top bar
第1章 とりあえず知っておきたい基礎知識

加工精度と寸法公差


寸法公差の必要性

 機械加工において,部品図に表示された寸法(基準寸法)と全く同じ寸法で加工を行うことはできない。そのため,部品の長さに応じて,実際の寸法として許される最大値と最小値が決められている。寸法公差とはその最大値と最小値の差のことである。部品図に何の表示もない場合,通常は基準寸法を中心としてプラス側(大きく作る側)とマイナス側(小さく作る側)に同じだけの寸法公差がある。すなわち,許される範囲内で,プラス側に作ってもマイナス側に作っても構わない(普通公差)。
 一方,歯車と軸などのように,機械部品では穴と軸とをはめ合わせて使用することが多い。このような関係を「はめあい」と言い,軸の直径が穴の直径より小さくなければ組み立てることができない。もちろん,軸の直径が小さすぎると歯車は適切に機能しない。したがって,このような軸や穴には,プラス側かマイナス側のどちらか一方の寸法公差(最大許容寸法,最小許容寸法)が必要になる。このような寸法公差は,部品が設計される際に決められるのが普通である。機械加工を行う際には寸法公差を十分に考えながら加工を進めなければならない。なお,実現できる加工精度は,工作機械や作業者自身の能力や加工方法(手順)による。以下,はめあい(寸法公差)が必要ないくつかの例を紹介する。

軸と穴の寸法公差

 図1は魚ロボットの関節部分をイメージした図面である。部品1及び部品2の穴に軸が入る場合,穴の直径をプラス公差(リーマ加工)に,軸の直径をマイナス公差にする。また,部品1のくぼみに部品2が入るので,くぼみ部分の寸法をプラス公差に,部品2の寸法をマイナス公差にしている。なお,歯車や継手などの市販されている機械部品の穴は,既にプラス公差で作られているのがほとんどである。

リーマの寸法公差

 精度のよい穴をあける場合,リーマと呼ばれる工具を使うことがある。市販されているリーマはプラス公差に作られている。例えば,直径12 mmのリーマを使えば,穴はプラス公差に仕上がる。

図1 軸と穴の寸法公差

軸受の取り付け

 あらゆる機械において,回転する軸には軸受(ベアリング)が用いられることが多い。様々な寸法の軸受が規格化され市販されている。通常,軸受の外径はマイナス公差に作られている。軸受を取り付ける穴はプラス公差にしなければならない。一方,軸受の内径はプラス公差に作られているのが普通である。軸受の中を通る軸はマイナス公差にする必要がある。


図2 軸受の取り付け

Oリング溝

 Oリングとは気体や液体のシールに使う機械部品である。Oリングを正しく機能させるためには,Oリングを取り付ける溝を適切な寸法公差で仕上げなければならない。必要とされる寸法公差は,Oリングのカタログに記載されている。

図3 Oリング溝

ワンウェイクラッチの取り付け

 やや特殊であるが,穴をマイナス公差に仕上げる必要がある例を紹介する。図4に示すワンウェイクラッチは,ころ軸受と同じような形状をしているが,中の軸は一方向だけに回転できる構造となっている。これを正しく機能させるためには,ワンウェイクラッチの外輪と穴とがしっかりと固定されていなければならず,ワンウェイクラッチを取り付ける穴をマイナス公差で仕上げる必要がある。ここでは,直径11.98 mmのハンドリーマで穴を仕上げた。

図4 ワンウェイクラッチの取り付け

プラスの公差,それともマイナスの公差?

 もし,設計者自身が加工を行うのであれば,最低限,部品の公差がプラス側(大きく作る)なのか,マイナス側(小さくする)なのかをしっかりと把握しておく必要がある。

表面粗さ

 表面の凹凸をマイクロメートルの単位で測り,それを数値で表したものを「表面粗さ」という。一般に,表面粗さを測定しながら機械加工を進めることはほとんどないが(筆者は測定したことがない),表面をどの程度のきれいさに仕上げる必要があるのかは機械加工の手順を考える上でも重要である。
 例えば,図5(a)のようにOリングでシールする表面は滑らかに仕上げる必要がある。表面がざらざらだとOリングを脱着する際,Oリングを傷つけてしまい,シール性能を損なうためである。また,図5(b)のように部品同士が摺動する箇所も表面を滑らかに仕上げる必要がある。
 旋盤やフライス盤の加工で表面を滑らかに仕上げる場合,一般に「送り」を遅くするとよい。


図5 滑らかな表面仕上げが必要な例

基準面

 前述の通り,基準寸法と全く同じ寸法の部品を作ることはできない。そのため,機械加工においては,部品のどの面を基準にして長さや位置を決めるかが重要である。そのような基準の面を「基準面」という。基準面の選び方を間違えると,加工誤差が積み重ねられ,最終的に組み立てることができない部品を作ってしまうこともある。部品図や組立図をよく見て,どの寸法が重要であるのか,そして基準面をどこにとるのかをしっかりと考えるように心がけたい。
 基準面のとり方は部品の形状や使用方法によって様々である。一概には言えないが,板材を組み立てる場合,他の部品と接触する面を基準面とすることが多い(図6)。また,円周上に穴をあける場合などは,円の中心を基準点(基準の位置)とすることもある(図7)。

図6 軸を入れる穴

図7 フランジの穴

[ Metal Working TOP ] [ Hirata HOME ] [ Power and Energy Engineering Division ] [ NMRI HOME ]
bottom bar
Contact khirata@nmri.go.jp