疲労き裂の発生を色で知らせ、その進展を自動的に抑制する 耐疲労スマートペースト ![]() 《本技術の概要》 本スマートペーストの原理は次のようなものです(上のポンチ絵をご参照下さい)。 ①アルミナ等の淡色・高硬度の微細粒を、適度の粘性を有する油中に混合して淡色のペースト状にし、これを疲労き裂の発生・伝播が予想される金属表面に予め塗布しておきます。 ②金属表面に疲労き裂が発生・伝播すると、き裂内部に微細粒ペーストが入り込み、き裂先端近傍に詰まった微細粒はくさびを形成します。 ③微細粒のくさびの反力によって、き裂は自由に閉じられなくなり、繰り返し載荷に伴うき裂面の変位が抑制され、結果としてき裂進展速度が著しく低下して疲労寿命が延びます(破断寿命比で約2~4倍)。→き裂の進展抑制効果 ④引張荷重が除荷され、き裂が閉じようとする時に、微細粒のくさびとき裂面(金属)との間には大きな反発力が発生し、相対的に硬度の高い微細粒はき裂面を強く圧迫すると同時にき裂面を一部研削します。 ⑤き裂面で研削された金属粉は黒色を呈し、き裂開閉に伴うポンプ作用によってき裂外部のペースト表面に滲み出て来ます。最初に塗布したき裂周辺のペーストは淡色なので、淡色と黒色のコントラストにより、き裂の位置や長さが容易に視認されます。→き裂の目視検出効果 本スマートペーストの特徴は、ペーストの調整や対象物への適用が非常に容易であるにもかかわらず、疲労き裂進展の自動抑制効果、発色による目視検出効果という、非常に有用な2つの機能を併せ持っているというところにあります。 《本技術の特色》 特別な機器や装備を必要とせず、グリース状のペーストを疲労き裂の発生が予想される箇所(金属表面)に塗布するだけですので、施工や検査が極めて容易です。また、除去する時も布などで拭き取るだけです。 き裂が入ると、純白のペースト中で真黒に発色するため、ある程度離れた所からでも極めて明瞭に視認することができます(下の写真をご参照下さい)。 ![]() 溶接継手の止端部に塗布した場合の発色状況 また、染料等と異なり、紫外線(日光)の照射や経時による褪色が起きません。 これまでの実験では、破断寿命比2~4倍程度の寿命延長効果が得られており、検査や補修に時間的な余裕が持てます。 《発明・開発者のコメント》 耐疲労スマートペーストは、当所独自の技術として、2003年、世界に先駆けて開発されました。実用化に際しては、適用対象を適切に選定することが重要となります。本スマートペーストを用いることにより、次のような効果が期待できます。 ・発生直後の初期段階から疲労き裂の進展が自動的に抑制され、各種機械や構造物の疲労寿命が伸びる。 ・目視検査で発見するのが難しい疲労き裂を容易に検出する事ができ、各種機械や構造物の安全性が向上する。 これまで本スマートペーストに匹敵するような2つの機能を併せ持った耐疲労スマート材料は世界的に見ても存在せず、特許庁の調査でも新規性・有用性の高いアイデアであるとの評価を得ています。 《特許情報》 <日本>特許第3808846号 (登録:平成18年5月26日) 「疲労亀裂の進展抑制方法及び検出方法、並びに、それらに用いるペースト」 特許第5257882号 (登録:平成25年5月2日) 「疲労亀裂の検出・進展抑制方法及び構造体」 <米国>US 7,963,015 B2 (登録:平成22年6月21日) "Method of suppressing extension of fatigue crack, method of detecting fatigue crack and paste used for the methods" 《関連論文》 1) 高橋一比古、牛嶋 通雄,高橋 千織,植松 進,古谷 典〒、アルミナペースト塗布による疲労き裂進展の自動抑制および目視検出、溶接学会論文集、第22巻、第4号、pp.531-541(2004). 2) I. Takahashi, M. Ushijima, C. Takahashi, S. Uematsu and N. Kotani, Automatic restraint and visual detection of fatigue crack growth by applying an alumina paste, Fatigue & Fracture of Engineering Materials & Structures, 30, 832-843 (2007). |