模型スターリングエンジン船を作ろう

2001年5月 平田宏一



はじめに

 スターリングエンジンは構造が簡単であるため,比較的簡単に自作することができます。そして,多くの工業高校や大学でスターリングエンジンを載せた模型自動車が製作されています。同様に,スターリングエンジンを搭載した模型船を作ることも,もちろんできます。船は自動車よりも機構部分が少ないので,簡単に自作できると思われるかもしれません。スターリングエンジンを水の上に浮かべるだけであれば確かに簡単です。しかし,船が進むときの水の抵抗は,自動車が進むときの空気の抵抗よりもはるかに大きいので,速いスピードで進む船を作るのはそれほど簡単なことではありません。それでは,どのようなポイントを抑えれば速い船を作ることができるのでしょうか。以下,スターリングエンジン船を製作するための要点と船体を製作する手順について紹介しましょう。

製作の要点

 船を製作する際,最初に注意しなくてはいけない要点は次の3つです。

要点1:浮力と重力のバランス
 船体の浮く力(浮力)が船の重さ(重力)を上回っていなければ,船は沈んでしまいます。アルキメデスの定理(下図)によると,浮力の大きさは,船体が押し出した水の容積分の重さに等しくなります。つまり,全重量が500 gのスターリングエンジン船を水に浮かべるためには,最低でも500 cm3の水を押し出す大きさの船体が必要になります。その容積がどの程度の大きさであるのかは,缶ジュースやペットボトルの大きさを思い浮かべてみるとよいでしょう。

アルキメデスの定理

要点2:転ぷくしない安定した船型
 なぜ,平べったい木の板は水の上で縦向きに浮かず,横向きになって浮くのでしょうか。水に浮いている板材は,風や波を受けて,常に揺れています。右図(a)に示すように,横向きの板材がわずかに傾いた場合,板材にかかる力は重心から下向きに働く重力と浮心から上向きに働く浮力になり,板材は元に戻ろうとする力(復原力)を受けます。つまり,板材は横向きの状態を保とうとするのです。右図(b)に示すように,板材を縦向きに浮かべてみた場合,板材がわずかにでも傾くと,板材は倒れる方向の力を受けて,すぐにひっくり返ってしまいます。このように,板材を安定して水に浮かばせるためには,重心位置と板材の形状が大切であることがわかります。船を製作する場合も,重心位置と船型をしっかりと考えて作らなければなりません。

船の安定性

要点3:水の抵抗が小さい船型
 たとえ船が安定して浮いていたとしても,平べったい板材のような船型では,水の抵抗が大きくなり,速いスピードを望めません。水の抵抗を小さくするためには,船体と水とが接する面積を小さくする必要があります。同じ重さの船を浮かべる場合,船型を上図(a),(b)の板材のような四角い形状とするよりも,上図(c)のような丸い形状の方が水と接する面積を小さくできます。しかし,スターリングエンジンの重さや形状を考えると,丸い形状で船の安定性を保つのはかなり難しいことです。また,船が進んでいるときに発生する水上の波を少なくすることでも,水の抵抗を小さくできます。つまり,船の先端がとがっていて,表面がなめらかで水中に凸凹がなく,スマートで長細い船型にするとよいのです。

船の種類

 今までに製作されたいくつかのスターリングエンジン船を紹介します。下図(a)の模型船は,競技ボートなどに代表される高速船をイメージして作られています。断面が丸い形状をしていて,縦方向に長細い船体です。このような船型は水の抵抗を小さくできますが,安定性が悪くなります。2つの船体を持つ双胴船(下図(b))や補助的な船体を持つアウトリガー船(下図(c))は,安定性がよく,重心位置がかなり高くても転ぷくしにくいので,最初に作るスターリングエンジン船に適していると言えます。下図(d)は半没水船と呼ばれる特殊な形式です。船体下の円柱部分が水中に沈み,水面には細いステーがあるだけです。そのため,水面に発生する波が小さくなり,抵抗を小さくできます。しかし,浮力の調整をするのがかなり難しくなります。
 船の推進方法もいろいろあります。下図(a)と(c)の模型船に使われているのは水中プロペラ(スクリュー)であり,これは水を後方に押し出すのにとても能率がよい方法です。下図(b)と(d)の模型船に使われている空中プロペラは,スターリングエンジンで動かすのが簡単ですが,水中プロペラと比べて水を後方に押し出す力が弱くなります。その他にも,船体の横に水車をつけた外輪船(下図(e))や魚のように尾ひれを左右に振りながら進む船(下図(f))などを作ることもできます。
(a) 競技ボート型単胴船
 断面が丸く,縦方向に長細い。抵抗は小さいが,安定性が悪い。
MPEG Movie (1 MB)
(b) 双胴船
 2つの船体を持つ。安定性がよく,重心位置がかなり高いが,転ぷくしない。
MPEG Movie (1 MB)
(c) アウトリガー船
 左右に補助的な船体を持つ。安定性がよいため,重心位置は高いが,転ぷくしない。
MPEG Movie (1 MB)
(d) 半潜水型双胴船
 下の円柱部分が水中に沈む。抵抗は小さいが,浮力の調整が難しい。
(e) 外輪船
 船体の横に水車をつけた水陸両用船。
MPEG Movie (1.1 MB)
(f) 魚型推進船
 魚のように尾ひれを左右に振りながら進む模型船。
MPEG Movie (1.2 MB)
スターリングエンジン船の種類


模型ボート用スターリングエンジン

 模型ボート用スターリングエンジンは,軽くて,力強くなければなりません。そして,船の安定性を考えると,重心位置が低いほど扱いやすくなります。
 右図は,模型ボート用に設計・試作したボア径15 mm,ストローク6 mmのα形スターリングエンジンです。ピストン・シリンダには10 mlのガラス製注射器を使用しています。重心位置をできるだけ低くするため,エンジンを横置きとしています。そして,水中プロペラを動かすため,クランク軸にかさ歯車を取り付け,回転の方向を変えています。

模型エンジンMSE-05の組立図(Autodesk DWF format)
模型エンジンMSE-05の部品図1〜3(Autodesk DWF format)
模型エンジンMSE-05の部品図4〜5(Autodesk DWF format)
模型エンジンMSE-05の部品図6〜8(Autodesk DWF format)
模型エンジンMSE-05の部品図9〜10(Autodesk DWF format)
模型エンジンMSE-05の部品図11〜12(Autodesk DWF format)
模型エンジンMSE-05の部品図13〜17(Autodesk DWF format)
模型エンジンMSE-05の部品図18〜22(Autodesk DWF format)
MSE-05付属品の部品図a1〜a3(Autodesk DWF format)
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全てのCADデータをまとめてダウンロード(Autodesk AutoCAD 2000 DXF format)
* DWFファイルを表示するにはAutodesk社Whip Viewerをインストールする必要があります。

船体の製作手順

 船体を作る方法としては,細い角材や板材を使って骨組みを作り,その外側に薄い板材を張り付ける方法や石こうなどで型を作ってFRPで船体を作る方法など,様々な方法があります。ここでは,バルサ材を重ねて作る船体の製作手順を紹介します。この製作方法は,水漏れを止めやすく,比較的簡単に作ることができます。
1. エンジンを準備する
 今回,搭載するスターリングエンジンは,ボア径15 mm,ストローク6 mmのα形エンジンである。熱源には自作のアルコールランプを準備した。
2. 製作図面を描く
 上から見た図面(平面図),横から見た図面(側面図),輪切りにした図面(断面図)を描く。この段階で,スターリングエンジンを載せる位置や重量バランスもしっかりと考えておく。
3. 実寸大の型紙を作る
 今回は厚さ10 mmのバルサ材9枚を縦方向に重ねることとした。その実寸大の型紙を作る。
4. 型紙を貼る
 両面テープで型紙をバルサ材に貼り付ける。
5. バルサ材を切る
 糸のこ盤でバルサ材を切断する。ここで,なるべく型紙に合わせておくと,あとの整形が簡単になる。
6. バルサ材を接着する
 切り取ったバルサ材を木工用ボンドでしっかりと接着する。接着剤は,はみ出すぐらいにたっぷりと塗ろう。
7. バルサ材を乾かす
 重ね合わせたら,おもりを乗せて十分に乾くまで待つ。
8. 接着完了
 接着が完了した。まだ,段差がついている。
9. 形状を整える
 木工用ヤスリで段差を削る。
10. 形状を整える
 紙ヤスリで形状を整える。
11. パテで整形
 接着面や表面の凸凹を木工用パテできれいに仕上げる。時間をかけて,ていねいに仕上げよう。
12. 穴あけ加工
 この段階で,水中プロペラを出すためのパイプやラダー(方向舵)をつけるための加工をしておく。
13. クリアラッカーを塗る
 防水のため,船体の外側と内側にクリアラッカーをたっぷりと塗る。3〜4回も塗れば,ほとんど完全に防水できる。
14. 色を塗る
 スプレーで色を塗る。今回は白と水色のツートンカラーとした。カッティングシートを使っても大丈夫。
15. 完成
 ラダーやバランサ(おもり)などを取り付ける。スターリングエンジンを載せて,薄い鉄板を曲げて作った水中プロペラを取り付ければ完成である。
模型ボートの製作用図面(Autodesk DWF format)
模型ボートの製作用型紙(Autodesk DWF format)
模型ボート付属品の部品図b1〜b6(Autodesk DWF format)
全てのCADデータをまとめてダウンロード(Autodesk AutoCAD 2000 DWG format)
全てのCADデータをまとめてダウンロード(Autodesk AutoCAD 2000 DXF format)
* DWFファイルを表示するにはAutodesk社Whip Viewerをインストールする必要があります。

おわりに

 完成したら,エンジンを始動して,水に浮かべてみましょう。そして,水中プロペラのねじり方や大きさを変えてみて,スピードが速くなるように調整してみましょう。今回作ったスターリングエンジン船は,約0.6 m/sのスピードで軽快に走らせることができました。
 速いスピードで進むスターリングエンジン船を作るコツは,水の抵抗が小さい船体と大きい推進力が発生できるスターリングエンジンの開発です。模型自動車と同様,エンジンや船体を軽くすることも重要です。船は,自動車ほど身近なものではないかもしれませんが,船が水上を流れるように走る姿はとても優雅なものです。ぜひ,皆様も高速スターリングエンジン船の製作に挑戦していただきたいと思います。なお,バルサ材はとても燃えやすいので,必ず水がある場所で運転しましょう。

模型ボートのMPEGムービー(2 MB)

[ Stirling Engine Dictionary ]
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