講義ノート:もの作りのための機械設計工学
第6章 歯車機構の設計

6.3 歯車の強度



 歯車自体を設計する場合を除き,歯車機構の設計において,歯の強度を計算することはほとんどない。通常は,歯車メーカーのカタログに記載されている許容トルクや許容伝達動力の値を参照する。設計において最も重要なことは,どの程度の負荷が加わるのかを正しく推測することである。



6.3.1 歯車の材質

 言うまでもなく,歯車の強度は歯車の材質によって大きく異なる。市販されている歯車では,炭素鋼(S45C)やステンレス鋼(SUS304)が一般的である。モジュールが1以下の小型の歯車では,炭素鋼やステンレス鋼のほか,黄銅製(C3604B)やプラスチック製(ポリアセタールなど)の歯車が市販されている。
 表6.2はモジュール1,歯数100の市販されている歯車(協育歯車製)の許容伝達動力を示している。同一の寸法でS45C,SUS304およびポリアセタールを比較すると,S45Cが最も大きい動力を伝達でき,SUS304はその半分,ポリアセタールはその20 %程度の強度である。

表6.2 歯車の材質と許容伝達動力の例(協育歯車カタログより)



6.3.2 歯車のカタログ

 表6.3は,モジュール0.5の黄銅(C3604B,C3713P)製歯車のカタログ(協育歯車)の一部を抜粋したものである。実際に歯車を選定する場合,このようなカタログから適切な歯車(形状,歯数,モジュール,材質など)を選ぶこととなる。また,表6.3(b)に示すように,カタログには許容伝達動力(あるいは許容トルク)が記載されているので,実際に使用する機械の動力やトルクを見積もり,歯車を選択する。

表6.3 歯車のカタログ協育歯車カタログより一部抜粋)

(a) 主要寸法

(b) 許容伝達動力

 なお,2.1節で述べたように,動力L(出力,W),トルクTq(Nm)および回転数N(rpm)には次式の関係がある。

       (6.3)

 歯車の強度は歯面にかかる力(N),すなわち,トルク(Nm)に関係するため,許容伝達動力(W=Nm/s)は,回転数が低くなるほど小さくなる。したがって,減速された歯車ほど,強度に気をつけなければならない。


6.3.3 強度計算の概略

 歯車自体を設計する場合や歯車を限界に近い状態で使用する場合,歯車の詳細な強度計算が必要になる。以下,その概略について説明する。

(1) 歯の曲げ強さ
 歯車の歯に作用する力は極めて複雑であるが,一般に,ピッチ円の接線方向の力が1枚の歯先に作用するものと考える(図6.20)。ルイスの式と呼ばれる算定法を用いて,最も壊れやすいと考えられる断面での曲げ応力を求める。

(2) 歯面強さ
 歯面の強さは,歯面に作用する接線方向の力のほか,歯面同士の摩擦力の影響を受ける。そのような場合,「ヘルツの最大接触応力」と呼ばれる接触面に変形を伴う場合の応力に基づいて強度計算を行う。


図6.20 歯の曲げ強さ

(3) 焼付き強さ
 焼付き(スコーリング)は,歯面の上昇に伴い,発生しやすくなる。焼付きについて検討する場合,ヘルツの最大接触応力や潤滑の状態などを考慮した詳細な計算が必要である。


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