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旅客船のバリアフリーの現状と課題

担当:宮崎恵子



はじめに

 社会基盤として、街の中にはバリアフリー設備が整いつつあり、旅客船においても、法律が施行され(注1)、バリアフリー化が求められています。
 海上技術安全研究所では、旅客船バリアフリー設備データベース(注2)を整備しましたので、これをもとに、旅客船のバリアフリーの現状と問題点について紹介します。

(注1)昨年(平成12年)に施行された「高齢者・身体障害者等の公共交通機関を利用した移動の円滑化の促進に関する法律」(通称:交通バリアフリー法)により、旅客船にもバリアフリー基準が義務づけられるようになりました。実際に適用されるのは、2002年5月15日以降に新たに一般旅客定期航路事業に用いられる旅客船に対してです。
(注2)平成12年3月に、国土交通省海事局安全基準課ならびに国内旅客課(当時は運輸省海上技術安全局安全基準課ならびに海上交通局国内旅客課)がおこなった、国内定期旅客船のバリアフリーに関する実態調査を集計しました。調査船舶は、国内定期旅客船1,088隻です。


旅客船の実態

 図1に旅客船の総トン数別隻数分布、図2に航行時間分布を示します。ここでは、高速船は航海速力22ノット以上の客船を、純旅客船はro-ro旅客船並びに高速船以外の旅客船を意味しています。一口に旅客船といっても、大きさや運航形態が様々ですので、それぞれにあったバリアフリー化が必要です。
 バリアフリーの設備では、20トン以上の旅客船で、身体障害者用トイレ及びエレベータの両方を備えているのが25隻(20トン以上で二層以上の甲板を有する船の4.8%)、身体障害者トイレのみは80隻(20トン以上でトイレを有している船の11.7%)です。エレベータ、エスカレータ、階段昇降機といった上下方向の移動装置のうち、何らかのものを有しているのは、全旅客船のうち68隻(甲板間の移動が必要な旅客船の14.8%)と、十分でない現状です。
図1 旅客船の総トン数別隻数分布
図2 航行時間別の隻数分布

 通路幅としては、800mm以上が車いすの通行に確保したい幅ですが、表1に、甲板室出入口有効幅、甲板室出入口から旅客室までの通路幅の最小値ならびに旅客室内の通路幅の最小値がそれぞれ800mm以上である旅客船および三項目全てが800mm以上である旅客船の割合を、船種毎に示しました。半分強の旅客船は、車いすで乗下船口を通行できるようになっています。但し、乗下船口は水密のための敷居があり、車いすが容易に通行できるか否かは別途検討を要します。また、船内の移動は、特に高速船では厳しい状況です。

表1 通路幅が最低800mm以上ある旅客船(%)


旅客船のバリアフリーの問題点

 旅客船のバリアフリーの問題点を大きく捉えると、次のようになります。
1.海上を航行するという性質上、安全性の確保のための水密構造及び防火構造(国内外の規則で規定)とバリアフリーが、現在のところ両立しない。
2.同じく、動揺、潮位差(ターミナルとの傾斜)、塩害(機器に影響)等の厳しい環境条件にさらされている。
3.旅客船の形態が様々でバリアフリー設備及びその配置等を一概に決めることができない。
4.障害者・高齢者の特性を考慮した緊急時の避難及び救命の対策について検討が不足している。
5.造船会社及び運航会社が最も留意する安全性の確保とともに、快適性の考慮や健常者と同等のサービス(含む情報)が要望されている。


海上技術安全研究所の研究課題

 上記の問題点を解決すべく、海上技術安全研究所ではいくつかの項目に分けて研究をおこなっています。
1.船内の車いすによる移動のための研究
2.車いすの固定装置に関する研究
3.障害者の避難安全に関する研究
これらの成果を基に、
4.モデルとなるバリアフリー旅客船の設計
をおこなうとともに、車いすの船内移動のための補助装置や固定装置の開発、避難安全評価ツールの開発もおこなっていく予定です。また、視覚・聴覚障害者への情報提供に関しては、他の分野の成果を適宜取り入れる心構えでいます。


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