研究者インタビュー


汚染防止に関する研究グループ

装備部・氷海技術部

今年 1月2日に日本海で発生したロシア船籍のタンカー「ナホトカ号」の重油流出事故は、沿岸各府県に深刻な被害を与えました。今回は、特にこの事故に関して、油汚染防止に関する研究をしている装備部と氷海技術部の皆さんに話を聞きました。

Q:ナホトカ号からの油流出事故は過去の事故と比較してどのような違いがありますか?
A:油の流出量で比較しますと、1989年アラスカで起きたエクソンバルデス号事故では原油約4万トン、1993年にイギリス北沖で起きたブレア号事故での油流出量は原油約8万トンでした。これに対して今同の事故でこれまでに流出した量は重油約6千トン(19,000kl積載、内約6,240kl流出)程度と言われています。しかし、事故の規模は、油の流出量だけでなく、油種、気象、海象、海流等によっても大きく影響を受けます。例えば、油によっては荒れた天候で霧散したり、外洋ですと拡散したりします。また、エクソンバルデス号やブレア号の事故は、人口過疎他であったため、環境に対する被害は別として、仕民に対する被害は比較的少なくて済んだと言われています。今日の事故は、日本海のように閉囲された海域で起きたこと、荒天で海上での回収が困難だったこと、日本の場合は、沿岸には通常多くの人が暮らしているので、住民の生活や地域の経済に深刻な被害を与えてしまったことが違うと用います。(木原)

Q:現場へ調査に行かれたと伺いましたが?
A:油汚染の防止や除去技術の研究に反映させるため、福井県三国港へ当所の研究者数人で現状調査に行きました。油まみれになり懸命な油の除去作業をしている人々の姿を拝見し、冬の日本海でも有効に使える回収法と回収油の処理法の早急な技術開発が必要であることを実感しました。また、本省(運輸政策局技術安全課)のミッションで2,500mの海底に沈んだ船体後部の確認をするためのディープ・トウ(ソーナー及びカメラ)を搭載した海洋科学技術センターの「なつしま」に乗船しました。その後、再度、ドルフィン3kを搭載した「なつしま」により「ナホト力号」の船名と油流出を確認した調査に当所の北村(構造強度部)と亀山(装備部)が参加しました。(藤井)

Q:船舶技術研究所での油汚染防止に関する研究について教えてください。まず、緊急時の対応技術に関しては?
A:緊急時の対応としては、油の火災防止、流出阻止、囲い込み、回収等のー連の防除システムを構成する要素技術がありますが、過去の色々な研究について、荒天時を想定して再度検討を行っています。船研でも色々な研究を行っていますが、過去の事故及び今回の事故状況に実際に対応できる要素技術の開発を早急に行う必要があると考えています。(山口)

Q:油回収やオイルフェンスの漏油防止については?
A :これまでの研究で船研としても回収船やオイルフェンスに関する種々の提案を行っています。例えば、オイルフェンスの漏油防止に関してはオイルフェンスの前部及び前底部に整流ネットをとりつけることによって漏油の限界流速を上げることができます。また、付着式油回収については浮遊油の粘度と浮遊油の厚さから回収量を推定すること出来きます。しかし、冬の日本海では波が荒く、このような状況で有効なものは現状では見当たりません。開発には実海域に近い実験が是非とも必要となります.また、日本では油を流して荒天の状況を再現して研究が出来る施設が現在はありませんので荒天時を想定した研究には困難が伴っています。(上田)

Q:次に、流出油の状況の把握技術については?
A:流出油防除作業には性格な情報が重要な役割を果たします。今回の事故では日本海の荒天での油漂流予測が非常に難しいことが分かりました。いま、船研では蛍光ライダーの開発を進めています。これは、紫外線レーザ照射によって発生する蛍光から成分を判別(前頁図参照)し、その分布を画像化するもので漂流油の性質も正確に知ることが可能です。小型で航空機や船舶に搭載して昼夜を問わず機動性に富んだ観測が出来、衛星観測と併せて使うことによって、さらに効果的に多くの汚染の情報を得ることを目指しています。(山岸)

Q:コンピュータを用いた拡散の予想などについては?
A:CFD(コンピュー夕流体力学)を用いた油拡散シミュレーションの研究を行っています。コンピュータの能力にもよりますが、計算に膨大な時間を必要とし、また、予測には気象、海象、海底地形、海流、潮流、流出油の変化に関する入力を必要とするので、今回の事故ではまだその威力を十分発揮するまでには至っていません。今後、蛍光ライダーのようなリモートセンシングと組み合せた実用的なシステムを目指すことが必要でしょう。また、オイルフェンスや回収装置、船の配置などに必要な技術として開発を進めていく必要があります。(木原)

Q:事故防止や汚染を未然に防止する技術については?
A:アラスカの多量油流出事故が契機となって、夕ンカーをニ重船体構造にするなど、事故のときに油が流出しにくいように流出防止性能を持たせるべく構造要件が強化されました。現在は在来型タンカーが少しずつ姿を消し、高い環境保護能力をもっているタンカーが増えつつある過渡期と言えます。このような基準の作成にあたっては、船研での研究もベースとなってIMO(国際海事機関)に提案されています。また、船研では夕ン力一のみならず船舶の操船時のヒュ一マンエラ一防止に関する研究、夕ンカーの運動性能を良くする研究など船舶の衝突、座礁事故等を未然に防止するための研究も行っており、さらに、船舶の寿命評価技術の研究も行っており、これらも流出事故の防止対策として重要と考えます。(山口)

Q:今後の研究の展望などを含め、まとめていただけますか?
A:アラスカの事故でもイギリスの事故でも、漂着した油の処理は、環境に及ぼす影響などを考慮すると未だ決定的なものは無く、結局は人海戦術で対処するしかなかったようです。つまり、油が沿岸に漂着する前に食い止めなければならないことになります。今回の事故は過去にもほとんど例のないような荒波中のことで、今までの油汚染防止対策が湾内を想定していたのに対し、今後は荒海での対策を考えなければならないことを教えてくいす。例えば、日本にあるオイルフェンスの総延長は1,376km(海上防災ハンドブック1996年9月)もあるのですが、高波用のものはありません。また、回収船も波高2mを越える高波下で作業可能なものはほとんどありません。早急に、荒海用オィルフェンス、荒波用油回収船、レーザレーダ等による汚染監視、損傷転覆した船舶の安全な曳航及び沈没船の油流出に関する要素研究とこれらのシステマテイックな活用を関係各部が協力して推進していく必要があると考えています。勿論、船研としてもこれまでの研究を踏まえ、積極的にこの問題に取り組んでいきたいと思っています。また、私たちの研究グループではありませんが、前述した、事故を未然に防ぐ対策の研究も併行して進められていくものと思っています。(木原)


図:紫外線レーザで励起した時の蛍光スペクトル
(蛍光強度は最大値で基準化したものである。)


左から装備部 木原室長、藤井主任研究官、山尾主任研究官