輸送手段の一層の高速化は人類の長い海上輸送に、さらには物流システム全 体歴史において常に求められてきましたし、に新たな地歩を開いてくれるかもし れなこの要請は今後とも決して終焉を迎えるいこの研究の概要や将来等を研究グ ルーことのないものと言えるでしょう。プの皆さんに語ってもらいました。すで に情報分野では音声・画像も含めた多様な情報が、近年注目を集めているインタ ーネットのような地球規模の機構を用いてほぼリアルタイムに伝達されるように なり、ビジネスをはじめとする生活の広い分野に影響を与えています。このよう に、経済機構の中で情報の伝達がほとんどすべてリアルタイムになっていく状況 においては、物流の速度が経済活動を支配する最も大きな因子となるのではない でしょうか。 
 船舶の分野において、すでにTSL(テクノ・スーパー・ライナー)と呼ばれ る従来の倍以上の速度で走る船が開発され、輸送システム全体の変革をもたらす ことが期待されています。しかし、これが人類が海上交通において得た最終的な 到達点であるとは誰も考えはしないでしょう。 
 船舶技術研究所では、海面効果翼船;WISES(ワイゼス:Wing‐in‐Surface ‐Effect‐Ship)と呼ばれる次世代の超高速船に関する基本的な研究を行ってき ました。海上輸送に、さらには物流システム全体に新たな地歩を開いてくれるか もしれないこの研究の概要や将来等を研究グループの皆さんに語ってもらいまし た。(出席者は、推進性能部;不破、日夏、長谷川、堀、平田、高橋、塚田、南 敬称略)

Q.まずこの研究の目的を聞かせて下さい。TSLの実験船が実際に走っている のに、同し超高速船に関する研究ですが、何か違いはあるのですか。

 不破:ご存じのようにTSL(テクノスーパーライナー)は時速100kmと、従来 の船の倍以上のスピードです。船としてみクれば非常に速いのですが、単なる輸 送手段の一つとして捉えればトラックとほぼ同じですから、見方によっては十分 遅いわけですよ。我々の研究対象は飛行機に匹敵するような速度を出せ、しかも 飛行機より経済性に優れた船です。この船の基木的な特徴を明らかにし、実際の 開発において有用となるであろう知見を得るというのがこの研究の目的です。 
 さらに、実はロシア・ドイツなどで若干の利用例があるのですが、単純に輸 入して使おうとしても我が国の輸送システムの現状からかけ離れたものですから 、安全性の評価あるいは各種の法規を作成するための知識がほとんどなかったわ けです。こうした面についても今まで行ってきた研究成果に基づいて技術的な貢 献ができるようになったと考えています。

写真1 模型を前にして、前列左から、堀主任研究官、
不破室長、南研究官、高橋研究官、後列左から、平田主
任研究官、塚田研究官、長谷川主任研究官、日夏主任研
究官


Q.この模型を見ると、WISESって飛行機みたいですけど、どこがどう違うん ですか?

 日夏:航行しているときは空中に浮いています。その点では飛行機と一緒で す。でも浮き方が違うんです。WlSESは非常に低い高度を飛ぴます。つまり下に 地面や水面がないと浮かんでいられないんです。ホバークラフトみたいなもので す。あれもヘリコプターと違って空中高く浮かべないでしょう。

写真2 試設計模型


Q.なるほど、といいたいとこですけど、少し詳しく説明してくれませんか。

 平田:飛行機もそうですけど空気から受ける力、つまり圧力、これのおかげ で空中に浮いています。簡単な話ですけど翼の下側の圧カが上側より高いと上に 持ち上げようとするカ、つまり揚力になりますよね。WlSESは翼のすぐ下に水面 があるわけでその分空気の逃げ道が小さくなって圧力が上がるわけです。小さな 穴のあいた袋に息を吹き込むと空気は漏れても膨らんできますけど大きな穴があ いていちや膨らみにくいでしょ。海面に近いと翼と海面の間に入ってきた空気が 逃げにくくなりますから圧カが上がって揚カが増すんですよ。

 堀:飛行機に乗ったことのある方ならわかると思うんですが、着陸するとき 地面に近づくと降りるスピードがぐんと小さくなって柔らかく着陸するでしょ。 低い高度で飛ぷことでいつもその効果を利用しようという訳なんです。当然高さ に応じて揚カは変わりますからそういったデータをきちんと把握する必要があり ます。

写真3 水槽実験用模型(タンデム型)


Q.飛行機と違うのはわかったんですけど、飛行機ほどはスピードが出ないん でしょう。何かいいことがあるんですか。

 長谷川:飛行機ほどスピードが出ない点ですけど、逆にスピードを出す必要 がない、つまり飛行機より楽に浮いているとも言えるわけです。その分工ンジン を小さくし燃料の消費を少なくできます。輸送手段は、安全性を前提として、ス ピードと経済性という二つの要素に基づいて評価する必要があります。WlSESは その双方について優秀だといえます。

Q.なるほど。新たな輸送の二一ズを喚起したり、従来の輸送手段を一眉効率 化する可能性を秘めているわけですね。ところでこの模型(写真2)ですけど・ ・・。

 高橋:試設計として作ったものです。実際に作るとなると細かな詰めが必要 ですね。けど、現状の知識を下に高度3mから6mを飛ぷものを設計してみました。 ただ、普通の船とまるで違うものを設計するのですからいろいろ苦労しました。 設計に際しては航空機用のプログラムを併用したりもしました。

写真4 水槽実験用模型(リピッシュ型)


Q.新しい物を生み出そうとすると思いがけない間題が出てくるものなのです ね。ところで、実物とまではいかなくてもラジコン模型を作っていると聞いたの ですが。

 塚田:ええ、作って走らせてみました。ラジコンの車を運転しているのを見 たことがあると思うんですけど、大きさの割に動きが早いのですぐ転倒したりし ますよね。この模型(写真3、4)でも同じように操縦が難しいんですよ。実物に は修理の跡が結構あります。コンピューターで制御すると重量が増えてしまうし 、運動の自由を多少制限して実験を行ったりしました。

Q.非常にしっかりした研究をしている様子がわかりました。最後に将来への 夢あるいは展望といったことを聞かせていただきたいのですが。

 南:研究者あるいは技術者として当然のことですけど早く実物を飛ばしてみ たい今は現状の輸送シスデムの中でWlSESの役割を想像するだけですけど、実際 に走っているのをみれば思いもかけない利用法を思いつくような気がするんです よ。

 不破:空港を苦労して造る必要もないし、大きな夢を抱かせてくれる船です よね。研究という視点で言えば、全く違う船ということで新たな実験テクニック 、あるいは解析手法の開発とかも必要でしたし、それなりに苦労しましたが、同 時に得るものがあったと思います。個々の研究から得られた知識に基づき、船の 安全性を評価できる段階に来たのも大きな成果だったと思います。最後に、やは り本物が飛んでいるのをこの目で見てみたいですね。

写真5 80m角水槽を航行するラジコン模型