講義ノート:もの作りのための機械設計工学
第7章 シール装置の設計技術

7.4 オイルシール



 オイルシールは,様々な機械の回転部分に使用され,主に内部からの潤滑油の漏れを防ぐと同時に,外部からの異物の進入を防ぐために使われている。図7.19は,自動二輪車(ヤマハSDR)のエンジン部分の構造を示している。このように,潤滑油を利用する機械では多くのオイルシールが使われている。

図7.19 オイルシール
(ヤマハ,SDR,サービスマニュアルより)



7.4.1 オイルシールの構造

 図7.20にオイルシールの構造を示す。オイルシールには様々な形状があるが,一般にゴム材料のくさび状のリップがあり,リップ外側のばねにより,リップ先端を軸の表面に押し付けて密封している。また,機械的強度を保つために,金属板によって外周部を補強している形式が多い。

図7.20 オイルシールの構造



7.4.2 オイルシールの寸法

 オイルシールは,各シールメーカーによって様々な形式・材質のものが市販されている。しかし,その主要寸法(取付寸法)はJISによって規格化されているので,通常の機械設計においては規格化されたオイルシールに合わせて部品形状を決める。表7.3にオイルシール寸法の一例を示す。

表7.3 オイルシールの寸法(JIS B2402より一部抜粋)



7.4.3 設計時の注意事項

 以下,オイルシールを使用する際の注意事項をあげる。

(1) 傷の防止
 Oリングと同様,オイルシールのシール面(主としてリップ部分)に傷がつくと,適切なシール性能が保たれない。通常,オイルシールを脱着する際に傷をつけやすいので,部品の穴部や軸部に十分な面取り加工を施す必要がある(図7.21)。


図7.21 傷の防止

(2) ハウジング穴の寸法
 オイルシールを取り付ける穴(ハウジング穴)は,使用するオイルシールの形式,寸法に適した寸法に仕上げる必要がある。図7.22に示すように,オイルシールを適切に挿入するためのハウジング内径のはめあい(寸法公差),オイルシール外面のシールを保つための表面粗さの指定が必要になる。また,挿入時にオイルシールを傷つけないために面取り部にも表面粗さを指定する。


図7.22 ハウジング穴の寸法

(3) 軸の寸法と表面粗さ
 同様に,オイルシールに挿入される軸のはめあい(寸法公差)や表面粗さ,表面硬さも使用するオイルシールの形式や状態に合わせる必要がある(図7.23参照)。適切な軸が使用されないと,シール性が保たれないだけでなく,リップの摩耗が大きくなったり,あるいは軸を傷つけたりする。


図7.23 軸の寸法と表面粗さ

(4) 軸心
 オイルシールはラジアル荷重やスラスト荷重を受けることはできないため,軸受(5.4節参照)として使うことはない。通常,オイルシールを使用する場合は軸受と併用し,軸とオイルシールの軸心を正確に合わせなければならない(図7.24)。


図7.24 軸心を合わせるための構造


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