スターリングエンジンの再生器

再生器の働き

 図1に示すように,ヒータとクーラの間に配置される再生器は,スターリングエンジンの熱効率の向上に欠かせない要素部品である。スターリングエンジンにおいて,作動ガスは,膨脹空間と圧縮空間との間を,ヒータ,再生器およびクーラで構成される熱交換器を介して行き来している。以下,再生器の働きを概念的に説明する。

図1 再生器の配置
再生器が挿入されていない場合

 膨脹空間温度をTH,圧縮空間温度をTCに保つための熱交換器を考える。図2に示すように再生器が挿入されていない場合,ヒータからクーラの方向に作動ガスが流れる際,ヒータから出た高温THの作動ガスは,クーラを通過する間に温度TCまで冷やさなければならない。逆に,クーラからヒータの方向に作動ガスが流れる場合,クーラから出た低温TCの作動ガスは,ヒータを通過する間に温度THまで加熱しなければならない。すなわち,ヒータおよびクーラは,作動ガスを温度TCから温度THまで,あるいは温度THから温度TCまで,加熱・冷却するための交換熱量が必要となる。

図2 再生器が挿入されていない場合
理想的な再生器が挿入されている場合

 次に,図3に示すように,理想的な再生器が挿入されている場合を考える。ヒータからクーラの方向に作動ガスが流れる場合,温度THの作動ガスの熱量Qが再生器に蓄えられ,再生器から流出する作動ガス(クーラ入口の作動ガス)は温度TCにかなり近いところまで低下する。したがって,作動ガスの膨脹・圧縮を考えなければ,クーラの交換熱量がほとんどなくても,圧縮空間は温度TCを保つことができる。逆に,クーラからヒータの方向に作動ガスが流れる場合,蓄えられた熱量Qを再利用することで,再生器から流出する作動ガス(ヒータ入口の作動ガス)は温度THにかなり近いところまで上昇する。したがって,ヒータの交換熱量はほとんどいらないことになる。
 以上のように,再生器を挿入することで熱交換器内を往復動する「熱」を有効利用できる。もちろん,実際のエンジンは膨脹・圧縮を繰り返し,外部に対して仕事をするため,それに必要なヒータへの入熱量およびクーラからの冷却熱量が必要となる。

図3 理想的な再生器が挿入されている場合


実際の再生器

 実際の再生器に用いられる代表的な材料として,ステンレス鋼あるいは黄銅製の金網(メッシュ)がある(図4)。実際のスターリングエンジン(特に実験用エンジン)では,数十〜数百枚の金網を積層して使用する(図5参照)。ただし,再生器の積層は組立やメンテナンスに多大な手間がかかり,高コスト化につながるため,実用的なエンジンでは焼結発泡金属などの一体化した再生器材料が使われているようである。

図4 金網の形状

(a) 積層金網

(b) スプリングメッシュ
図5 再生器の外観

 表1は市販されている金網の仕様である。金網の規格は,主にメッシュ数(1インチ=25.4 mm当たりの目数)で表される。一般のスターリングエンジンによく用いられるのはメッシュ数100〜150程度の金網である。スターリングエンジンの再生器の性能に影響を及ぼすパラメータとしては,空隙率,線径,目開き,ピッチ,材料の比熱などがある。

表1 市販されている金網の仕様


実際の再生器

 以上のように,再生器はスターリングエンジンの高効率化に欠かすことができない。一方,再生器がエンジン性能に及ぼす影響は極めて大きく,再生器の選定を誤るとエンジンの出力や効率が低下する。以下,再生器に起因する2種類の熱損失について概説する。

圧力損失
 一般に,再生器の挿入量(積層枚数)を増やすほど,多くの熱が蓄えられるようになる。しかし,作動ガスが再生器内を流れる際,再生器入口側と出口側との間に圧力差が生じる。この損失を圧力損失と呼び,必ずエンジンを止めようとする方向に働く。すなわち,圧力損失が増加することで,エンジン回転数並びに出力が低下する。
 圧力損失を評価する方法は様々であるが,最も簡単にエンジン回転数に対する図示出力の実験結果から圧力損失を見ることができる(図6)。圧力損失が小さい場合,図示出力は,エンジン回転数の上昇に伴ってほぼ直線的に増加する。圧力損失はエンジン回転数上昇に伴い急激に増加するので,圧力損失が大きいエンジンではエンジン回転数の上昇に伴う図示出力の低下が目立つようになる。

図6 エンジン回転数と図示出力

再熱損失
 再生器の挿入量が少なすぎると,熱を蓄えきれずに,ヒータからクーラ,あるいはその逆に熱が通過してしまう。そのように,再生器内を通過してしまう熱損失を再熱損失(あるいは再生器損失)と呼ぶ。再熱損失が生じると,所定の温度条件(温度差)を保つために,ヒータでのより多くの加熱量とクーラでのより多くの冷却熱量が必要となり,熱効率が低下する。なお,実際のスターリングエンジンでは,シリンダ壁や熱交換器の外壁などからも熱が流れるため(熱伝導損失),再熱損失だけの直接的な測定は難しい。

再生器の選定

 以上のように,再生器の挿入量は,多すぎても少なすぎてもいけない。簡易的に最適な再生器の挿入量を見積もるためには,圧力損失および再熱損失を考慮したサイクルシミュレーションなどにより,図示熱効率(図示出力/入熱量)が最高となる再生器挿入量を求めればよい。圧力損失および再熱損失の見積もりには再生器単体で行われた実験式を用いるのが普通である。しかし,それらの損失はエンジンとして組み立てられた状態とは異なることが多く,実際にはエンジン試作後の詳細な実験が必要である。

[Stirling Engine Dictionary]