就任の挨拶

船舶技術研究所長 南部伸孝


7月1日付けで所長を拝命いたしました。当所は初めての勤務ですが、世界に冠たる船舶の総合研究所の責任者として、当所の有する技術ポテンシャルの維持、向上を図り、運輸行政ニーズに的確に反映させることが、当所の使命であると認識しています。21世紀を目前にひかえ、行財政改革等新しい我が国経済、社会の在り方が議論されていますが、幅広い視点と柔軟性をもって、全力で頑張る所存ですので、関係者の方々の御指導、ご鞭達の程よろしくお願いします。


研究紹介

船体の寿命評価技術に関する研究グループ

日本海でのナホトカ号事故をきかっけに老朽船の安全性について社会の関心が高まりつつあり、このような船舶の安全性の確保が急務となってきています。船舶技術研究所では船体の寿命評価技術を確立しそれを船体構造設計に活用するための研究、また、船舶検査技術をよりー層高度化、効率化させるための研究として、平成8年度より「船体の寿命評価技術に関する研究」を実施しています。研究に携わっている材料加工部、構造強度部の方々に聞きました。

Q:船の寿命とは何ですか?
A:大洋を航海する船舶は1年間に数百万回にも及ぶ波の衝撃、波による船体の曲げ、海水の成分による船体の腐食など、常に厳しい環境にさらされながら稼働しています。この荷重の繰り返しによって船に疲労がたまっていきます。また、腐食して板は薄くなります。このため、長期間使用された船舶は建造時よりも徐々に強度が低下していきます。一方、現在の海運業では船をできるだけ長く使いたいという要求が強くなっています。そこで、安全性確保の上から、船の寿命、つまりこの船が安全に使える期間がどのくらいあるのか適切に評価する必要があるわけです。そのためには、長い年月の間に船にどのような力が加わるか、船の強度がどのように低下していくか、そして、どのように損傷が起こるかを明らかにすることが、寿命評価を行う上で大変重要です。(松岡)

Q:一口に、強度を調べるといっても船のように大きいものを扱うのは難しそうに思えますが。

A:マクロ的には、大きく分けてニつの研究で対応しています。一つは波浪中を航行する船舶の運動や、波から受ける圧力を理論計算によって求め、いろいろな種類の船が様々な海象に遭遇するときの荷重を精度よく推定することです。もうーつはこのような波浪による力を船舶が受けたときに、各部に生じる構造応答に関する研究で、大きな荷重が船に加わるときに船体がもつ耐力の推定や、例え小さい荷重でも繰り返し受ける場合の疲労寿命の推定に役立ちます。このような船体に作用する荷重や、構造応答の計算結果は実船試験や模型試験を行って得られる計測値と比較・検討することによって、計算法の妥当性を検証することにしています。(宮本・田中)
また、ミクロ的にもニ通りの方法でアプローチしています。一つは、船体建造時の施工上の都合による強度のばらつきを調べる研究で、もうーつは船の疲労損傷が起こりそうな場所に注目して、運行しているうちにどんなふうに疲労損傷が発生するのかを調べる研究です。(松岡)
Q:船の強度を低下させる原因は他には何がありますか。

A:船にかかる荷重の他に、材料自身がさらされる環境との関係があります。本研究テーマのもうーつの大きな柱として材料自身の耐久性と加わる力との関係に着目した研究も行っています。それが、「材料の耐久性に関する研究」です。これもまた、二つのテーマから成り立っています。小林が鋼材の腐食疲労関係を、千田が塗料との関係を担当しています。(松岡)


腐食して破断した鋼材


海水中の疲労試験で破断する直前の鋼材

Q:船体が常に海水に曝されていることが強度に影響しますか?

A:材料がとれだけ海水中でもつかということで変動がありますが、疲労の問題か少し絡んできます。腐食疲労について調べるためには腐食したものを疲労試験してもあまり意味はありません。腐食しながら材料が疲労していくところに問題の核心部分があります。例えば、大気中ですと通常、ある繰り返しで力を加えても絶対壊れない限度があって、それ以下で使用すれば破壊を避けることが出来ます。ところが、海水中では全属に腐食が起こるので、絶えず材料の厚さが減っていき、ついに、蜂の巣のように穴が開いてきます。このために毎水中では寿命か短くなります。また、船はいろいろな荷物を積んで走っています。例えばタンカーの場合は原油を積んでいますので、タンクの中では海水の腐食とは違った損傷が起きることがあります。硫化水素が多量に含まれた原油を運ぶ場合、それで硫化水素誘起型の割れというのも生じます。そういう環境も視野に入れています。(小林)

Q:海水だけでなく、積み荷の成分によっても船体が傷みやすいそうですが、塗装していても錆
びたり、腐食することがあるのですか?


後列左から島田室長(材料加工)、田中主任研究官(構造強度部)、
千田室長(材料加工部)、前列左から小林室長(構造強度部)、
松岡室長(材料加工部)

A:列えば、船のバランスをとるためのバラストタンクは海水を抜いたり入れたりするので乾湿を繰り返しますし、温度が高くなることもあって腐食という点から見て、非常に環境の厳しい空間といえます。また、狭い空間であるので建造後の補修が難しく、塗料の防食効果が無くなると傷みやすいのです。タールエポキシという黒い塗料がよく使われますが、この研究はタールエポキシがどのように防食効果を失うかというプロセスを解明しようというものです。例えば、塗装に穴があったり傷がついたりして、錆び始めるということもありますが、そういうことがなくて塗膜がー見健全であってもそこから水は通るし、錆びも出ます。これが塗装の劣化で、いろいろな施工方法で塗装した板を人口海水に漬けて経年変化を追いかけようと思っています。膜厚や、塗り重ねの回数をパラメータにしてー定温度の海水に最長4年ぐらい漬ける実験を装備部の柴田さんとー緒に始めました。塗膜の性質がどのように変わっていくかをーつは防食効果を調べる電気化学的な評価で、もうーつは材料的な評価、つまり高分子材料である塗料がどう劣化するかで評価していこうとしています。その両方を比較すると海水中に 漬けたことで何が起こるかということが分かるのではと期待しています。 (千田)
Q:船体の強度について現象面から話を聞きましたが、船舶検査技術高度化のための研究について
教えて下さい。

A:検査技術の研究の中身ですが、現在の検査技術をさらに高めていくことと、新しい検査技術の可能性を確かめることのニ本建てになっています。前者では腐食した都材の板厚、亀裂をハンマリング音の解析から調べる方法です。これは検査官がより定量的に判断できるツールとなるものです。また、超音波による腐食部材の板厚計測技術の改良にも取り組んでいます。後者では、荷物を積んだときの船体のたわみを計測し、船体の強度を推定しようとするものです。船の無数の部材の摩耗減衰量や亀裂を測定することなし、それらが合計して効いてくる船体剛性の低下が判れば船体の強度が推定出来ると思われます。(島田)
Q:最後にこの研究の展望について聞かせて下さい。

A:この研究が完成すれば、設計段階から寿命を考えて船を造ることができるようになります。また、老朽船の評価が適切に出来るようになり、ある程度の船の寿命と検査と設計がバランスよく出来るようになります。例えば、この船の寿命は20年としたら、どんな設計をしたらいいかということが出せるようになるでしょう。さらに、寿命を20年として設計した船がもう少し長持ちしないか、という要求に対して「どこを、どのように修繕すればあと10年使えます。」など、評価できるようになるでしょう。(松岡)