• 拡大
  • 標準サイズ
  • 縮小
  • 文字サイズ
ホーム > 研究のご紹介 > 海洋開発系 > 深海技術研究グループ > 研究紹介
海洋システム研究グループ研究紹介
厳しい海気象下における大水深油ガス田開発の為の浮体式掘削・生産システム技術に関する研究 ~セミサブリグの係留ライン破断事故の再現実験[1]

海洋における石油・天然ガスの開発(油ガス田の掘削等)や生産(油ガスの汲み上げや精製等)をより安全に進める技術を開発するため、海上技術安全研究所(以後、海技研と呼ぶ)は独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)と共同研究を実施しています。

 海洋の油ガス田の開発では、水深が浅い場合は鋼管で組み立てられた構造物等を設置して、その上からパイプを降ろして開発を行いますが、水深が深く構造物等を設置することが困難な場合は浮体式の開発・生産システムが用いられます。セミサブリグ(semi-submersible rig)は浮体式掘削システム(以後、浮体と呼ぶ)の一種類です。



図1 セミサブリグのイメージ図(海技研作成)

 浮体は波・風・海流に流されないように鎖やロープ(以後、ラインと呼ぶ)で海底に繋がれます。これを係留と呼びます。係留された浮体は波・風・海流に押されて定常変位した位置を中心に揺れ動き、係留ラインに働く張力も変動します。この張力の変動が大きいと係留ラインにダメージが蓄積し、最終的に係留ラインは破断します。これを疲労破壊と呼びます。また、浮体が大きく揺れ動き、ラインの張力がラインの強度を超えると係留ラインは一気に破断します。このような事故は世界中で数年に1度の頻度で発生しています。

 2012年に北欧の北海でセミサブリグの係留ライン破断事故が発生しました。入手可能な資料によると、破断前の1時間はおよそ100トン~300トン(1,000~3,000kN)で変動していた係留ライン張力が破断の約1分前から急激に増加し、約700トン(7,000kN)に達して破断しました。ノルウェーの研究者らにより浮体の上下運動から事故時の波の変動を推定したところ、波高が一時的に有義波高の2倍以上になっていたことが報告されています。このような高い波を異常波と呼びます。有義波高とは波の高さを統計的に表す値です。図2は海技研の試験水槽で再現した異常波を含む不規則波の時間変動(時系列)グラフです。4,600秒付近に異常波が発生しています。不規則波とは図2のように振幅が不規則に変化する波です。



図2 異常波を含む不規則波

 更に、浮体は不規則波中で、波の周期の前後の揺れに加え、波漂流力と呼ばれる力により1分~10分程度の長い周期で前後に揺れ動きますが、前後の運動から推定した波漂流力が従来の推定法による力(ポテンシャル波漂流力)よりも大きくなっていることが判り、ポテンシャル波漂流力に加え、粘性波漂流力と呼ばれる力が働いているのではないかと指摘されました。即ち、今回の事故は異常波と粘性波漂流力による複合的な要因によって発生したとされています。

 本研究では、事故原因の検証を目的として粘性波漂流力がセミサブリグに作用していることを実験により確認すると共に、異常波を含む不規則波を試験水槽内で発生させ、事故の再現を試みることとしました。以下に試験の結果について紹介します。


  • 波漂流力計測試験

海洋波は、視覚的には水面の上下変動として観測されますが、水の局所的な塊(水粒子と呼ぶ)に着目すると、波が進む方向に平行な鉛直面内で円運動を描いています。

 ポテンシャル波漂流力は波高の自乗に比例する力で、主に浮体の波上側と波下側の変動水位差により発生します。一方、粘性波漂流力は、主に水面付近で円運動する水粒子が浮体に衝突して発生する抵抗力に由来し、その大きさは波高の3乗に比例します。現在、一般にセミサブリグの係留はポテンシャル波漂流力を基に設計されていますが、粘性波漂流力が作用しているとなると安全性の指標は危険側に傾きます。



図3 波漂流力計測試験に用いたセミサブリグ模型

 波漂流力はバネで水平に係留されたセミサブリグ模型に、規則波・不規則波を入射させ、水平方向の平均変位とばね定数から求めました。規則波とは水面の上下変位が時間の三角関数に従い、振幅が一定の波です。

 波漂流力の計測結果を図4に示します。規則波中計測の結果は横軸が波高、縦軸は波漂流力を波振幅(波高の1/2)の自乗で割った値で、波高に比例していることから、波漂流力が波高の3乗に比例していることが判ります。不規則波中計測の結果はポテンシャル波漂流力の理論値に基づいて算出した値よりも大きく、粘性波漂流力を想定した推定値に近い値を示しています。このことから、セミサブリグには粘性波漂流力が作用していることが判ります。



図4 波漂流力計測試験結果

  • 事故再現試験

図3のセミサブリグ模型を係留し、図2のような異常波を含む不規則波を入射させ、模型の運動と係留ライン張力を計測しました。異常波以外の不規則波は事故時と同じ有義波高Hs=9.4mとしました。図5は模型の運動と係留ライン張力の時系列グラフです。係留ライン張力は事故時と同様に1,000~3,000kNの間で変動していたのが急激に増加し,12,000kNに達しています。波漂流力計測試験の結果から事故時の海象条件では粘性波漂流力がセミサブリグに作用していたと考えられ,そこに異常波が発生すると破断荷重を超える係留ライン張力が発生する可能性は極めて高いと考えられます。



図5 模型の運動と係留ライン張力


引用文献

[1] 齊藤昌勝、佐藤 宏、石田 圭、浅沼貴之、山本譲司:セミサブリグの係留ライン破断事故再現試験、第26回海洋工学シンポジウム(日本船舶海洋工学会・日本海洋工学会主催)、2017年