講義ノート:もの作りのための機械設計工学
第7章 シール装置の設計技術

7.3 Oリング



 図7.10に示すOリングは,断面が円形(O形)をした合成ゴム製のリングである。比較的安価で多様な寸法がそろっているので,液体や気体の静的シールおよび動的シールとして様々な機械に使われている。


図7.10 Oリング



7.3.1 Oリングの装着方法

 Oリングは一般に溝に装着される。主な装着方法は,図7.11に示す3種類である。


図7.11 Oリングの装着方法

(1) 外面への装着
 図7.11(a)のように,材料の外面にOリングを装着する方法が最も簡単であり,突切りバイト(図3.5参照)を使った旋盤加工によって比較的簡単に溝を作ることができる。図7.12は魚ロボットの胴体部分のシール装置としてOリングを使用した例である。機械の寸法や構造に特別な制限を受けない場合,材料の外面にOリングを装着するとよい。


図7.12 外面への装着

(2) 端面への装着
 機械の寸法や構造の制限を受ける場合,図7.11(b)のように,材料の端面にOリングを装着することがある。図7.13は実験用スターリングエンジン(図6.27参照)のシリンダにOリングを使用した例である。高さ方向をできる限り短くする必要があったため,フランジ部の端面にOリングを装着している。


図7.13 端面への装着

(3) 内面への装着
 軸の運動などをシールする場合,図7.11(c)のように,材料の内面にOリングを装着することがある(図7.14)。内面への装着は,Oリング溝の加工が著しく難しくなるため,上述の外面や端面に装着できる場合には採用しない方がよい。


図7.14 内面への装着

端面や内面にOリング溝を削る
 端面のOリング溝は,突切りバイトに似た形状のバイトを使用して旋盤により加工する(図7.15)。刃先を側面に当てて,ゆっくりと横方向(左)に送っていく。Oリング溝の直径が小さい場合,刃先以外が部品に当たらないようにバイトの側面を直径に合わせて削っておく必要がある。溝の寸法を高い精度で削るのが難しい。
 内面のOリング溝を作る場合,図7.16に示すような特殊なバイトを使用して旋盤により加工する。この装着方法は,加工が著しく難しくなるので,できる限り採用しない方がよい。


図7.15 端面の溝加工

図7.16 内面用溝切りバイト



7.3.2 Oリングのカタログ

 主要なOリングはJISによって規格化されており,通常はOリングの寸法に合わせて機械の寸法を決定する。表7.1はOリングのカタログ(NOK社)の一部を抜粋したものである。このように,Oリング溝の寸法や許容差などはカタログに詳細に記載されている。

表7.1 Oリングのカタログ(NOK社カタログより一部抜粋)



7.3.3 設計時の注意事項

 以下,Oリングを使用する際の機械設計における注意点をあげる。

(1) Oリング溝の寸法
 Oリングを適切に機能させるためには,カタログに記載されている通りにOリング溝の寸法許容差を指定する必要がある(図7.17)。


図7.17 Oリング溝の寸法

(2) 傷の防止
 Oリングに傷があると,適切なシール性能が保たれない。通常,OリングやOリングに接する部品の脱着時に傷をつけやすいので,部品の穴部や軸部に十分な面取り加工を施す必要がある(図7.18)。


図7.18 傷の防止

(3) 溝部の表面粗さ
 Oリングを適切に機能させるためには,Oリングが接触する部分を滑らかな表面粗さにしなければならない。一般に,固定用(静的)よりも運動用(動的)の方が高い表面粗さ精度が要求される(表7.2参照)。

表7.2 溝部の表面粗さ(NOK社カタログより一部抜粋)

(a) 運動用および固定用(円筒面)

(b) 固定用(平面)


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