かい空気の泡(マイクロバブル)をトレーサとして使用することで、この問題を解決する手法の開発に取り組んでいます。

図3  マイクロバブル(左:マイクロバブルで濁って見える  右:拡大写真 白い粒がマイクロバブル)

 
 

ここで使用しているマイクロバブルは、直径が50μm(0.05mm)以下の気泡で髪の毛の直径よりも小さい泡のことを言います。普段、サイダーや風呂などで見る泡はすぐに浮いてしまいますが、マイクロバブルは、とても小さいためすぐには浮きません。また、発生した泡をビーカーに入れた写真を見ると図3(左)のように白く濁って見えます。これを拡大してみると図3(右)のように小さな泡を見ることが出来ます。
 

今回は、マイクロバブルをトレーサとして利用し、動揺試験水槽(図4)できれいな波(Sine波)を発生させ水中の流れを計測した一例を紹介します。

図4 動揺試験水槽

 

 
 

こちらが実際に水槽できれいな波(Sine)を発生させ、マイクロバブルをカメラで撮影したものです(5)
 

 
これを見ると水中ではマイクロバブルは円運動を描いていることがわかります。この画像から速度を計算して理論値と比較すると図6のように良く一致していることがわかりました。今後は模型船周りの流れの計測を行うためさらに計測装置の改良を行っていく予定です。

図6 計測結果と理論値との比較
赤い線が理論値、青い点が計測結果。良好に一致していることが分かる


 

 
 

2.水槽試験のための3Dプリンタ活用
 
船の推進エネルギー効率を上げるため、船体に突起や円筒などの付加物を取り付けて船のまわりの水の流れを改善し、燃費を向上させようとする試みが行われています。当研究所でもこうした付加物による効果を確かめる試験が行われていますが、様々な付加物の効果を迅速に確かめられるように3Dプリンタで付加物を製作しています。
 
最近の船舶は性能向上のために、船体にダクトやフィン等を取り付ける場合があります。このようなものを付加物と言います。
 
これらの付加物等は精密な寸法通りに製造する必要があります。また、取り付け位置も、精密にする必要があります。そのため、位置合わせを行う基準金具を特別に制作することがあります。

しかし、近年の3Dプリンタは製造精度も良くなり、価格も安くなってきました。付加物の製造はもちろんのこと、位置合わせをするときに使用する治具や基準金具なども十分な精度で制作できるようになってきました。流体設計系では、3Dプリンターを使用して、水槽試験で用いる付加物や治具・基準金具等を製作しています。

 

写真は3Dで制作した付加物等。右は3Dプリンタで製造するためのCAD図面例

 
 製作したもののいくつか(上図)を写真撮影しました。写真をご覧になってください。海技研では、主にダクト等の付加物、治具などの製作が多いです。舵の製作実績はありますが、スクリュープロペラの製作実績はまだありません。この他、3Dプリンターの部品自体の製作も行っています。
 
 
図1は3Dプリンタで製造するためのCAD図面例です。3DCADのデータを読み込んで3Dプリンタ用のファイル形式に変換して、プリンタに転送します。

 


このような付加物の改良は、少しずつ形を変えて試験を繰り返すことでより良い形にしていきます。
少しずつ形を変えた似たものを多種製造することは、3Dプリンターが得意とすることろです。船舶の性能向上に3Dプリンターは強力な道具となることがわかりました。今は、小さな寸法の物しか製作できませんが、近い将来には模型船本体の製作も可能になるでしょう。
弊所では今後も、3Dプリンターを上手に活用して安く早く船舶の性能試験が実施できるよう、目指してゆきます。