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傾斜装置を用いた車いす走行実験(2001年6月実施)

縦断走行についての詳細な議論


H: おはようございます。
M: おはようございます。
H: 今,質問のメールを見始めています。
M: はい、ありがとうございます。
H: 「縦断登坂で、仕事率が頭打ちになる意味」は難しいです。
M: う〜ん、そうなんですね。
H: エンジンでは,仕事率(出力)が頭打ち(山なり)になるのは当然のことです。
M: どうしてでしょうか?
H: エンジンの場合,大きい負荷(ブレーキ力)が加わると回転速度が遅くなり,仕事率が小さくなります。負荷が小さくなり,負荷=0となると,仕事率=0となります。つまり,適度な負荷が加わっている状態で最大仕事率が発生できるのです。
M: はい・・。
H: エンジンはこの議論で関係ないので,この件はこの辺で。

H: 「1.傾斜角度が大きくなったとき、速度が遅くなるので、トルクが大きくなっても、仕事率はそれほど増えないというのが、観察される現象である。」の記述は何も問題がないと思います。
M: はい。

H: 「2.速度が遅くなるのはなぜ?高いところに移動させるためのエネルギー(位置エネルギー?)に使われるのか?」は問題がありそうです。
M: そうですか。
H: まず,基本的なことですが,力の単位は(N,ニュートン),仕事(エネルギー)の単位は(J,ジュール),仕事率の単位は(W,ワット)です。これはいいですよね?
M: はい、なんとか。
H: 仕事(エネルギー)は,ニュートン×メートル(N×m)=Jです。仕事率は,ジュール/秒(J/s)=Wです。
M: はい、わかりました。
H: 2の質問ですが,仕事(エネルギー)には,速度(秒に相当)は入っていません。
M: はい。
H: つまり,「速度が遅くなること」と「位置エネルギー」を関連つけるのは,やや無理があります。
M: はい。
M: 中途半端で状態ですみませんが、設計工学会の図7を説明に使ってはもらえないでしょうか?図と式があって、私には助けになるのですが。
H: ちょっとお待ちください。
M: はい。お手数をかけてすみません。

(右の図を見ながら)

H: 少し話を整理しないといけないのですが,ここでいう「速度」はかなり曖昧な意味で使っています。
M: はい。
H: まず,トルクというのは,単位がNm(ニュートン・メートル)です。しかし,これは仕事(ニュートン・メートル=ジュール)とは意味が違います。これはいいですか?
M: はい、大丈夫です。
H: この場合のトルクは,「力」とほぼ同じ意味になっています。
M: はい、わかります。
H: そのトルクは変動していて,瞬時の回転も変動しています。その積に相当する値が仕事になります(図7(e))。
M: はい。
H: 仕事率には,さらに速度(時間)の項が入るので,かなり複雑になります。
M: はい。
H: つまり,一言で言えば「速度が遅くなり,仕事率が頭うちする」でよいと思うのですが,厳密に言おうとすると,「大きいトルクを加えて,しかも車輪が回転して,そのときの回転速度が遅くなる場合,仕事率が頭打ちする」というべきなのでしょうか。
M: 仕事率は、何を表すものでしょうか?文章では、平均仕事率は、1周期でおこなった仕事ですね。小川さんでも、角度が大きくなると、1周期の時間は、少し落ちていましたね。ちょっと、見てみます。駆動トルクの1周期は移動距離(回転角度)と等価かな?
M: 1周期の時間、変わってないですね。
H: 現状で深い議論をするのは難しいと思います。詳細な議論をする場合,駆動トルクが正の時間と0の時間に分けて考えなければいけません。
M: このままで議論するのが難しいこと、わかりました。すると、「速度が遅くなり,仕事率が頭うちする」という記述はいいでしょうか?
H: 「速度が遅くなり,仕事率が頭うちする」でも間違いではないと思います。これについてはもう少し考えてみます。
M: はい。
H: ちなみに,2の質問に関連してですが,傾斜角度が大きくなると速度が遅くなるのは,坂道を上ったことがあれば誰もが理解できることだと思います。あまり物理的な意味を考えなくてもいいと思います。
M: はい、感覚的にはそうなんですよね。でも、あらためて、なぜかなあと考えてしまって。

H: 次の「3.以前、速く駆動させようとしてもひっくり返るから、速く動かせるけど動かさないという議論をした覚えがありますが、この被験者もそうだったのかしら?」ですが,これは本人に聞かないとわかりません。
M: それは、そうですよね。
H: ひっくり返る(と感じる)限界か,あるいは最大トルクの限界になっていると思います。
M: あれ?最大トルクは、直線的に増えていますよ。
H: 永久に増えるわけではありません。
M: はい。そうでした。
H: 単純に考えると,体重分だけのトルクがかけられます。
M: かける必要があるということですか。
H: 坂を上るときは,それ相応のトルク(力)が必要です。
M: はい、わかります。
H: トルクにも上限があるということが言いたかっただけです。
M: はい、わかりました。
H: 被験者がひっくり返りそうに感じたかどうかはわかりません,ということが言いたかっただけです。
M: はい、そうですね。とんちんかんになっててすみません。
H: いえ。
H: 「わざとゆっくり駆動していたようには見えませんでしたが。」とありますが,
M: はい。
H: 一生懸命,限界まで漕いでくれ,とも頼んでいないので,ゆっくりでもなく,速くでもなく,「普通」に漕いでいるのだと思います。
M: はい、その「普通」が、被験者がその角度に(ある程度)応じたこぎ方をしているわけですよね。
H: そうだと思います。
M: はい。

H: 最後の質問です。「4.上記に関連して、「速く動かせない」とは、実際にはどういうことなのでしょうか?駆動するときに、入れる力と動かす速さって、別々に意識的にコントロールできるものなのでしょうか?」ですが,
M: はい。
H: 駆動力と速度は,別々にコントロールできません。
M: はい・・。
H: 駆動力が決まれば速度は決まり,速度が決まれば駆動力が決まります。単純な力学です。
M: 力と速度で運動量が決まるからですか。
H: 運動量は関係ありません(考えなくてよいということ)。単純な運動方程式
F=m×a
(F:外力,m:質量,a:加速度)
で外力(重力による後進方向の力と駆動力)が決まれば,加速度が決まるということです。

H: もちろん,加速度が決まれば,速度が決まります。
M: あっ、わかりました。
M: 結果的に速度が決まるんですね。
H: はい。逆に速度を決めれば,駆動力が決まります。
M: 人間が駆動するときには、コントロールできるのは力だけで、速度はその結果ですね。速度は目標にできるけど。私の書いた「動かす速さ」は、手を動かす速さのことでした。
H: そんなことはないと思います。力に余裕があれば,速度を決めることができます。
M: 「手を動かす速さ」は、どう効くのでしょうか?
H: スリップがなければ,「手を動かす速さ」=「車いすの速度」です。
M: あ〜、そうですね。
H: よろしいですか?
M: はい。ありがとうございました。
H: まずはこんなところです。


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