プロジェクト紹介「IMO操縦性能基準による海上交通安全性向上のための研究」

研究の目的と背景
国際海事機関(IMO)では、船舶の海難事故を減少させるための対策の一つとして、1993年に船舶の「操縦性能暫定基準」が総会決議として採択されました。その後、各国で基準の妥当性と基準実施の可能性について調査が進められ、それをもとに2001年から新基準策定に向けての見直し作業がIMOで始まりました。
本研究は、より合理的な新基準案を検討するのに役立つ技術資料を作成・提供すること、及び、船舶が基準を満たしているかどうかを判断するのに必要な操縦性能の評価技術を開発することを目的としています。


研究内容

基準の対象となる性能は風や波などの外乱のない平水中の性能です。先ず船舶建造前の設計段階において、平水中での操縦性能を評価する技術が必要になります。次いで、建造後の性能確認のための海上試運転は通常風や波などの外乱下で行われるので、外乱による操縦性能の変化を推定する技術が必要になります。一方、暫定基準の見直し作業においては、現在運航している船舶の性能の現状が重要な基礎資料となります。実船の操縦性能データベースを作成し、それをもとに基準の指標や基準値について検討することが有力な方法となります。
そこで本研究では、平水中での操縦性能を推定する方法、外乱下での操縦性能を推定する方法、及び、操縦性能データベースの作成と基準検討への利用という3方向から研究を進めています。

(1)平水中での操縦性能を推定する方法の研究
抵抗等の直進時性能が推定された設計段階において、模型実験ではなく操縦運動の数値シミュレーションにより操縦性能を評価する技術の開発を進めています。操縦流体力を計算で推定する方法の開発が中心的課題となりますが、本研究ではCFD(数値流体力学)を用いる方法を開発しました。更に、船型変化による性能変化の定性的評価に利用できるよう、簡単な近似推定法も開発しました。
これらの推定流体力のデータから操縦運動数学モデルの係数を求め、操縦運動のシミュレーションを行い、平水中での操縦性能を評価することが出来ます。



(2)外乱下での操縦性能を推定する方法の研究
海上試運転が行われる程度の比較的軽度の外乱の場合は、風の力については水面上船体に働く風圧力を、波の力については波漂流力と呼ばれる成分を、平水中の操縦運動方程式に外乱力として加えれば、実用的な精度で外乱下の操縦運動を推定できます。
風の力については、多くの模型船に関する風洞試験結果を基に統計的な解析を行い、船の要目や上部構造物の面積等の関数として風圧力を推定する方法を開発しました。
波の力については、操縦運動への影響が支配的である短波長の波を対象に、操縦運動において必要な斜航や旋回の影響も考慮できる波漂流力推定法を開発しました。
次いで、これらの外乱推定法と平水中数学モデルを組み合わせ、平水中及び外乱下の操縦運動をパソコンで計算するシステムを作成中です。

(3)IMO操縦性能基準と操縦性能データベースの研究
1993年に採択されたIMO操縦性能暫定基準は、その後各国で操縦性能に関する海上試運転のデータを収集し、基準の妥当性と適応性を検討することとなっていました。
日本では運輸省(現国土交通省)の要請により日本造船研究協会にRR74操縦性ワーキンググルループが作られ、そこで日本としてのIMO操縦性能暫定基準への対応が検討されています。
本研究では、運輸省が収集した海上試運転データを基に実船の操縦性能データベースを作成し、その解析結果をRR74へ提供するとともに、基準の妥当性・適応性の検討に参加しています。更にこのデータベースを利用し、船の主要目等から簡単におおよその操縦性能を推定する方法も開発しました。


まとめ
IMO操縦性能暫定基準に対処するため、操縦性能評価技術の開発と合理的な新基準案作成に向けての技術資料の作成・提供を目的に研究を進めてきました。
操縦性能評価技術については、操縦運動のシミュレーション計算で操縦性能を評価するのに必要となる、操縦流体力及び波と風による外乱力の推定計算法を開発し、使いやすい形にまとめました。
操縦性能暫定基準については、IMOでの見直し作業が進められていますが、より合理的な基準案検討のため、引き続き実船の操縦性能データベースを活用して行く予定です。


                           

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