ファジィ理論を応用した魚ロボットの運動制御
1999/12/27更新 平田宏一
魚ロボットの制御手法
より人間に近い知的な制御を目指し,ファジィ理論,ニューロ及び遺伝的アルゴリズム等を利用した新しい制御手法が注目を浴びています。これらの手法は,高い精度性や確実性を要求することなく,取り扱いやすさ,低コストを達成するために使用されます。そのため,魚ロボットのように高精度な解析が難しく,複雑な物理現象を扱う場合に有効な手法であると考えられます。
ファジィ制御の適用方法
魚ロボットの速度Vと消費電力Welに着目したファジィ理論の適用方法を検討しました。運動形式を簡易的に扱う場合,魚ロボットの制御パラメータは周波数f,最大振れ角Amax及び位相差βの3つになります。以下,制御モデルを簡単にするため,周波数fは一定とし,最大振れ角Amaxと位相差βとが制御変数であると考えます。
ファジィ理論は,厳密な数値ではなく,主観的な考えに基づく制御規則(ルール)を定め,制御手順を決める手法です。したがって,以下の検討においては,数値による記述ではなく,「速い」,「遅い」,「大きい」,「小さい」といった曖昧で定性的な特性に着目します。
今までに得られた実験結果や設計計算に用いた簡易計算モデルにに基づくと,最大振れ角を大きくすると速度及び消費電力は大きくなり,最大振れ角を小さくすると速度及び消費電力が小さくなります。同様に,位相差βが20〜90 deg程度の範囲において,位相差を小さくすると速度及び消費電力は大きくなり,位相差を大きくすると速度及び消費電力が小さくなります。
これらを踏まえた主観的な考えに基づき,次の8つの制御規則を適用することにしました。
- 速度が速くて,消費電力が小さいならば,最大振れ角を変えない。
- 速度が速くて,消費電力が大きいならば,最大振れ角を小さくする。
- 速度が遅くて,消費電力が小さいならば,最大振れ角を大きくする。
- 速度が遅くて,消費電力が大きいならば,最大振れ角を大きくする。
- 速度が少し速くて,消費電力が少し小さいならば,位相差を変えない。
- 速度が少し速くて,消費電力が少し大きいならば,位相差を大きくする。
- 速度が少し遅くて,消費電力が少し小さいならば,位相差を変えない。
- 速度が少し遅くて,消費電力が少し大きいならば,位相差を小さくする。
計算モード
速度V*と消費電力Wel*に着目した運動制御において,最大振れ角Amax及び位相差βには,速度と消費電力との兼ね合いから,設定する運転モードに対する最適値が存在すると考えられます。そこで右図に示すように,
(i) 速度重視モード:消費電力があまり大きくなく速度が速い運転モード
(ii) 効率重視モード速度があまり遅くなく消費電力が小さい運転モード
の2通りのメンバーシップ関数を用いてシミュレーション計算を試みました。
また,実際の魚ロボット(PPF-04)に適応させるため,最大振れ角の上限を40 degとし,位相差を20〜90 degの範囲で制御を行うこととしました。
計算結果の一例
左図は,速度重視モードのメンバーシップ関数を用いた場合のシミュレーション計算の結果です。これより,計算開始直後,最大振り角は上限の40 degに達し,さらに約60回の計算まで位相差は低下していることがわかる。約120回の計算後は,位相差27 deg,最大振り角40 deg,速度V *=65,消費電力Wel*=80にほぼ収束しています。
右図は,効率重視モードのメンバーシップ関数を用いた場合のシミュレーション計算の結果です。これより,計算開始直後,最大振り角は上限の40 degに達し,さらに約70回の計算まで位相差は低下し,速度及び消費電力が急速に増大していることがわかります。その後,約180回の計算まで位相差及び最大振り角が徐々に低下し,速度を維持しつつ,消費電力を低減させる制御を行っています。約200回の計算後は,位相差25 deg,最大振り角24 deg,速度V *=50,消費電力Wel*=57にほぼ収束しています。
あとがき
魚ロボットの運動制御に用いるファジィ理論の適用方法について検討し,簡易的なシミュレーション計算を行いました。その結果,8つの制御規則を用いることで,魚ロボットのファジィ制御が可能であること,メンバーシップ関数によって収束する値は大きく異なること,等が確認されました。
さらに多くの経験的なデータベースを構築することで,制御規則及びメンバーシップ関数の設定が容易かつ適切になると考えています。また,ファジィ制御には学習機能が基本的になく,得られる解が最適であるかは保証されません。今後,ニューロあるいは遺伝的アルゴリズム等の利用を検討する必要があると考えています。
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Koichi Hirata
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