混相流ってなに?  

 混相流とは、固体、液体、気体の3つの相のうち、2つ以上の相が混在する 流れを指します。つまり、泡を含んだ水流とか、粉が混ざり込んだ風などが混相 流にあたります。広い意味では海面上の波も水と空気の混ざった混相流として捉 えることもできます。

混相流の特徴  

 こうした混相流の特徴として、相と相との境界面が存在し、その面では大き な密度の差が存在することが挙げられます。さらに混相流は、重力などの場の存 在により、相の分離や安定化がおこり、外部からのエネルギー供給により撹乱が 励起されます。この相界面では、渦や、カオス・フラクタルといった、普通の流 れに比べてより複雑な現象が発生し易く、その取り扱いが複雑化します。

船舶工学と混相流  

 波の例のように大きな系を考えなくても、船舶は様々な種類の積み荷を搭載 して、水上または水中を走り、かつ船内にはいくつもの流体機器が存在すること から、船舶工学を研究する多くの場で混相流のメカニズムを解明する必要にせま られています。 
 ここでは、当所でおこなわれている混相流研究のいくつかを紹介します。

推進性能部  

 推進性能の関連の混相流としては、まずキャビテーション(前頁参照)が挙 げられます。プロペラにとってキャビテーションの発生は振動・騒音や浸食を引 き起こすやっかいな問題でした。しかし、このキャビテーションの発生を予め見 越し、積極的に利用して設計された、超高速用のプロペラがスーパーキャビテー ティング・プロペラです。従来、このプロペラの設計は大変難しいとされてきた のですが、最新の流体力学理論を駆使して、世界に先駆けて設計方法を実用化し ました。 
 一方、船の抵抗を減らす方法として、船の周りを小さな気泡流で覆ってしま う方法が有望視されています。流れは非常に細かな空気泡を含んだものとなり、 これも二相流となります。どの程度抵抗が減るのかを理論的に求めるための研究 を行っています。そのほか、高速船の出すスプレー(飛沫)現象の研究も広い意 味での二相流です。

翼型に発生したキャビテーションの様
子です。3次元的にまくれあがってい
るのがわかります。


氷海技術部  

 氷海では、液体である海水の上に固体である氷が浮いているわけですから、 氷海技術部の研究対象は固体−液体の混相流が多くなります。写真のように、砕 氷船の船首で割れた氷が船体の周りをどのように流れて抵抗となるかといった問 題や、その砕氷片がプロペラへ流れ込む問題は重要な研究テーマです。 
 今年度からは、寒冷海域での油流出に関する研究が始まり、海水−氷−油と いう複雑な混相流についても取り組むこととなりました。流氷域に油が流れだし た時に、どのように広がっていくかを予測し、それを防止するための研究成果が 期待されます。 
 そのほか、砕氷船の抵抗の要因として氷と船体との間の摩擦抵抗があります が、これを減らすために船体表面から細かい泡を出すという手法も研究していま す。これなどは、気体−固体−液体の3相流の研究と言えるでしょう。

船首部分で割れた氷は、船型や速度に
よっては船体に沿って流れ、プロペラ
に衝突することがあります。


機関動力部  
 
 船舶の動力分野での混相流の代表は、ボイラ内部の流体運動です。補助ボイ ラや排ガスエコノマイザ内では、伝熱管の外側の燃焼ガスにより管内の水が暖め られ、一部が蒸気となって混相流となります。蒸気は熱を通しにくいため、伝熱 管の壁が蒸気で覆われると、熱を充分逃がすことができなくなり、伝熱管が熱損 してしまいます。冷却液膜を保持するために、ら旋溝をつけた伝熱面や、噴霧二 相流(空気や蒸気と水滴との混相流)による伝熱現象の研究を実施しています。  
 また近年、石炭を燃料とする船が注目を集めつつありますが、これには流動 層ボイラが有望視されています。このボイラ内部は、流動媒体である石炭と空気 との固体−気体の二相流となっています。写真に示すような石灰石粉に下部から 空気を吹き込む実験により、船体の動揺・傾斜条件での流動層ボイラの流動・燃 焼特性について成果を得ています。

石灰石粉の層に下部から空気を挿入
した状態で、流動層ボイラ内の流動
状況をシミュレートしています。


原子力技術部  

 原子力船の原子炉には加圧水型が採用されていますが、一次系破断などの大 きな事故時には、系の圧力が下がり沸騰がおきます。舶用炉はこうした事故時で も健全性が確保できるように設計されています。蒸気−水二相流の性質を解明す ることは、安全裕度の決定と、次世代炉の開発にとって重要です。 
 一次系破断事故では、炉心水位が破断高さに近いときには、流出流量が船体 運動の影響を強く受けることなども、その研究成果です。また、凝縮に伴う高速 蒸気流によって巻き上げられた水スラグが、他方の水プラグと衝突するときの水 撃が90気圧を超えることなどもわかりました。 
 次期舶用炉では、圧力容器全体を水漬けにした受動安全型舶用炉が有望視さ れています。予備実験では蒸発と飽和水放出を交互に繰り返す振動現象の存在が 明らかとなり、今後は、船体運動がこの現象に与える影響を解明していきます。

水に囲まれた蒸気泡(中央
の橙色)の凝縮崩壊により、
右側の水スラグが左側の水
プラグに衝突します。


多相流の数値解法に関する基礎研究

 界面の形状が時間的に大きく変化する多相流問題は、極めて広い分野にわた っています。もしこれらの現象を数値計算でシミュレートできれば、その工学的 価値は非常に高いと言えます。最近、このような多相流問題の数値解法として、 気相や液相など異なる相の部分を同時に計算し、相の界面位置を解の一部として 求める自由表面捕獲法が盛んに研究されています。当所でも、所属研究部を越え て多くの部の研究者が集まり、自由表面捕獲法の検討が行われています。その一 環として、この6月13日に当所で、自由表面捕獲法を主な対象とした「自由表面 流のためのCFDシンポジウム」が開かれ、国内外の多くの有力な研究者によって 集中的な討論が行われます。計算の一例として、招待講演者である米国カリフォ ルニア州立大学のOsher教授による計算結果を示します。液滴が床に衝突して潰 れ、側壁を這い上がる様子が示されています。

表面張力が在る場合の、
液滴の衝突の様子です。
それぞれ5000個の格子に
区切って計算しています。