機械設計のための基礎製図
第2章 線の種類
2.1 機械製図における線の重要性
前章で述べたように,製図は機械を作るための情報伝達手段として使われるため,誰が見ても正確かつ明瞭にわかるものでなければならない。その最も基本となるのが,「正しい線と見やすい文字」である。機械製図で使う線はJIS(日本工業規格)で決められているので,それに従って作図しなければならない。
Vブロックって何?
今回の講義では,Vブロックと呼ばれる機械加工の際に使用する工具を作図する。Vブロックは,主に円柱形状の材料や部品を固定するために使用する工具である。講義のはじめにVブロックの使用方法について説明し,機械加工と機械製図の関係について考えてみる。
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鉄製のブロック(直方体)にV型の溝が掘ってある。機械製図の演習などでよく出てくるが,実際に使ったことがある学生は少ないようである。
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溝に円柱形状の材料や部品を置き,けがき(材料に線を引くこと)を行う場合などに使用する。
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使用例:円柱部品の穴あけ
模型スターリングエンジンの加熱キャップを作る手順を説明する。加熱キャップは円柱状の部品であり,中心から8mmずれた位置にボルトで固定するための4つの穴があいている。
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これから製作する加熱キャップの図面。機械加工の際にはこのような図面(部品図)を見ながら作業を進める。
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弓のこ盤と呼ばれる工作機械を使用して,材料を切り出す。
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旋盤を使って,円筒形状を仕上げる。
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チャックに固定した材料を回転させ,それに刃物(バイト)を当てて削っていく。
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加熱キャップの中央の穴は旋盤で加工する。旋盤による穴あけ加工は,簡単に位置精度を上げることができる。
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旋盤加工を終えた部品。あとは円周上の4つの穴をあければよい。
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部品を固定するためのねじ(クランプ)がついたブロックを使用する。
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上面のV型の溝に部品を固定する。
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先端がけがき針となっているハイトゲージを使う。デジタル表示されるので,簡単に高さを合わせられる。
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ハイトゲージを使って穴の中心位置に線を引く。この線が図面の中心線に相当する。
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ブロックを倒して同じように中心線をけがく。
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直交した4本の線をけがいた部品。4つの交点が穴の中心である。
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交点に印をつけるためにセンターポンチを使うセンターポンチの先端は尖っていて,もちろん部品よりも硬い材質である。
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4つの交点にセンターポンチで印をつける。
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センターポンチで印をつけた部品。
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穴あけ加工にはボール盤を使用する。
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ボール盤に直径3.2mmのドリルを取りつけて穴をあける。
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完成した部品。図面通りに仕上がっている。
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以上は,機械加工において,Vブロックを使用した一例である。部品に穴をあける場合,穴の位置は穴の中心位置で決められる。すなわち,図面に中心線がないと,穴(円)の位置が決められない。機械製図では中心線が重要であることがわかる。
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2.2 線の種類
図2.1に本講義で用いる線の種類とその用途について示す(教科書p.15 表2-1参照)。なお,JIS規格では線の太さの基準を(0.18),0.25,0.35,0.5,0.7,1,1.4,2 mmとし,細い線と太い線との比を1:2とすると記されているが,本講義では太線を0.7mm,細線を0.3mmの太さとする。重要なのは,細い線と太い線が明確に区別できることである。製図の初心者は,線の太さ(太い・細い)と線の濃さ(濃い・薄い)と混同することが多い。見やすい図面を描くためには,全ての線を濃く太く,または濃く細く描く必要がある。
図2.1 線の種類
以下,図2.2に示すVブロックを例にして,本講義で使う5種類の線を紹介する(教科書p.14 図2-2参照)。
(1) 太い実線
線の太さが0.7 mmの連続した線であり,対象物の見える部分の形状を表す(外形線)。
(2) 細い実線
線の太さが0.3 mmの連続した線である。寸法の記入,寸法の引き出し,あるいは記述の引き出しの際に用いる(寸法線,寸法補助線,引出線)。
(3) 細い破線
線の太さが0.3 mmの短い線(3 mm)と短い切れ間(1 mm)で構成される線である。対象物の見えない部分の形状を表す(かくれ線)。
(4) 細い一点鎖線
線の太さが0.3 mmの長い線(30 mm)と1本の短い線(1 mm)で構成される線である。図形の中心や図形が移動した中心の軌跡を表す(中心線)。主に,位置決定を行うための線であり,機械製図では重要である。
(5) 細い二点鎖線
線の太さが0.3 mmの長い線(30 mm)と2本の短い線(各1 mm)で構成される線である。隣接する部分や工具などを参考に表す(想像線)。
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図2.2 Vブロックの製図
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注意したい!
機械製図では,太い線と細い線を使い分ける。ここで注意しておきたいのは,太い線も細い線も「濃く」描くことである。
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2.3 課題
【課題@:平行線の作図】
ドラフタを使って,5種類(太い実線,細い実線,細い破線,細い一点鎖線,細い二点鎖線)の平行線を描きなさい。
●ドラフタを使用する際には無理な力を加えて動かさないように注意すること。
【課題A:円弧の作図】
コンパスを使って,5種類(太い実線,細い実線,細い破線,細い一点鎖線,細い二点鎖線)の平行線を描きなさい。コンパスで作図する線は薄くなりがちなので注意しなさい。
●製図台に穴をあけないように,製図用具に付属している中心器を使うこと。
●円弧と直線の継ぎ目をきれいに仕上げること。
●円弧と直線が同じ太さ,同じ濃さの線になるように注意すること。
●コンパスで作図する線は薄くなりがちなので注意すること。
【課題B:Vブロックの作図】
Vブロック(円柱材料の固定やけがきに使用する道具)を作図しなさい。その際,線の種類が明確に区別できるように注意しなさい。
●実寸大で描くこと(単位はmm)。
●寸法も記入すること(右図の位置)
【課題C:文字】
文字や数字も製図の一部である。用紙の右下に,文字の高さを12 mm程度として,学籍番号と氏名を明瞭に書きなさい(教科書p.16 図2-6,p.17 図2-7参照)。
●丁寧に書く。濃く書く。
【課題D:感想】
今回の講義でわかったこと,感じたことなどを用紙の余白に記入してください。
配布プリントのPDFファイル(平成14年度)
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