講義ノート:もの作りのための機械設計工学
第9章 機械システム設計

9.6 風力エネルギー利用船の概念設計



 現在,エネルギー問題や環境問題が地球規模での深刻な問題として取りざたされている。それらの諸問題を考えた場合,太陽熱や地熱(温泉熱),風力などの自然エネルギーを有効に利用することが望ましい。本節では,その一例として,風力エネルギーを利用した大型船について考えてみる。



9.6.1 風力エネルギーの利用方法

 風力エネルギーを船舶に利用する場合,船上に風車を利用した発電システムを搭載する方法(図9.39)と船上に帆を取り付けて,風力エネルギーを直接推進力として利用する方法(図9.40)が考えられる。発電システムを搭載する方法は,回収する電気エネルギーを扱いやすいという特徴があるが,風力エネルギーの有効利用といった点では帆に劣る。一方,帆を取り付ける方法は,風力エネルギーを最も有効に利用できる方法である。しかし,現在の船のほとんどはディーゼルエンジンを搭載しており,帆船が使われていないことからもわかるように,風力だけで推進する船はほとんど実用レベルに達しない。そのため,エンジンと帆の両方を搭載した風力エネルギー利用船について考えてみる。


図9.39 発電システムを搭載する方法


図9.40 風力エネルギーを直接推進力として利用する方法



9.6.2 風力エネルギー利用船の性能試算

 図9.40および表9.2に示した風力エネルギー利用船をベースにして,風力エネルギーの有効性を概算した。計算において,北太平洋の風向・風速(図9.41)を参考にし,帆の性能や船の抵抗を推測した。

表9.2 想定する船


図9.41 北太平洋の風向・風速
船舶海象気象データベースより)

 図9.42は,船速Vに対する利得出力Weff(船の推進に利用される風力エネルギーに相当)の計算結果を示している。これより,利得出力Weffは,船速V並びに風速vの上昇に伴って増加していることがわかる。これは,風力エネルギーの利用が船速Vの上昇によって大きくなることを示しているが,船速Vの上昇に伴い,より多くのエンジン出力が必要になるため,船速Vの上昇が燃料消費を低減しているとは一概には言えない。また,北太平洋の平均風速と思われるv=10 m/sの場合,船速15 knotにおいて利得出力Weffは約3000 PSであった。これは想定するエンジン出力の約20 %に当たる。


図9.42 計算結果



9.6.3 まとめ

 本節では,風力エネルギー利用船の概念的な計算結果について紹介した。このような大型機械を実際に作り上げるためには,より詳細な性能試算,より多くの実験的検討,さらに装置のメンテナンスや装置を動かすためのエネルギー試算,船の操作性や安全性など,多くの総合的な設計を進める必要がある。


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