魚ロボットの運動解析モデルの検討


1998/10/12 平田宏一


まえがき

 魚ロボットは、尾ひれおよび尾柄が運動することによって、重心周りにトルクを受け、回転運動をすると考えられます。この重心周りの運動は小さいほど制御性に優れ、この回転運動は魚ロボットの慣性モーメントに影響を受けるものと考えられます。慣性モーメントは重量物の形状および配置に関係するため、魚ロボットの設計において、その影響を調べておくことは重要です。以下、重心周りの回転運動を考慮した解析モデル(Fish_ana23.exe)の概略および計算結果例について説明します。


解析モデル

 右の図に解析モデルを示します。同図に示すように、魚ロボットを5つの平板に分割します。

各部の座標、速度および加速度

 魚ロボットの重心Gの座標を(Xg,Yg)とした場合、頭部先端P0(Xg,Yg)、関節1の位置P1(X1,Y1)、関節2の位置P2(X2,Y2)、関節3の位置P3(X3,Y3)および尾ひれ先端P4(X4,Y4)の座標は次式で表されます。

(1)
(2)
(3)
(4)
(5)
(6)
(7)
(8)
(9)
(10)
ここでαgは重心回りの角度であり、その計算方法については後述します。α1、α2およびα3は、それぞれ関節1、関節2および関節3の角度であり、関節1と関節2とは同位相で運動し、関節3の運動はそれらに対してΔαの位相遅れがあるとした場合、次式で与えられます。

(11)
(12)
(13)

ここでα1max、α2maxおよびα3maxは、それぞれ関節1、関節2および関節3の最大角度です。位相θは角速度ω=dθ/dt(rad/sec)、時間t(sec)および周波数f(Hz)と次の関係があります。

(14)

 平板に作用する荷重は、P0〜P4の中点に働くものと仮定します。それら中点の座標は式(1)〜(14)から容易に求めることができます。また、各点の速度Vおよび加速度Aは、式(1)〜(14)を微分することで求められますが、その関係式は極めて複雑になるため、今回は数値解析的に解くこととしました。

各部に作用する荷重

 それぞれの平板には、抗力Frおよび慣性力Fiが作用すると仮定し、次式をそれぞれの中点に対して適用します。

(15)
(16)

ここで、CDは抵抗係数(=1.2)、ρは密度(=1000 kg/m3)、Sは平板の面積、mは平板の質量です。

重心周りのトルク

 重心回りのトルクTqは、重心から各中点までの距離をrGとすると、近似的に次式で求められます。

(17)

上式における±は、右回り(時計回り)を+、左回り(反時計回り)を−にとります。

サーボモータのトルクおよび出力

 サーボモータに作用するトルクは、式(15)および(16)により求まる荷重および各関節から中点までの距離との積で表されます。サーボモータch1のトルクをTq1、ch2のトルクをTq2、ch1の角度変化をdα1、ch2の角度変化をdα2すると、それぞれのサーボモータが1サイクル当たりに消費するエネルギW1、W2(J)は次式で表されます。

(18)
(19)

したがって、各サーボモータの出力E1、E2(W)およびサーボモータの駆動に必要な全出力Etは、周波数f(Hz)を用いて次式で求まります。

(20)
(21)
(22)



重心回りの回転運動

 重心周りの回転運動の計算には、以下の3種類の計算手法を用います。

(1) 正弦状の運動

 最も簡易的な計算手法として、重心周りの回転運動を最大振れ角αgmaxの正弦波で表し、次式で計算します。ここで、重心周りの回転運動の位相が問題となりますが、ここでは関節1および2の運動の反力が支配的であると考え、それに対向する運動をすると考えます。

(23)

(2) 静的な運動方程式

 回転運動の運動方程式は、慣性モーメントI、角速度ωおよびトルクTqを用いて次式で表されます。

(24)
ここで、微小時間Δtにおける変位角Δαgは次のように表されます。


(25)

Δtは計算上の時間幅を表しており、式(25)から変位角Δαgおよびαgを算出することができます。
 一方、重心周りの慣性モーメントIは構成要素の形状と質量から求めることができますが、一次設計の段階で詳細に検討するのは簡単ではありません。したがって、図1(d)に示すような円柱を想定し、次式で求まる慣性モーメントIを参照します。

(26)

なお、L=1 m、Rg=0 m、ρ=1000 kg/m3とした場合、D=100 mmでI=0.67 Nms2、D=200 mmでI=2.93 Nms2、D=300 mmでI=7.48 Nms2、そしてD=400 mmでI=15.5 Nms2となります。

(3) 動的な運動方程式

 式(24)の運動方程式は次のように変形することができます。

(27)

したがって、次の微分方程式を数値解析的に解くことにより、αgを求めることができます。

(28)

 この手法は、エンジンのフライホイルのように一定の回転方向の場合に適用できます。しかし、魚ロボットの場合、回転方向が反転する。式(28)からわかるように、計算において、角速度ωが0に限りなく近づくとき、すなわち重心周りの回転運動が限りなく遅くなるとき、dω/dθは無限大に発散し、ωは急激に加速されることになります。これは計算上の不具合となるため、計算プログラムでは角加速度の最大値を適宜設定し、さらにω=0とならないように計算結果を補正しています。


計算結果例

計算条件

 計算条件を下の表に示します。これらの値は計算プログラムの動作を確認するための設定値であり、実際の設計においては詳細な検討が必要です。

表 計算条件

要素

名称

記号

単位

主要寸法

関節1の最大角度

α1max

20

deg

関節2の最大角度

α2max

40

deg

関節3の最大角度

α3max

30

deg

尾ひれの位相遅れ

Δα

90

deg

全長

L

1

m

全重量

M

15L3

kg

各部長さ

頭端部−重心

LF

0.40L

m

重心−関節1

LR

0.17L

m

関節1−関節2

L1

0.13L

m

関節2−関節3

L2

0.13L

m

関節3−尾端部

L3

0.17L

m

各部面積

頭端部−重心

SGF

0.080L2

m2

重心−関節1

SGR

0.050L2

m2

関節1−関節2

SA

0.023L2

m2

関節2−関節3

SB

0.016L2

m2

関節3−尾端部

SC

0.026L2

m2

各部質量

頭端部−重心

MGF

0.2M

kg

重心−関節1

MGR

0.3M

kg

関節1−関節2

MA

0.2M

kg

関節2−関節3

MB

0.2M

kg

関節3−尾端部

MC

0.1M

kg

計算条件

慣性モーメント

I

1.5〜20

Nms2

計算繰り返し数

Rep

10

cycle

計算ステップ

DegStep

1

deg

係数

Cd

1.2

重心周り許容角度

αglim

90

deg/cycle


正弦状の運動

 図2(a)および(b)は、式(23)を用いた正弦運動の計算において、周波数f=1 Hzとし、重心周りの最大振れ角度αgmaxを5 deg.、10 deg.および15 deg.とした場合、それぞれ位相θと点Bの速度Vbとの関係および位相θとサーボモータch1のトルクTq1との関係を示しています。これより、最大振れ角度αgmaxが大きいほど速度Vbは低下し、トルクTq1は小さくなることがわかります。
 図3(a)および(b)は、同計算条件において、それぞれ位相θと点Cの速度Vcとの関係および位相θとサーボモータch2のトルクTq2との関係を示しています。図2と同様、最大振れ角度αgmaxが大きいほど速度Vcが低下し、トルクTq2は小さくなります。また、図2において、速度VbおよびトルクTq1は滑らかに変化するのに対し、図3において、速度Vcは0になる付近で不連続となり、トルクTq2は複雑な変化を示す。これは計算プログラムにおいて各速度を解析的に解いていないことが原因の一つであると考えられます。

図2 正弦状の運動(ch1)

図3 正弦状の運動(ch2)

静的な運動方程式

 図4は、式(25)の静的な運動方程式を用いた計算において、周波数f=1 Hzとし、慣性モーメントI=1.5 Nms2、I=2.0 Nms2およびI=2.5 Nms2とした場合、位相θと重心周りの角度αgとの関係を示しています。これより、角度αgはおおむね正弦状に変化しており、最大角度αgmaxは慣性モーメントIの増加に伴い大きくなることがわかります。
 図5(a)および(b)は、同計算条件において、それぞれ位相θと点Cの速度Vcとの関係および位相θとサーボモータch2のトルクTq2との関係を示しています。これより、I=1.5〜2.5 Nms2の範囲で、速度VcおよびトルクTq2はほとんど変わらないことがわかります。また、図3(b)と同様、トルクTq2は速度Vcが0になる付近で複雑な変化を示しています。

図4 重心周りの角度(静的)

図5 速度とトルク(静的)

動的な運動方程式

 図6は、式(28)の動的な運動方程式を用いた計算において、周波数f=1 Hzとし、慣性モーメントI=10 Nms2、I=15 Nms2およびI=20 Nms2とした場合、位相θと重心周りの角度αgとの関係を示しています。この慣性モーメントIは図4の計算と比べてかなり大きくなっていますが、これは慣性モーメントIが約10 Nms2より小さい場合、計算上の不具合が生じたためです。同図より、微分方程式(28)の解は収束しておらず、複雑な挙動を示していることがわかります。また、I=10 Nms2とした場合、高周波の振動が現れており、適切な解が得られていないことがわかります。今後、計算に用いた基礎式および微分方程式の解法について検討する必要があります。
 図7(a)および(b)は、同計算条件において、それぞれ位相θと点Cの速度Vcとの関係および位相θとサーボモータch2のトルクTq2との関係を示しています。これらは複雑な変化をしており、式(18)〜(22)を用いても適切なサーボモータの出力を算出することはできません。

図6 重心周りの角度(動的)

図7 速度とトルク(動的)


コメント

 魚ロボットの重心周りの回転運動を含めた解析モデルを構築しましたが、残念ながら、適切な解を得ることはできませんでした。特に運動方程式を用いた場合、速度が0となる付近での計算に問題があります。また、上記の計算は機械設計を前提としており、流体力学的な荷重を考慮していません。今後、計算手法を検討するとともに、推進力、魚ロボットの速度、流体抵抗等を詳細に考慮することで、魚ロボットの運動をシミュレートできるものと考えられます。



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Koichi Hirata
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