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令和4年5月13日

山田海難事故解析センター長及び戸澤特別研究員が「船舶の衝突安全性向上に関する特許」で、地方発明表彰「特許庁長官賞」を受賞

 <概要>
 海難事故解析センター長の山田安平及び産業システム系戸澤特別研究員は、船舶の衝突安全性向上に関する特許で、公益社団法人発明協会より、「地方発明表彰(九州) 特許庁長官賞」を共同で受賞しました。また、当該発明に至る研究実施体制構築により、海上・港湾・航空技術研究所が理事長名で「実施功績賞」を受賞しました。
地方発明表彰1
写真1 左から 栗山理事長、山田海難事故解析センター長、戸澤特別研究員

 今回の受賞は、海上・港湾・航空技術研究所、日本製鉄株式会社、今治造船株式会社の3社が共同で発明した特許「耐衝突性に優れた船体構造及び船体構造の設計方法(特許第5893231号)」に対して、その発明者が表彰されたものです。また、発明技術を実施化した海上・港湾・航空技術研究所及び日本製鉄株式会社に「実施功績賞」が贈呈され、その栄誉が称えられました。地方発明表彰については、下記をご覧ください。

 本発明は、新材料「高延性鋼板(NSafeR-Hull)」を使用した船殻構造により、超大型原油タンカー等の衝突時の破口発生を抑制し、甚大な環境被害をもたらす油漏洩リスクを低減するためのものです。NSafeR-Hullは、上記3社に日本海事協会を加えた4社の共同で開発後、既に実用化されており、超大型原油タンカー(VLCC)7隻を含め既に27隻の大型船舶に適用され、油流出防止並びに船舶の安全性向上に寄与しています。

 なお、11月6日に予定されていた表彰式は、コロナ影響のため中止となり、表彰状等は各発明者に郵送で送付される予定となっています。

<地方発明表彰>

 地方発明表彰は、各地方における発明の奨励・育成を図り、科学技術の向上と地域産業の振興に寄与することを目的として大正10年に開始されたもので、本表彰の歩みは、日本の科学技術進展の足跡といえます。全国を8地方に分け、北海道地方発明表彰、東北地方発明表彰、関東地方発明表彰、中部地方発明表彰、近畿地方発明表彰、中国地方発明表彰、四国地方発明表彰及び九州地方発明表彰を実施し、各地方において優秀な発明、考案、又は意匠(以下「発明等」という。)を完成された方々、発明等の実施化に尽力された方々、発明等の指導、育成、奨励に貢献された方々の功績を称え顕彰するものです。地方発明表彰について詳細は下記リンクをご参照ください。

地方発明表彰へのリンク:
  http://koueki.jiii.or.jp/hyosho/chihatsu/chihatsu.html

<地方発明表彰 特許庁長官賞>

  1. (1)対象となる特許:耐衝突性に優れた船体構造及び船体構造の設計方法(特許第5893231号)
  2. (2)受賞者 :
    山田 安平国立研究開発法人海上・港湾・航空技術研究所 海上技術安全研究所
    海難事故解析センター センター長
    戸澤  秀国立研究開発法人海上・港湾・航空技術研究所 海上技術安全研究所
    特別研究員
    市川 和利日本製鉄株式会社 鉄鋼研究所 厚板・形鋼・鋼管研究部 主幹研究員
    白幡 浩幸日本製鉄株式会社 鉄鋼研究所 厚板・形鋼・鋼管研究部 主幹研究員
    稲見 彰則(発明時) 新日鐵住金株式会社(現 日本製鉄株式会社) 退職
    檜垣 幸人今治造船株式會社 代表取締役社長

    以上6名

<実施功績賞>

栗山 善昭国立研究開発法人海上・港湾・航空技術研究所 理事長
橋本 英二日本製鉄株式会社 代表取締役社長

以上2名

地方発明表彰2
写真2 地方発明表彰の記念楯(特許庁長官賞×2、実施功績賞×1)

<発明の概要>

 本発明は、国際統一規格で規定された値の1.4倍以上の全伸びを有する「高延性鋼板(NSafeR-Hull)」を使用した船殻構造により、超大型原油タンカー等の衝突時の破口発生を抑制し、甚大な環境被害をもたらす油漏洩リスクを低減するものである。

 NSafeR-Hullは、上記3社に日本海事協会を加えた4社の共同で開発後、既に実用化されており、超大型原油タンカー(VLCC)7隻を含め既に27隻の大型船舶に適用され、油流出防止並びに船舶の安全性向上に寄与しています。

 発明者らは、船体の構造設計変更ではなく、衝突による船舶の損傷を軽減する材料技術を経済合理性に従って検討し、適正に配置された、延性(伸び)に優れた鋼板で衝突エネルギーを吸収し、耐衝突性能の高い船体構造を発明した。現実の事故統計を踏まえた非線形有限要素法計算により、破口発生防止のための伸びの値(臨界的意義)を合理的に従来規則の1.4倍であると求め、大型船舶の衝突安全性の向上を実現した。

 本発明は、衝突に伴う人命や積荷の損失を防ぐと共に、国際競争の渦中にある日本の造船産業の競争力強化にも資することが期待されている。なお、本鋼材を使用した船舶は、申請により「先進船舶」として認定され税制優遇対象となることができる。

(1) 開発技術の概要

 衝突安全性に優れた船体用高延性厚鋼板NSafeR-Hullを開発し、深刻な海洋汚染をもたらす船舶事故時の油漏洩防止による環境保全に貢献しました。

(2) 開発した技術

 鋼材中の不純物と介在物の極限までの低減と最新の熱加工プロセスによる金属組織制御によって従来鋼の伸び規定値より5割以上の高い伸び値を実現した世界初の船体用高延性厚鋼板NSafeR-Hullを開発しました。NSafeR-Hullを船体に適正配置することで、衝突エネルギーを吸収し、耐衝突性能を高めることができることを最先端の動的非線形シミュレーション及び大型実験で検証しました。NSafeR-Hullは、船舶の設計変更を行うことなく、材料変更のみで船舶の安全性向上・環境汚染防止に寄与する新材料として期待されています。

(3) 効果

 NSafeR-Hullは、2014年に今治造船建造の大型ばら積み運搬船に初採用され、原油タンカーからの油流出防止並びに船舶の安全性向上に寄与しています。NSafeR-Hullの適用により、衝突時の破口に伴う油漏洩の危険性を大幅に低減可能で、生態系破壊の防止やその補償のための経済損失の低減に寄与します。

地方発明表彰3
写真3 特許庁長官賞の楯(受賞者の氏名及び受賞年月日が刻印されている)