講義ノート:もの作りのための機械設計工学
第7章 シール装置の設計技術
7.5 シール装置の使用例
図7.25に示す実験用スターリングエンジンには,多くのシール装置が使われている(図7.26)。本エンジンを例にとり,以上にあげたシール装置やその他のシール装置の使用例を紹介する。
100W級スターリングエンジン「Ecoboy-SCM81」

図7.25 実験用スターリングエンジン
|

図7.26 スターリングエンジンのシール装置
|
7.5.1 Oリングの使用例
本エンジンは運転時に約1 MPaのヘリウムを封入する。本エンジンのシリンダなどでは,そのシール装置として,Oリングが使用されている(図7.27)。静的シールとして使用しているため,比較的簡単に漏れを止めることができる。しかし,ゴム製Oリングは,温度が高い箇所では使用できないので,高温シリンダ部は溶接(ろう付け)による一体構造としている。
|

図7.27 Oリングの使用例
|
7.5.2 メカニカルシール
エンジンの出力を外部に取り出すため,回転軸部に動的シールが必要である。高圧のヘリウムガスをシールし,しかも摩擦損失が少なくなければならない。本エンジンでは,メカニカルシールと呼ばれるシール装置を使用している(図7.28)。図7.29に示すように,メカニカルシールは2つのシール面をばねの力で押し付けることで密封している。
また,メカニカルシールには,焼き付きや摩耗を防止するため,潤滑油を供給する必要がある。そのため,潤滑油を貯めておく部屋を設け,その潤滑油がクランク室に侵入しないようにオイルシールを用いている。

図7.28 メカニカルシール
|

図7.29 メカニカルシールの構造
|
7.5.3 ピストンリング
スターリングエンジンは,パワーピストンの両端の圧力差を利用して外部への仕事を発生させている。したがって,エンジンの出力低下を防ぐため,ピストンからのガスの漏れをできる限り押さえなければならない。しかも,ガソリンエンジンなどの内燃機関と異なり,スターリングエンジンは構造上,ピストンのシールに潤滑油を使うことができないので,シール性や摩擦損失,シール材料の摩耗の点で不利である。そのようなことから,本エンジンでは,PTFE(テフロン)製の分割式ピストンリングを使用している(図7.30)。 |

図7.30 ピストンリング
|
7.5.4 リップシール
本エンジンでは,ディスプレーサの往復動ロッド(図7.26参照)にリップシールと呼ばれるシールを使用している(図7.31)。リップシールは,オイルシールと同様な原理で,リップを軸に押し付けて密封している。本エンジンでは,シール面がPTFE製のリップシールを使用しており,できる限り摩擦損失を押さえるようにしている。このようなシールは,高い軸心精度が要求されるため,設計時あるいは組立時に細心の注意を払う必要がある。
|

図7.31 リップシール
|
7.5.5 配管のシール
ヘリウムの吸入部や測定機器の取り付け部などの配管には,市販されている配管部品を使用している。最も代表的な配管部品として,スウェジロック社のチューブ継手部品がある(図7.32)。これは,継手部品を締め付けることで内部の部品がチューブに強く押し付ける構造をしており,かなり高い圧力まで使用できる。
|

図7.32 配管のシール
|
配管部品
|
|