小型スターリングエンジンの設計手法と性能予測法に関する研究

小型エンジンの設計・試作


設計フローチャート

 エンジンの設計・試作は、右図に示しているフローチャートに基づいて進めました。 このように、基本方針、エンジン形式の選定、基本構造に始まり、要素設計、熱サイクルの検討を繰り返して、最終的な詳細設計、試作を行っています。
 以下に、これらの概略と、試作したエンジンの特徴について説明します。


設計の基本方針

 本研究の目的の一つとして、「可搬式の小型発電機を駆動させるための、小型・軽量なスターリングエンジンの開発」があります。そのため、エンジンの小型・軽量化、構造の簡単化及び低コスト化を目指して設計を行いました。
 右の表は、目標性能及び概略の仕様を示しています。目標出力は100 W、目標の熱効率は20 %です。これらは、圧力や温度、そしてエンジン重量等を考慮して決定しています。
 従来の高出力エンジンの作動ガスには、ヘリウムあるいは水素が用いられています。しかし、ヘリウムは高価であること、そして水素は危険性が高いこと、などの問題点があります。一方、安価で安全性が高い窒素は、その実用性に優れるものと考えられます。そこで、試作エンジンの作動ガスには、ヘリウムと窒素の2種類を用いることとし、それぞれの作動ガスを用いた場合の特性を評価・検討し、その実用性について考察しています。
 エンジン内の最高圧力は、1.1 MPaと設定されており、従来の高出力エンジンと比べて、かなり低い値です。これは、小型・軽量化、そして、エンジンの可搬性・安全性を考慮しているためです。
 また、膨張空間ガス温度は、650 ℃に設定されており、従来のエンジンのガス温度と比べて、やや低い値です。これは、従来のエンジンではヒータ材料に、ハステロイなどの高価なニッケル合金を用いているのに対して、本試作エンジンでは、ヒータ材料として、より一般的なステンレス材を用いることでエンジンの低コスト化を図っているためです。


エンジンの基本構造

 以上の基本方針に基づき、エンジン形式やピストン・熱交換器の配置について検討を進めた結果、右図のようなエンジンの構造を採用することとしました。
 再生器をディスプレーサピストンに内蔵し、その上下に、内管が往復動する、特殊なバヨネット式ヒータ及びクーラを配置しています。ヒータ及びクーラは、それぞれディスプレーサピストンに取り付けた内管、その外側の外管とを組み合わせて構成されています。そして、インナーチューブは、ディスプレーサピストンの動きに伴って、往復動をします。
 作動ガスが膨張空間から圧縮空間へ流れる場合、膨張空間から流出した作動ガスはヒータの外管と内管との間の環状部を通り、上端部で流れの向きを変え、内管の内部の空間を通り、再生器へ流れます。さらに、作動ガスはヒータと同様の構造を持つクーラを通り圧縮空間へと流れます。
 パワーピストンとディスプレーサピストンとを直線上に配置することにより、β形に類似したシリンダ配置となっています。そのことによって、従来のγ形と比べて大幅な小型・軽量化を実現しています。
 このエンジンの大きな特徴は、エンジンの小型化、構造の簡単化のために採用した、内管往復動式熱交換器、そして、ピストン駆動機構に採用した、スコッチヨーク機構です。


内管往復動式熱交換器

 右図は、左側が従来のバヨネット式熱交換器、右側が内管移動式の熱交換器です。内管往復動式熱交換器は、今までに例のない構造なので、伝熱計算を行う際、伝熱面積の設定が問題となります。従来のバヨネット式では、環状部と内管を作動ガスが通るときに伝熱が行われると考えらますが、このような熱交換器ではディスプレーサピストンとの間の熱伝導によって、内管の温度が低下することが予想されます。そこで、この熱交換器は、環状部だけで伝熱が行われると考え、伝熱計算を行いました。熱伝達率の計算は、円管内の往復流に対する評価式より求めます。
 左図は、エンジン回転数と、熱伝達の大きさを表すユニット数との関係を示しています。これより、バヨネット式熱交換器のユニット数は、エンジン回転数が低くなるに従い、急激に増加し、内管往復動式熱交換器と比べてかなり大きくなっていることがわかります。しかし、エンジン回転数が高い場合、その相違は小さくなっています。
 したがって、定格回転数である、1000 rpm程度において、内管移動式熱交換器は、従来のバヨネット式熱交換器とほぼ同等の伝熱性能を有すると考えられます。


スコッチ・ヨーク機構

 スコッチヨーク機構の特徴について考察するため、スコッチヨーク機構と、従来からよく用いられている、クロスヘッド機構との性能比較を行います。右図は、それぞれの機構の荷重計算のモデルを示しています。それぞれの機構において、ピストンに作用する荷重Fpに基づく、クランクピンに作用する荷重Fcp、主軸に作用する荷重Fcs及びガイドに作用する荷重Fdmを算出します。それぞれの荷重から、それぞれの作動部における機械損失を計算し、機械効率により性能比較を行います。
 右図は、それぞれの機構において、ストロークStを20 mmとし、この図に示している、高さ方向の基準寸法lmと機械効率ηm*との関係を示しています。それぞれの機構の機械効率ηm*は、基準寸法lmを長くするに従って、ガイドに作用する荷重が小さくなるため、高くなっています。
 これより、スコッチヨーク機構の機械効率は、クロスヘッド機構の機械効率より高いことがわかります。すなわち、スコッチヨーク機構は、高さ方向の基準寸法が等しい場合、クロスヘッド機構より機械効率の点で有利であることがわかります。


熱サイクルの解析

 エンジンの基本特性を予測するため、ディスプレーサピストンとシリンダの隙間にある作動ガスの熱伝導によるシャトル損失、ディスプレーサピストンの側部におけるポンピング損失、シリンダ壁での熱伝導損失、再熱損失、熱交換器における圧力損失を考慮して解析を行いました。
 左図は、試作エンジンの仕様に基づき、解析モデルで得られた計算結果であり、エンジン回転数に対する、有効熱入力、冷却熱力、図示出力、そして、各熱損失の計算結果を示しています。エンジン回転数1000 rpmにおいて、図示出力は約253 W程度であり、これは設計条件を満たしていることがわかります。また、各熱損失は、熱伝導損失及びシャトル損失が、他の熱損失と比べて大きくなっていることがわかります。これは、試作エンジンでは、再生器における圧力損失を低減させるために、ディスプレーサピストンの長さを十分に長くとることができなかったため、ディスプレーサピストンの長さに反比例する熱損失が、増加しているためです。
 左図は、エンジン回転数と内部変換効率及び図示熱効率の関係についての計算結果を示しています。これより、内部変換効率は約55 %程度であり、エンジン回転数の上昇に伴って、わずかに低下しますが、その低下率は極めて小さいことがわかります。これは、試作エンジンの圧力損失が小さいことを表しています。また、図示熱効率は、回転数に依存しない熱伝導損失及びシャトル損失の影響を大きく受けるため、高回転域で高い値を示す傾向にあり、エンジン回転数1000 rpmにおいて、約30 %であることがわかります。


試作エンジンの構造

 以上の検討を繰り返した結果、右図のようなエンジンを試作しました。再生器をディスプレーサピストンに内蔵して、その上部に内管往復動式ヒータ、下部にクーラを配置しています。そして、ピストンの駆動機構には、スコッチヨーク機構を採用しています。それぞれのピストンは、ボア径72mm、ストローク20mmです。
 左図は、従来のβ形エンジンと本研究で開発した新型のγ形とを比較したものです。従来のβ形では、再生器をディスプレーサピストンの外側に配置していますが、試作エンジンは、再生器をディスプレーサピストンに内蔵することで、エンジン内部の空間が有効に用いられ、エンジンが非常に小型化しているのがわかります。
 また、左のエンジンのピストン駆動機構は、クロスヘッド機構を用いていますが、これをスコッチヨーク機構とすることで、高さ方向に非常に小さくなっていることがわかります。


まとめ

(1) 以上に、小型ポータブル発電機を駆動するための動力源を主な用途とした、小型スターリングエンジンの設計・試作を行った。
(2) ディスプレーサピストンに再生器を内蔵するとともに、内管が往復動する新型のバヨネット式熱交換器を採用することにより、γ形スターリングエンジンの小型・軽量化を実現した。
(3) 熱・流体的諸損失を考慮してエンジン性能を試算した結果、設計目標の性能を満足させることが可能である、と予想される。


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