講義ノート:もの作りのための機械設計工学
第10章 機械設計の高度化

10.2 「やさしさ」のある機械設計



 機械を高性能化することだけが機械設計の高度化ではない。機械を完成させるためには,発想,設計,製図そして製作という連携作業が行われる。そのため,常に機械の作りやすさを考えながら設計を進めなければならないことは第3章で述べた。さらに,完成させた機械を使うことも考えた設計が重要である。


10.2.1 使用者にやさしい機械の設計

(1) 機械の操作性
 従来の機械設計は,主として機械的な強度や機能に着目して進めるものであった。一方,最近では,使用者(消費者)の扱いやすさを考えた設計が必要とされている。すなわち,使用者が機械製品を間違いなく使用するため,操作のわかりやすさや操作のしやすさを考えた設計を行わなければならない(図10.5)。


図10.6 機械の操作性

(2) バリアフリー
 また,バリアフリーと呼ばれる,高齢者や障害者が機械を使おうとした場合に邪魔になる様々なバリア(障壁)を取り除くという考え方も重要である(図10.6参照)。バリアフリーの考え方は,建築設計の分野では徐々に確立されつつあるようであるが,機械設計においてはまだ十分に普及した考えではないのが現状である。


図10.7 バリアフリー旅客船のイメージ

(3) ユニバーサルデザイン
 全ての人にできる限り使いやすいように,機械製品や建築物などを設計(デザイン)する考え方をユニバーサルデザインと言う。ユニバーサルデザインは,バリアフリーの考え方とは異なり,特定の使用者のために特別な設計を必要とするものではない。これからの機械設計は,バリアフリーやユニバーサルデザインの考え方を取り入れていく必要がある。



10.2.2 環境にやさしい機械の設計

(1) 機械と環境
 機械は人間の生活を便利にするために作られるものである。しかし,機械を作ること,あるいは使うことによって地球環境が悪化することも否定できない(図10.7)。自動車や船舶,航空機などの輸送機器は生活を便利にしていると同時に,そのエンジンから排出される排ガスは地球環境を徐々に悪化させているのは明らかである。このような問題を解決するためにどのような方法があるのかを考えることはこれからの機械設計者の課題である。


図10.8 機械と環境

(2) リサイクル設計
 現在,資源やエネルギーの有効利用といった観点から,機械製品のリサイクルを考えた設計が必要とされている(図10.8)。リサイクルとは,不要になった製品を新たに製作する製品の原料または部品として再利用することである。現在,不要になった自動車や家電製品,その他の工業製品の不法投棄が大きな社会問題となっている。これからの機械は,エネルギーの有効利用や環境保全のためにも,廃棄物(ゴミ)をできる限り少なくする機械設計が必要になる。


図10.9 リサイクルできるカメラ
富士写真フィルムHPより)

リサイクル設計の要点
  リサイクル設計において,設計者が考えておきたい項目は,次の通りである。
(1) 樹脂部品の樹脂選択:一般に,樹脂材料は金属材料と比べて再利用が難しい。再利用が容易な樹脂材料を選択する。
(2) 分解性,取り外し性:製品の分解が容易な構造とする。
(3) リサイクルのためのコスト・時間の低減:リサイクルのために多大なコストが必要であると,産業・事業として成り立たない。
(4) 資源消費量の削減:製品を完成させるまでに必要な資源消費量をできる限り少なくする。
(5) 使用済みの製品から発生する廃棄物の削減:廃棄物をできる限り少なくする機械設計が必要である。
 各企業のリサイクル設計についての取り組みは以下のホームページを参考にしていただきたい。
トヨタ自動車「自動車と環境」
リコーの環境保全活動
松下エコテクノロジーセンター
富士写真フィルム「写ルンです」循環生産工場
コクヨの環境保全活動

(3) ライフサイクルアセスメント(LCA)
 さらに広範囲な環境への影響を評価するため,ライフサイクルアセスメント(LCA)と呼ばれる解析手法の利用が進められている(図10.9)。LCAとは,原料調達から製造,流通,使用,廃棄,リサイクルに至るまでの製品の流れを対象とした環境評価手法である。各段階で投入される資源やエネルギーを見積もり,環境や資源枯渇等への影響を評価することによって,環境改善を目指すものである。これからの機械設計は,このような解析手法を活用し,機械製品の位置づけや環境に与える影響を明確にしていく必要がある。


図10.10 ライフサイクルアセスメント(LCA)

インターネットで「ライフサイクルアセスメント」を調べる
  LCA手法を製品開発に役立てようとしているメーカーは数多い。以下のホームページでは,各社の環境への取り組みが紹介されている。
東芝のライフサイクルアセスメント
松下電器のライフサイクルアセスメント
東京電力のライフサイクルアセスメント


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