講義ノート:もの作りのための機械設計工学
第5章 軸と軸受の設計
5.2 カップリング
カップリング(軸継手)は,軸と軸をつなぐために使われる要素部品である。例えば,エンジンの出力軸と発電機とをつなぐ場合や自動車の回転軸と車軸とをつなぐ場合などに使われている(図5.9)。
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図5.9 カップリングの使用例
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5.2.1 カップリングの種類と特徴
図5.10〜図5.14にいくつかの代表的なカップリングを示している。カップリングには様々な形式があり,それぞれに異なった特徴がある。設計の際には,機械に最も適していると考えられる形式を選定する必要がある。
(1) フランジ形軸継手
図5.10に示すフランジ形固定軸継手は,2枚の円板(フランジ)を複数本のボルトで固定する形式である。図5.11のフランジ形たわみ軸継手は,図5.10の固定軸継手のボルト部分にゴムを挿入した構造であり,軸の衝撃や振動を吸収できるという特徴がある。これらの軸継手は,詳細な寸法がJISによって規格化されており,比較的大きい機械でよく使われている。
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図5.10 フランジ形固定軸継手
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図5.11 フランジ形たわみ軸継手
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(2) ゴム・樹脂カップリング
図5.12のゴム・樹脂カップリングは,2本の軸の間にゴムなどの軟質材料が挟まれる構造であり,衝撃的な荷重を吸収することができる。形式や大きさなど,様々なものが市販されている。

図5.12 ゴム・樹脂カップリング
(三木プーリ社カタログより)
(3) 金属カップリング
図5.13に示す金属カップリングは,回転方向の「遊び(バックラッシュ)」が少ないので,回転運動を正確に伝えることができる。

図5.13 金属カップリング
(三木プーリ社カタログより)
(4) ユニバーサルジョイント
図5.14に示すユニバーサルジョイントは,2本の軸が比較的離れた位置にある場合や2本の軸の角度が大きい場合に使われる。

図5.14 ユニバーサルジョイント
(三好キカイHPより)
5.1.2 カップリングの強度
通常,カップリングの強度は,各メーカのカタログに許容トルクで表されている。カタログに記載されている。表5.3はその一例であり,三木プーリ社CPUシリーズ(図5.9,図5.13参照)の仕様である。設計時には,これらの値を参考にして,カップリングを選定する。
表5.4 カップリングのカタログの一例

5.1.3 カップリング選定の要点
以下,カップリングを選定するに当たっての要点をまとめる。
(1) 許容トルク
軸に作用するトルクを求め,カップリングの許容トルクがそれを上回るようにする。
(2) 軸との固定方法
カップリングの形式によって,軸との固定方法は様々である(5.3節参照)。機械の構造や用途に適した固定方法を選ぶ(図5.15)。
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図5.15 軸との固定方法
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(3) トルク変動
衝撃的な荷重や大きなトルク変動が加わるかを判断する。エンジンの出力軸のように,トルク変動がある場合,平均トルクではなく,最大トルクがカップリングの許容トルクを下回るようにする(図5.16)。また,カップリングで衝撃を吸収したい場合,ゴムカップリングが適している。
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図5.16 トルク変動
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(4) 回転角度の精度
ロボットアームの運動などでは高精度な運動が必要になる(図5.17)。軸の回転角度に高い精度が必要な場合,高いねじり剛性が必要であり,ゴムカップリングは適していない。
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図5.17 回転角度の精度
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(5) 軸の位置精度
2本の軸の高さの違い(偏心)や傾きの違い(偏角)などが大きい場合,使用可能なカップリングは限られてくる。カップリングの形式やカタログに記載されている許容取付誤差などを考えなければならない(図5.18)。また,軸の支持位置なども十分に検討しなければならない。
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図5.18 軸の位置精度
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軸心を出しやすい形状
2本の軸の高さや角度を合わせることを「心(芯)を出す」という。通常の機械加工では,フライス加工で板材を組み合わせて軸心を合わせるよりも,旋盤加工で同心円上の軸心を合わせる方がはるかに簡単である(図5.19)。高い精度で心(芯)を出す必要がある場合は,できる限り旋盤で加工できる形状にするとよい。
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図5.19 軸心を出しやすい形状
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(6) 大きさと形状の制限
カップルリングの大きさ(形状)の制限を考える。小型化を目指した機械では,軸方向の長さを短くする必要が生じたり,あるいは,高い回転数で運動する機械では慣性モーメントを減らすために直径方向の大きさを小さくする必要が生じたりする。
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