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第1章 とりあえず知っておきたい基礎知識

タップとダイスを使った「ねじ切り」


ねじについての基礎知識

 「ねじ」は多くの機械に使われている。ねじには様々な種類があり,その全てを紹介することはできない。ねじ切り加工を始める前に,最低限知っておきたい基礎知識を紹介する。

ねじの種類

 ねじには,ねじ部の形状によって,三角ねじ,角ねじ,台形ねじがある。ほとんどの場合,三角ねじが機械部品として使われている。角ねじや台形ねじは旋盤の送りなど,正確な運動伝達などに使用される。
 また,ねじの規格として,メートルねじ(記号M),管用平行ねじ(記号PF),管用テーパねじ(記号PT),ユニファイねじ(記号UNC,UNF)などがある。通常,機械に使われるのはメートルねじである。さらに細かく見ると,メートルねじには並目ねじと細目ねじがある。メートル並目ねじが最も一般的なねじであり,メートル細目ねじはそれよりもピッチ(図1参照)が細かいねじである。まずは,「ねじ」=「メートル並目ねじ」と考えておくとよいであろう。

ねじの用語

 図1はねじの外観を模式的に表している。ねじの種類(寸法)を表すのに最も基本となるのが「ねじの呼び」である。メートルねじの場合,雄ねじの外径で表される。例えば,外径が5 mmのメートルねじは「M5」となる。
 ねじの寸法を表す用語は実に多彩であるが,ここでは,ねじ部の最も大きい直径を「外径」,最も小さい直径を「内径」と呼ぶことにする(これらは正式な呼び名ではない)。ねじ切り加工は基本的に切削加工(材料を削り取る加工)であるので,雄ねじを作る場合は「外径」の太さの材料からねじの部分を削り取ることになり,雌ねじを作る場合は「内径」の太さの穴(下穴)をあけてからねじの部分を削り取ることになる。ここをしっかりと押さえておけば,ねじ切りの初歩的なミスを防ぐことができるだろう。
 また,ねじの重要な寸法としてピッチがある。ピッチとは,隣り合ったねじ山の間隔(距離)である。この値が合わないのねじ同士が接合できない。

図1 ねじの用語

図2 ねじ切り加工のイメージ

ねじとバカ穴

 ねじは一般に部品と部品の接合に使用される。例えば板と板をつなぐ場合,一方の板にはねじを切るが,もう一方の板には「外径(ねじの呼び)」よりも大きい穴(これを「バカ穴」と言っている)をあける。バカ穴が小さすぎると,わずかな加工精度の悪さでねじが入らなくなる。逆に,バカ穴が大きすぎると材料の「がた」が大きくなり,ねじが正しく機能しなくなる。すなわち,適切な大きさのバカ穴をあけなければならない。大まかな目安として,バカ穴は,外径(ねじの呼び)より10%程度大きくするとよい。例えばM3の場合は直径3.2 mmまたは3.5 mm,M4の場合は直径4.2 mmまたは4.5 mm,M5の場合は直径5.5 mm程度である。

図3 ねじとバカ穴


ねじ切り加工

 雌ねじを作るときはタップ,雄ねじを作るときはダイスと呼ばれる工具を使う。適切なタップやダイスがないときには,第3章で述べるように,旋盤でねじを切ることもできる。

ねじ切り加工における注意事項

 タップやダイスを使用してねじを切るときに共通して言える注意事項は以下の通りである。
(1) タップやダイスが材料にまっすぐ(垂直)当たるようにして切り始める。
(2) タップやダイスの中に切り屑が貯まらないように,少し送っては(時計回り)少し戻し(反時計回り)という作業を繰り返す。
(3) ねじを切るときには必ず切削油を塗る。


図4 タップとダイス



タップを使った雌ねじの加工

 雌ねじを切る工具が図5に示すタップである。タップは通常タップハンドルに固定して使用する(図6)。手順としては,最初に適切な大きさ,深さの下穴をあける(表1参照)。そして,切削油を塗ってから,タップをゆっくりと時計回りに回してねじを切る。
 タップには様々な種類があるが,図5は組タップと呼ばれる3本セット(No.1〜No.3)のタップである。通常,先端が最も尖っているNo.1タップから使用する。タップがまっすぐに入りやすいからである。下穴の深さぎりぎりまでねじを切る必要がある場合は,先端が比較的平らで先端近くまでねじが切れるNo.2またはNo.3タップを使用する。
 細いタップは折れやすい。タップの内部に切り屑がたまったり,その切り屑が切削熱で溶けて固まったり,あるいはタップの先端部が下穴の先端に当たったりすると,簡単に折れてしまう。タップが折れたら,普通は取り去ることはできない。

図5 組タップ

図6 タップとタップハンドル

図7 タップによるねじ切り加工
タップの下穴

 表1に主なメートル並目ねじの下穴並ぶに管用ねじの寸法と下穴を示す。下穴の直径は,ねじの外径からピッチを引いた直径程度と考えればよい。また,これらの値はあくまでも目安として考えておくとよい。例えば,ステンレス鋼のような削りにくい材料にねじを切るとき,標準よりもやや大きい下穴をあけるとよい。
表1 タップの下穴



ダイスを使った雄ねじの加工

 雄ねじを切る工具が図8に示すダイスである。使用方法はタップの場合とほぼ同じであるが,ダイスを材料にまっすぐ当てるのが難しく,タップと比べて切り始めにくい。そのため,材料の直径をねじの呼びよりもやや小さめに仕上げておき,端部の角をしっかりと落としておく(面取り)とよい。もちろん,材料を小さくしすぎると隙間があり,強度が低いねじになってしまう。
 ダイスでねじを切る場合,旋盤のドリルチャックを利用すると,簡単にダイスを材料にまっすぐ当てることができる。図9の左写真は材料を止まっている旋盤のチャックに固定し,ドリルチャックでダイスを垂直に押しながら,ねじ切り加工を始めている(当然であるが,旋盤を回したら危険である。)そして,ある程度ねじが切れてから,手で題すハンドルを回し(中央写真),ねじを完成させる(右写真)。

図8 ダイスとダイスハンドル

図9 ダイスとダイスハンドル

ねじ部を垂直に組み立てる方法

 タップやダイスにより加工するねじは必ず曲がってしまい,完全にまっすぐなねじを切ることは不可能と言ってよい。ねじを使って高精度な機械部品の固定・組立を行いたい場合,図10に示すように,ねじ部に垂直を求めるのではなく,部品の「面」を利用するとよい。

図10 ねじ部を垂直に組み立てる方法

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