講義ノート 機械工学科の学生のための初級メカトロニクス
第9章 メカトロニクス機械の制御技術
 機械の制御とは,目的とする状態に保つために適当な操作を加えることです。一般に,機械工学の分野においては,人間が操作することなく,自動的に制御すること(自動制御)を指すことがほとんどです。すなわち,機械を自動制御化することによって,人間への負担が低減できると同時に,機械は適切な運転状態に保たれることになります。以下,最近のメカトロニクス機械で使われている制御技術を紹介します。 ●制御に関連する用語
 制御工学やメカトロニクスの教科書を開くと,多くの「制御」が見つかります。これらの「制御」を系統立てて分類することはできません。
「機械制御,フィードバック制御,自動制御,サーボ制御,電圧制御,プロセス制御,シーケンス制御,ON-OFF制御,リニア制御,PWM制御,インバータ制御,ファジィ制御,最適制御・・・」
9.1 機械式制御と電子制御

 マイコン制御ばかりが制御ではありません。電子機器を使わなくても機械の制御は可能です。ここでは,機械式制御と電子制御のそれぞれの特徴を考えてみます。
(1) 機械式制御
 機械の自動制御の歴史は古く,18世紀に開発されたワットの蒸気機関にも,エンジン回転数を一定に保つための自動制御装置(遠心調速機)が取り付けられている。この制御機構では,おもりの遠心力と地球の重力とのつり合いによって,バルブの開閉を行っています。

19世紀の蒸気機関

遠心調速機
(2) 電子制御
 最近ではマイコンをはじめとする電子技術が発展したため,多くの機械に電子制御が利用されています。
 例えば,最近の自動車用エンジンでは,@排気ガスの浄化(NOx,CO,HC),A燃費の向上(CO2),B加速性能やエンジンの応答性の向上を目的とした電子制御化がなされています。

自動車用ガソリンエンジン
●自動車用ガソリンエンジンの電子制御
 自動車用ガソリンエンジンの電子制御を詳しく見てみましょう。自動車用エンジンでは,必要とする燃料の量と噴射のタイミングを電子制御装置によって正確に制御しています。
 エンジン制御項目としては,@空燃比制御,A点火時期制御,Bアイドリング回転数制御 (外乱の影響),BEGR制御あどがあります。

ガソリンエンジン

三元触媒の構造と浄化率

自動車用エンジンの制御システム
9.2 フィードバック制御の概要

 一般の制御では,入力信号に対して,どのような出力信号が得られるのかが重要になります。フィードバック制御は,目標値と実際の制御量の差を計算して,入力条件を求める制御方法です。
入力信号と出力信号
(1) フィードバック制御の要点
@入力と出力の関係は,微分方程式で表されることが多い。(ラプラス変換の必要性)
A制御系の時間遅れ(応答性)や安定性が重要となることが多い。
 実際の機械制御においては応答性(時間遅れ)が重要になることが多い。速ければよいと言うわけではない。

フィードバック制御のブロック線図
(2) フィードバック制御とシーケンス制御
 フィードバック制御とは,目標値と実際の制御量の差を計算して,入力信号を決める制御です。それに対して,シーケンス制御とは,あらかじめ決められた手順(プログラム)に従って制御の各段階を決めていく制御です。実際のメカトロニクス機械では,これらを組み合わせて使うことがあります。
9.3 インバータ制御

 インバータ制御は,交流モータの回転数を制御する制御手法であり,機器の省エネルギー化にとても重要あ技術です。
(1) インバータの基本構造
 インバータとは,直流を交流に変換すること,またはその装置のことです。逆に,交流を直流に変換すること,またはその装置をコンバータと言います。一般の交流電源は,周波数が一定(関東では50Hz)です。インバータよって任意波形の交流電源を作ることができるので,交流モータの速度制御などが可能となります。

インバータの基本構造
(2) インバータの使用例と必要性
 インバータのいくつかの使用例を見てみましょう。
 例えば,インバータ制御のエアコンは,きめ細かい温度調節の制御ができるため,省エネルギー効果が高いと言われています。
 例えば,コジェネレーションシステムで,直流蓄電池(バッテリ)に電気エネルギーを貯めておくことができます。
 高周波数の交流を使えば,蛍光灯のちらつきが低減できます。さらに,インバータ制御によって調光が可能となります。

(a) エアコン
(b) コジェネレーション
(c) 蛍光灯
インバータの使用例
(3) インバータの問題点
●高周波の電源を利用するため,電波障害や騒音などが発生する。ノイズ低減は非常に重要な技術
●インバータでの損失がある(10%程度)。システムの省エネ化(高効率化)が重要!「インバータ制御=省エネ」は間違い!
9.4 新しい制御方法

 フィードバック制御などの従来の制御方法は,あらかじめ計算で合わせていく方法であり,不確定な因子に弱いと言われています。以下,より実際的な制御方法を紹介します。
(1) ファジィ制御
 ファジィ理論は,数値ではなく,言葉による制御規則(ルール)を定式化し,制御手順を決める手法である。経験的なデータベースが多くある場合,ルールの設定は比較的容易であり,また完全なルールは要求されない。しかし,ファジィ理論には学習機能が基本的になく,得られる解が最適であるかは保証されない。したがって,ニューロあるいは遺伝的アルゴリズムによってルールを決める例もある。


魚ロボットのファジィ制御(メンバーシップ関数)
(2) ニューラルネットワーク
 ニューロは,人間の脳の機能を積極的に真似ようとする考えに基づいています。すなわち,何かを見て,それが何であるかを認識し,必要に応じて行動を起こすといった人間には容易な思考をコンピュータに学習させることです。この手法は,数値データを用いた情報処理に適しており,入出力データからの学習能力に優れています。

魚ロボットのニューロモデル
(3) 遺伝的アルゴリズム
 遺伝的アルゴリズムは,淘汰,増殖,交叉,突然変異といった生物の進化の過程を模擬した情報処理手法です。対象とするシステムの様々なパラメータの集まりを一つの「遺伝子」と見なして表現し,多くの異なった遺伝子を作って,上述の過程を適用させていきます。すなわち,複数のモデルを評価し,優れた物を交叉させ,より優れたモデルを増殖させることができます。
 多くの組み合わせの中からの優れた能力の遺伝子を見つけることができますが,最初に複数のモデルを構築する必要があります。

魚ロボットの遺伝的アルゴリズム

遺伝的アルゴリズムによる解析イメージ
【演習問題】

(1) 機械式制御と電子制御の特徴(利点,問題点)をまとめ,機械式制御が適した機械の例をあげなさい。

(2) フィードバック制御とシーケンス制御の特徴(利点,問題点)をまとめ,シーケンス制御が適した機械の例をあげなさい。

(3) 電力の省エネルギー化の具体的な方法を5つ考えなさい。

(4) ファジィ制御,ニューラルネットワーク,移転的アルゴリズムなどの新しい制御方法は,日常生活や生物の仕組みを利用した制御方法と言える。日常生活あるいは身の回りで何らかの「制御」をしている実例をあげなさい。

(5) 機械の自動化が進んだことによる弊害を考えなさい。
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