手動車いす用走行補助装置の開発

2002年3月 平田宏一,河野哲平

研究テーマの概要
 動揺している船舶において手動車いすを運転する場合,その操作は著しく難しくなり,暴走・転倒といった危険性が高まります。本研究では,車いすの横ぶれを少なくする方法について検討し,動揺条件下において暴走を防止するための走行補助装置を提案します。さらに設計・試作した走行補助装置の有効性を明らかにすることを目指しています。
車いすの横ぶれを少なくする走行補助装置

 車いすは,船の動揺の影響を受けて,蛇行走行になりやすくなります。そこで,蛇行(横ぶれ)を防ぐための走行補助装置を考えました。

A. 前輪キャスタの旋回角制御
 車いすの前輪には,キャスタが取り付けられています。それにより,車いすは小回りができます。しかし,床が動揺している場合や傾斜している場合,前輪には進行方向を保とうとする力は働かず,前輪が簡単に下向きに動くため,横ぶれが生じやすくなります。そのため,前輪キャスタの旋回角を制御することで,横ぶれを抑えることができると考えられます。

B. 後輪の駆動力制御
 車いすは,左右後輪の駆動力を変化させることで旋回します。すなわち,床が動揺している場合や傾斜している場合,谷側(下側)の後輪に駆動力を与える補助装置を取り付けることで安定した走行が可能になると考えられます。しかし,車いすに駆動力を与える補助装置をつける場合,高度な制御が行われないと,暴走の危険性を高まると考えられます。

C. 後輪のブレーキ制御
 後輪に駆動力を与える補助装置を取り付ける代わりに,ブレーキを制御することでも安定した走行が可能になると考えられます。そこで,左右後輪のブレーキ操作を自動的に行おうというのがこの案です。

D. 重心位置制御
 車いすの走行特性は,重心位置によって大きく異なると考えられます。すなわち,重心位置を任意に制御することでも,動揺条件下の車いす操作を容易にすることができると考えられます。

手動車いす用走行補助装置の構造

 以上のような検討を行ったのち,本年度は,どのような手動車いすにも取り付けが簡単であり,しかも正確で安全な補助効果を得られると考えられた「C. 後輪のブレーキ制御」の実験装置を開発することにしました。
 下の図は開発した走行補助装置です。実際の車いすを動揺条件下で操作する場合,状況に応じてブレーキ力を調整する必要があります。本装置では,マイクロコンピュータとラジコン模型用サーボモータを用いることにより,任意にブレーキ力を調節できる構造としています。また,振り子を応用した傾斜角センサを製作し,車いすの左右方向の傾斜角度が約3度及び5度の際に2段階でマイクロスイッチが作動します。このスイッチの組み合わせで,サーボモータの運動を制御し,ブレーキ力を調節しています。

マイクロコンピュータのページ:詳細についてはこちらをご覧ください。

走行補助装置の構造

走行補助装置の外観

手動車いす用走行補助装置の性能
 本走行補助装置が手動車いすの操作特性に及ぼす影響を調べるため,別途開発した動揺をイメージした走行路面において走行実験を行いました。走行路面の全長は約10mであり,その中央右側にスペーサを入れ、波状のねじれを作ることにより動揺をイメージしています。
 右の図は,傾斜角度を5度にした場合のブレーキ制御の有無によるトルク変化の様子です。これより,ブレーキ制御を行わない場合,走行距離が5〜6 mの区間において,手動によりブレーキ力を与えることで方向修正していることがわかります。一方、ブレーキ制御を行った場合,ブレーキ操作をほとんど行うことなく,左右にほぼ均一なトルクを与えていることがわかります。このような実験より,製作した補助ブレーキ装置は動揺面での操作の困難さを低減できることが確認されました。

実験結果(傾斜角度5度)
まとめ
 本研究で開発した補助ブレーキ装置は,波状の走行面において操作の困難さを低減できることを確認できました。しかし,船舶の動揺は非常に複雑であり,本走行補助装置に採用した振り子式センサでは車いすの状態を的確に測定できないと考えられます。多軸の重力加速度センサなどを用いることで本装置の高性能化が可能になると考えらます。また,本走行補助装置は,ハンドリムに駆動力を加えてる時にもブレーキが働くため駆動の操作をわずらわしく感じることがあります。ハンドリムへの駆動力の有無を感知するセンサを取り付けるなど,慣性走行時のみにブレーキを作動させることができれば,より快適な操作を期待できます。
付録
手動車いす用走行補助装置・開発日誌
手動車いす用走行補助装置のデモンストレーションムービー(MPEG1形式,1.3 MB)
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