CFD(計算流体力学)は最近非常に発達してきたコンピュータの力を借りて 、水や空気の流れを知ろうという若い学問です。この分野の研究を行っているグ ループに研究の概要や現状などについて語ってもらいました。
 出席者は、推進性能部の児玉さん、日夏さん、日野さんおよび平田さんです 。

Q : CFDとはどのようなものですか。 

 CFDは英語のComputational Fluid Dynamicsの頭文字をとったもので、日本 語では計算流体力学といわれるものです。空気や水の動きを計算によって調べる というものです。船は水の上を航行するものですから、船の性能にとって周りの 水の動きが重要です。従来は、船の周りの水の動きを知るために、模型を使った り、実際の船の周りを調べたりしていました。これをコンピュータを使った計算 によって調べようというのがCFDです。(児玉) 
 船の模型を使った実験を行う施設を水槽ということから、CFDのことを数値 水槽とも呼んでいます。(日夏)

Q : CFDは、いつごろ、どのように始められたのですか。 

 1980年頃、原子力の分野で始められ、航空宇宙の分野で花開きました。宇宙 船が大気圏に再突入する状況など、実験で再現が難しい場合に非常に頼りになり ます。船の分野では、波の問題などが難しいために遅れていましたが、ようやく 盛んに取り組まれるようになってきました。(日野)

Q : どんなことに役に立つのですか。 

 これが完成すると、いろいろな船のスピードや操縦のしやすさ、あるいはプ ロペラの推進力などを計算によって推定することができます。つまり、船の設計 を行う際に、船の形をいろいろ変えて検討してどれが一番いいか決定するといっ たことが簡単にできるようになります。もちろんこの技術は船の性能だけでなく 、石油の掘削リグが潮の流れなどから受ける力の計算など、水の流れと構造物と の関係全般に適用することができます。(日夏) 
 全く新しい型の船の性能を模型実験で調べるためには、たくさんの模型を使 用して、長い時間をかけた研究が必要になります。CFDを利用できれば、コンピ ュータ上で船型を様々に変化させることが可能になり短時間に性能の良い船を開 発することができるというわけです。(平田)

推進性能部CFD研究グループの面々。奥左から日夏宗
彦主任研究官、児玉良明室長、日野孝則主任研究官、
手前、平田信行研究官。ワークステーションの前で。


Q : では、現在どの程度まで進んでいるのですか。 

 波のない穏やかな水面を、船が一定の速さで走る状況はうまく計算できるよ うになりました。残念ながら実際の海のように波立った状態での計算はまだうま くいきません。この計算手法を作り上げるということはやりがいのある目標です 。(児玉) 
 計算がうまくいっているかどうかを確かめることも、楽になりました。コン ピュータグラフィクスの進歩がめざましく、計算結果を3次元画像で表示するこ とによってみんなで結果を見ながらディスカッションすることができます。(日 夏)

Q : CFDに使うコンピュータはどんなものですか。 

 一般には、俗に言う「スーパーコンピュータ」が使われています。計算しよ うとする水を網目のようにこまかくわけて、それぞれの場所での水の動きを計算 しなくてはならないので、実用化のためには巨大な記憶容量とすばやい計算速度 が必要です。例えば、100×100×100の網目に区切るだけで100万個の点での計算 が必要になります。我々のグループでは、やや小型のコンピュータを使用して、 いくつかのワークステーションに仕事を分けることによって計算を行っています 。(日野) 
 でもやはり、スーパーコンピュータは魅力的です。お金が問題ですけどね。 (平田)

Q : 将来の夢はどんなことですか。 

 船が進むのを邪魔する力を抵抗といいます。この抵抗には、船が波を立てる ことによるものや船の表面に水が粘りつくことによるものなどいろいろなものが あります。いまのところは波を立てないようにする工夫をしたりして抵抗を減ら していますが、波が消えると、水の粘り気による抵抗の方が問題になります。私 の夢は、船の表面にマイクロマシンと呼ばれる細かなメカニクスをくっつけて、 これによってミクロな水の動きをコントロールして水の粘り気による抵抗を減ら したいと考えています。CFDは、そういった研究を進めるために重要なツールと なるはずです。(児玉)


写真 1:船は、速く走るにつれて、より大きな波を立てます。これは、長さが25m の船が普通    の船の2倍ぐらいの約30ノット(55km/h)の速さで走ったと きの波の形を計算で求め    たものです。この波は、船が速く進むのを妨げ るだけでなく、周りの船などに迷惑を    かけることもありますから、高速 で走ってもあまり大きな波を立てない船が望ましい    のです。

写真 2:これは船がプロペラの推進力で進んでいるときの船尾(後ろ)の部分 の計算例です。    2重の円の場所にプロペラがあります。船の表面の色は 、水が船を押す力が場所によ    って変わっていることを表しています。水 の流れの速さを等高線で表しています。船    の周りの水の動きから、その 船の操縦のしやすさなどがわかります。

写真 3:写真2で、プロペラが船を押し進める力を精密に計算したのがこの図 です。プロペラ    が回転することによって、その表面を水が押す力の強さ を色で表しています。プロペ    ラを水が押す力が船を押し進める力になり ます。