研究紹介

IMOでは操縦性暫定基準の見直し作業を行っています。船研では運輸省が収集した、見直しに必要な
基礎データの解析を行っています。この作業を運動性能部の原ロさんを中心に藤原さん、野中さんが行
っています。



写真左より原口室長、藤原研究官、野中室長

Q:まず始めに、海難事故の新聞記事などを読むと"IMO"という文字を良く目にします。このIMOとは何でしよう?
A:IMOとは、lnternationaI Maritime 0rganizationの略で日本語では国際海事機関と呼ばれています。IMOは、海事に関する諸条約、改正条約の作成作業、および採択会議の開催に責任を有する唯ーの国際連合の専門機関です。その目的は、人命の安全、環境保全、国際海運の安全、航行の能率化と制限の除去にあり、海運問題の審議、情報交換、条約の作成や勧告を行っており、現在約155の国や団体が加盟しています。

Q:IMOと原ロさんを中心とした研究グループの関係はどうなっているんでしょう?
A:ご承知の様に(第66回、第68回船研講演会参照のこと)、1993年11月のIMO第18回総会で操縦性暫定基準が決議されています。この決議には強制力はなく、5年間の暫定基準です。この間に各国政府は操縦性能試験データを収集し暫定基準の検討を行うことになっています。このため我が国では、運輸省がデータ収集を行っています。私たちの研究ケループではこのデータをデータベ一スに構築し、基準見直しの検討資料の作成を行っています。なお、基準の見直し作業は、造研のRR74操縦性WGで行っています。

Q:操縦性暫定基準というのはどういったものでしょう?
A:操縦性暫定基準には4つの性能に対して指標が決められています。@旋回性能、A初期旋回性能、B保針と変針性能、C心停止性能です。これらの基準値を3種類の海上試験、旋回試験、Z操縦試験、停止試験を行い調べます。操縦性暫定基準の導入前から、操舵装置の改善、操船ブックレットというその船の操縦性能を船長や乗組員に周知させるといった事が有効ではないか、という議論がありました。しかし、1989年にアメリカエクソン社のタンカー・バルナィーズ号がアラスカ沖で座礁、大量の原油流出事故があり、操縦性基準導入の1つの契機となりました。 また、日本のパイロット協会から針路安定性の悪い船がしだいに増えてきており、事故の危険性が増えている、という問題提起があり、1990年に日本政府が操縦性基準の作成を IMOに提起しました。そして、1993年に暫定基準ができ上がりました。

Q:操縦性能が悪いから事故が起きる、ということでしょうか?
A:過去のデータを調べていると、必ずしも操縦性能の悪い事が事故の原因になっているとは断定できません。ただ色々な海難事故のデータから、操縦性能が良ければ事故が減るのでは、回避できるのはないか、といった考え方はあります。

Q:それでは原口さんの研究グループではどういったことを行っているのでしょうか?
A:これまでの経緯から5年間の暫定基準は出来ました。 この暫定という意味は、基準内容がこれで良いのかといった事を検討する期間で、問題が無ければ本基準にしましょうということです。実際に海上試運転を行った船に対し、操縦性の試験を行ってもらい、検討するための必要なデータを集めるといったことが必要となります。このデータの収集は、運輸省が各造船所に対し要請を行いました試運転データは各造船所の企業機密となっていますので、運輸省がデータを集め、公的機閉である船舶技術研究所がテータヘースを作りました.そして構築したデータベースの内容を解析し、今の船の性能はとうなっている、といっt資料を提供しています。

図 データベース化した船の種類と隻数



Q:現在、どのような問題点があるのでしょうか?
A:現在の問題点は2つあります。 1つには、Z操縦試験(針路安定性の試験)での行き過ぎ角(オーバーシュ- ト角)の基準値をどうするか。10゜Z試験の第1行き過ぎ角が、針路安定性を表す基準値として日本がIMOに提案しました。他の行き過ぎ角の基準は外国の提案を受け入れたものです。しかし現実には1O゜Z試験の第1行き過ぎ角の基準値を満足しても、他の行き過ぎ角の基準値を満足していない船があります。これらの船の操縦性能が本当に悪いとはいえない、ということで問題となっています。もう1つは、バラスト状態での海上試運転しかできない船に対して操縦性能の推定をどうするかですc 操縦性基準は満載状態において、その基準を満たす必要があります。操縦性基準のうち最も日本が重視しているのは針路安定性です。この針路安定性は、一般に満載状態で最も悪くなります。では満載状態で海上試運転できないのはとうするか? 例えば、バルクキャリアなどはバラスト状態で海上試運転を行っており、満載状態での試験が出来ません。バラスト状態で試験を行う船も多くあり、こういった船に対してどうやって操縦性能を判断するのか、といった事が問題となっています。


図 Z操縦性試験の概略図



Q:データベースの構築以外にはどのような事を行っているのでしょうか?
A:今年度から「操縦性能の評価技術に関する研究」という特別研究をお紺っています。この狙いは、操縦性基準に必要な操縦性能の推定法を開発するということです。また、海上試運転では風や潮流といった外乱の影響を受けます。この修正が出来ればより精度良く操縦性能を推定できるようになります。研究はこの外乱影響の評価も行います。データベースの結果から現実的な現象の把握、推定法の研究から基礎的・理論的な現象の把握が出来るようになり、推定精度が向上すると思われます。

Q:暫定基準改正に向けての取り組みは現在どうなっているのでしょう?
A:運輸省では来年度には何らかの提案を行うといった方向で動いており、私たちのグループでは、この提案に必要な資料を提供していきます。