講義ノート:もの作りのための機械設計工学
第10章 機械設計の高度化

10.1 機械の高性能化



 機械の性能とは,機械の種類や用途によって様々である。例えば,自動車の場合,加速性,旋回性あるいは燃費など,家電機械の場合,価格(コスト),機能性,操作性などがあげられる。以下,機械の高性能について考えてみる。


10.1.1 性能評価

 機械を高性能化するためには,機械の性能評価が必要不可欠である。機械の性能評価を行うことにより,機械の問題点や改善すべき点が明らかになる。一例として,図10.1は,実験用スターリングエンジン(図7.25)の各駆動部の機械損失を計算した結果である。詳細については省略するが,本エンジンにおいては,メカニカルシール(図7.28)およびリップシール(図7.31)の損失が大きく,エンジンの高性能化のためにはこれらの損失を減らすことが有効であることがわかった。このように,機械の性能評価は,新たな機械の設計に役立つのは明らかである。


図10.1 スターリングエンジンの性能評価


10.1.2 情報伝達

 実際の設計現場において,1つの機械を一人だけで設計することはほとんどない。そのため,設計者同士の情報伝達が重要になる。そのためには,機械製図の知識はもちろん,CADの利用も有効である(図10.2)。機械の詳細構造について他人に説明する場合,言葉で説明するよりも,図面で説明した方が能率的であることが多いためである。また,概念設計から基本設計,詳細設計へと進んでいく場合,CADデータが情報伝達の手段として使われる。

図10.2 CADを利用した機械設計

 一方,機械を完成させるためには,他者の協力を必要とすることも多い。そのような場合,機械設計の考え方をしっかりと伝える必要がある。すなわち,設計者には,発表(プレゼンテーション)の技術も必要である。もちろん,工学的に論理だったプレゼンテーションでなければならない。



10.1.3 設計の最適化

 本講義では,主として機械設計の定性的な考え方について述べてきた。数十年〜数百年前の単純な機械では,定性的な考え方や簡単な性能評価だけでも機械の高性能化を実現できていた。しかし,現在の複雑な機械を高性能化するためには,定量的で精度の高い解析が必要不可欠になっている。機械の高性能化・最適化を目指す場合,詳細な設計計算やコンピュータを利用した高度な解析が有効である。実際の機械設計に用いられる例として,コンピュータを利用した流れの解析(図10.3)や有限要素法(FEM)と呼ばれる数値計算法を利用した構造・強度解析(図10.4)があげられる。コンピュータを利用することで,複雑な解析を迅速に行うことができる。しかし,実際の機械においては,設計から製作,使用(操作性)に至るまでのバランスが重要であるが,現在のコンピュータはバランスを適切に判断することはできない。すなわち,機械設計は設計者の判断が必要である。


図10.3 自動車の空力解析
PHOENICS HPより)

図10.4 ディーゼルエンジンの構造解析
三菱重工神戸造船所HPより)



10.1.4 信頼性の高い設計

 実際の機械製品を開発する場合,故障しにくい製品であること,そして,もし故障してもすぐに修理できる製品であることが重要である。ここでは,信頼性評価に用いられるFMEA手法(Failure Mode and Effects Analysis)を紹介する。
 FMEA手法は,製品設計上の信頼性を改善する目的で開発され,活用されてきた手法である。簡単に言えば,機械システムを構成する部品(または機器)に故障が発生した場合を想定し,その際,機械全体にどのような影響を与えるのかを表を使って解析する。本講義で述べてきたような機械設計にも適用可能であり,また生産コストや製品のライフサイクル,品質管理などにも適用可能な手法である。

 図10.5に示す大型舶用スターリングエンジンをイメージして,簡単なFMEA解析シートを作成してみる。表10.1に示すように,エンジン全体を構成品に分割し,起こりうる故障とその原因を考える。さらに,その故障が構成品およびエンジン全体へ与える影響を考え,表10.2に示す影響度の点数を記入する。さらに,表10.3に示す発生頻度を考え,故障等級(=影響度×発生頻度)を計算する。
 このような方法により解析すると,故障等級が高い構成品(部品)ほど,信頼性が低いことを表している。例えば,故障等級30以上を「要注意(再設計)」とすれば,影響度を減らすか,あるいは発生頻度を減らすような設計が必要になることとなる。


図10.5 大型舶用スターリングエンジンのイメージ図

表10.1 FMEA解析シートの例


表10.2 影響度の評価点数

表10.3 発生頻度の評価点数


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